第33話 vs 期待煽り系監督

「堤」

「うん?」


出席番号8番、佐津栄吉。


「お前は立派だな」

「へっ?」


映画部に所属する、映像作りのスペシャリスト。まぁ、本人にとっては至って並な技術で、ちょっと勉強すれば誰にでも作れるレベルだって言うんだけど、電子機器が苦手な私にとっては、とても真似できないと脱帽する。そんな彼が、片目を閉じて、映画監督のように両手の親指と人差し指を使って長方形を作り、自家製の画面越しに私を見ながら、何のきっかけもなく急に賞賛を送ってきた。


「何事にも一所懸命で、友人たちの要望を可能な限り叶えようとする。誰にでもできることじゃない。素直に尊敬する」

「ちょ、い、いきなりすぎ・・・。褒め殺しは止めてよ・・・」

嬉しいけど・・・真正面から褒められるって、何だかもの凄く恥ずかしかった。

「今お前は、俺の『想像したい女子ランキング』1位だからな」

「なにその不穏な空気しか感じないランキング!?」

嬉しいと思った気持ち返上してほしい!!

「想像を捗らせる雰囲気、これを醸し出すことは立派な人間の魅力だ。ミステリアスガールっていうのは魅かれるだろ?」

「そうかもだけど・・・。素直に喜べないし・・・」

「ま、急に言われてもそうか。悪いな、部活の関係上、どうしても俺は人の魅力を想像を働かせるか、に主眼を置きがちになる」

「映画部の?」

「今、ある映画の予告を撮ろうと思ってな、その題材を思案中なんだが、なかなかいい案が出なくてな」

「映画の、予告?」

本編じゃなくて?

「ああ、俺が撮っている作品は基本的にすべて予告だけだ。本編は存在しない」

「予告だけ・・・」

変わってる・・・。

「映画がヒットする条件。いろいろあるだろうが、その要素の一つとして確実に、予告が面白そうに作られているか、これがある」

まぁ、アニメ映画とかには、予告しかない台詞とかあるもんね。

「期待していたのに、本編がそうでもなかった、そんなものはザラだろ?でも、そんなことは実際に見てみないと分からない。いかに上手く相手を内容に興味を引かせるかが大事なんだよ」

確かに。

「週刊漫画もそうだ。いかに上手く引くか。『もしかしたら来週、メインヒロインがいない中で、主人公とサブヒロインの関係が縮まるのか?』なんて引かれたら、続きが気になるだろう?まぁ、期待していたら何も起きなかった、何てのも往々にしてあるが」

「やけに具体的だね・・・」

「・・・ホント、この前のAVなんか完全に期待外れだったからな・・・」

「あー・・・」

また、そっちに話寄っちゃったよ・・・。

「堤は女子だからあまり詳しくないだろうが、今日は一つだけ覚えておけ」


「AVはパッケージがすべてだ」


「いや知らないし!!脳細胞の無駄遣いレベルの情報!!」

そんな熱意ある目で言わないで!!

「・・・あのさ、みんな別に無理からえっちな内容を絡ませてこなくていいんだよ?普通に話せるでしょ・・・」

「ん?そうなのか?堤と話すときは18禁の内容を絡ませることが暗黙の了解だと思っていた」

「ないよ!そんな了解は!!」

「それと『無理から』じゃない。これは話の流れとして必然だ」

「必然なの・・・?」

「例えば、『とてつもなく大きな塔があった』と、こんな一文が小説にあったとして、読み手は想像するわけだ、自分が思う塔を。だが、それが映像化されると、読み手にとっては『こんなもんか・・・』と期待外れだと思う場合も多い。つまり、想像するだけなら可能性は無限大なんだよ」

お、いいよ、いい感じだよ、しっかりした論が展開されてるよ。

「AVも同じだ。パッケージを見ることですべてを想像する。どんなプレイなのか、どんな声を出すのか・・・、その時点で、想像は無限大なんだ」

あーもう!せっかく良い感じのお堅い理論展開だったのに!

「つまり!DVDを売るにはセンスのあるパッケージは必然なんだよ!」

「ちょっと!?急に、いかにして売上を伸ばすかの会議になってるけど!?」

「身を以て実感したからな・・・。予告編、パッケージともに完璧だった・・・。普段はあまり期待しないようにしている俺が期待してしまうほどだったのに・・・」

「いや分かったから!どれだけ引きずってるわけ!?」

「まぁいい、何も損なことばかりじゃない。お蔭で夢ができたからな。将来、そのAVの予告編を超える予告を作るという・・・な!」

「・・・あ、そ・・・。ま、頑張って・・・」

夢が屈折してる気がするけど、これ以上は言わないでおこう・・・。


「しかし、流石は堤だ。少し話すだけでだいぶ刺激になった」

「・・・そうなの?」

まぁ、役に立ってるならいいんだけど・・・。こちらとしては、感触ゼロなんだよね。

「あと少し、あと少しなんだが・・・」

うーん、こればっかりは自分で閃いてもらうしかないもんなぁ・・・。

「む、そう言えば、この前老李ろうりに言われていたな。姉になってくれ、って」

「聞いてたのね・・・。でも何で急にその話を?」

「いや、何となく気になってな。女子が大勢いる中で、どうして堤を姉に指名してきたのかは聞いたのか?」

「あ」

そういえば、何で私なのか聞いてなかったな・・・。普通、一番最初に聞くべきところなのに・・・。

「でもまぁ、特に大した理由はないんじゃない?ただ私が頼みやすいってだけで・・・」

って、これって何か私が都合の良い女みたいだけど。

「確かに、大した理由はないかもしれないし、逆に、堤じゃなければならない理由があるのかもしれない」

佐津くんは人差し指をこちらに向ける。

「私じゃないと・・・?」

思い当たる節はないけど・・・。

「そして、その理由を俺が知っているとしたら・・・どうする?」

にやりと不敵な笑みを浮かべる。

「・・・どうする、って・・・。差し支えなければ教えてほしいけど・・・」

「後悔、しないんだな?」

「こ、後悔・・・?」

え、そんな重い理由なわけ?

「・・・う、うん・・・」

そこまで言われたら、逆に気になるし・・・。

「よし、分かった。実はな・・・」

「じ、実は・・・?」


「・・・!!そうか・・・!」


「え?」

「それだ・・・!それならばいけるな・・・」

「あれ?佐津くん?」

「堤、礼を言う。今まさに、劇的な題材を思いついた。悪いが早速作業に取り掛かりたいから、ここは失礼する」

「あ、ちょっ・・・」

たたた、と小走りで堤くんは私の前から去る。えー、あそこまで引っ張っておいてここでお預け・・・?物凄く気になるんだけど・・・。


「・・・なるほど、内容に感心させたら勝ちってこういうことか・・・」


to be continued...

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