このマウンドに一番立ちたい!

道山 神斗

第一話 出会い

 あの日俺が投げた球は誰よりも輝いていた、それは天高く舞い上がる龍のように轟々しく、大地の恵みの森のように静寂な美しさ、全てを兼ね備えたそんな球だった。


「バチン!」


 ミットに吸い込まれていく、気持ちのいい音が鳴り響く。

 中学最後の夏、最高の球で締めくくった。


 時は遡り中学1年春


「陸上部どうですかー?」


「バレー部、バレー部はいかがですかー?」


「剣道部来てくださーい!」


 滋賀県にある私立未江ノ島中学、部活が盛んで進学校、文武両道を体現としたような学校だ。

 さて俺はここで出会いを求めに行こうとしているのだ、出会いとはそう青春だ! 彼女とともに海にでも行けたら最高だ! ここのパンフレットをもらって速攻で俺は猛勉強をした、そして受かった。


「くぅー苦労したかいがあったってものだ」


 周りの女子はめっちゃ可愛い、まじで可愛い、こりゃ完璧な青春を送れる気がするってもんだ!


「ドン!」


 前方を確認しないで歩いていたので前にいた人とぶつかってしまった、


「あ、すいませ⋯⋯」


「いったたーごめんねー」


 ショートヘアーで整った容姿、身長は少し低め、うんタイプだぁぁぁぁ!


「いや、俺が前見てなかったのが悪かったすまん」


 あ、やっべ、俺普通に女子と喋ってるまじやっべ、小学校の時なんてこんな事有り得なかったのに、中学パワーやっべー。


「いやー私もドジっ子だしね、そーだ! 教室まで一緒に行こ」


「あ、ああ別にいいけど」


 勝った、ワイ12歳、勝利を収めた。


「私、木ノ宮(きのみや) 凛(りん) って言うの」


「俺は神楽坂(かぐらざか) 道晴(みちはる) よろしくな」


 初めての自己紹介が女子とって俺マジで勝ち組じゃね、それもこんな可愛い子となんてまじで最高だと思うんだよ。


「みっちーって部活決めた?」


 はいあだ名貰いましたあんがとござんす!


「いーやまだだけど」


「私ね野球部入るつもりなんだ! みっちーもどう?」


 ⋯⋯野球⋯⋯ね⋯⋯


「誰もお前にはついて行かねーよ」


「君には推薦の話は無い、帰ってくれ」


嫌なものを腐った思い出を思い出してしまった。


「? どうしたの?」


「あ、いや何でもない⋯⋯」


 そして話している内に俺は野球部に行く羽目になった。


 そして時間は過ぎ放課後となった。

 入学式とレクリエーションが終わって放課後となった、この日から部活見学は有りと聞いている、そして今俺は隣に木ノ宮を連れて野球部の見学に行こうとしている。


「楽しそうだねー」


「そうだな、どこの部活も声出してそして全力で、かっこいいな」


 だがそれでもどこの部活よりも俺が目を惹いたのは白球を追いかけるあの部活だった。


「いくぞ!」


「よぉし!」


「いち! 「そーれ!」 に! 「そーれ!」 さん! 「そーれ!」し! 「そーれ!」 えのしまー! ふぁい! 「よし!」」


 アップだけだった、それに魅了されてしまった、かっこよく中学生とは思えない位の気迫があった。


「すげぇ⋯⋯」


「知ってる? ここのね野球部は創部5年目のまだまだ新米の野球部らしいの、でもね去年全中の県大準優勝、すっごく強いらしいの」


 それは知らなかった、全中で準優勝は強い、しかも滋賀県と言えば私立の名門 王海高校付属中学、志賀学園付属中学、櫻未兄弟社中学と名門揃い、そしてクラブチームも滋賀KBoys、と化け物が集まっているチームがある。

 そんな中で全中準優勝は凄いな。


「ん? なんや君達見学かい?」


 監督らしき中年の男の人が来た、


「はい」


 そう答えるとにこりと笑って


「そんじゃあここで見といて、そうや君、今ジャージかなんか持ってるかい?」


「あ、はい今日貰った中学指定のジャージなら」


「んじゃあそれ着て部活参加してみ、お嬢ちゃんは見学でいいかい?」


「はい! いいですよ!」


 初日から部活に参加させられることになった。


「全員集合!」


「よし!」


 全力ダッシュで監督の前に集まった、そして


「今日見学に来てくれた子だ、君挨拶して」


「あ、はい、神楽坂 道晴です、小学校の時は熊崎レンパーズに所属していました、よろしくお願いします」


 周りがざわめく、ああ嫌だこの雰囲気嫌いだ。


「熊崎レンパーズの神楽坂ってあの?!」


「高円宮杯、優勝チームにして決勝戦でノーヒットノーランを達成したあの?!」


「まあ一応⋯⋯」


「す、すげー」


 嫌な思い出だから思い出したくはなかったけれど思い出してしまった。

 監督さんが俺を見て「ふむ、そうか⋯⋯」と言って


「古田、ユニフォームの余りとグローブを貸したれ、横谷、バッティングの準備しとけ」


「はい!」


 俺は古田って人に連れていかれてユニフォームに着替えることになった、着替えてる最中。


「お前なんでここ来たの?」


 ニコニコと笑いながら俺に問いかける、腹が立つ位の笑顔だった。


「⋯⋯逃げてきた、とでも言っときます」


 これも1つの事実だしな、逃げてきたって言い方はあながち間違いでは無いと思う。


「逃げてここまで来たと、んじゃもう1つ質問、

 うちの4番抑えられる?」


 唐突でそして俺と闘志にもう1度火をつける質問をぶつけてきやがった、相変わらず笑顔で楽しそうだから俺も笑って


「確かに逃げてきたけど、俺も一端の全国一のエース、4番くらいねじ伏せます」


 その発言に少し驚いてそんでもって大笑いをした、涙が出るくらい大笑いしていた。


「いいね! お前最高だわ! OK俺が今日捕ってやるよお前の球」


 これが俺と古田一紀(ふるたかずき)との出会いだった。


 少しブルペンで投げる、軟式の感触が懐かしい、少し緊張する。


「まずストレートからいこうか、まあど真ん中打たれるって気持ちで投げてみろ」


「誰がそんな気持ちで投げっかよ!」


 思いっきり振りかぶる、右足に全体重を乗せる、右の内転筋に力を込めて左足に体重を移動させる。腰から回って背中に、肩甲骨に力がいき、そこから肩に、肘に、手首に、そして全ての力が指先に宿る、全神経を集中させてそして放つ!

 その球は光りみたく輝きを持ってミットに吸い込まれていく。


「バチン!」


 久しぶりに聞いたこの音は俺の気持ちを奮い立たせた。


「ナイスボール」


 ここに最強バッテリー誕生す。

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