第2話 選択
私は、通って来た道を戻り、洞窟の出口に向かった。辺りは真っ暗で、自分がしっかりと進んでいるのかよく分からなかった。音も全くせず、あらゆる感覚がなくなったのではないかと錯覚してしまう程だ。
おかしい......。入ってきた通りなら、もう出口に出ていてもおかしくない。だが、一向に外の光すら見えない。
不安にかられ、まっすぐ進んで行くと、また、自称死神男が相変わらず、目を開けながら、いびきをかいていた。男は、私の気配を感じ、まばたきを一回すると、いびきをかくのをやめ、言った。
「あっ、また、会ったね。ポテチ持ってきた?」
ポテチ......。いや、ポテチなんてどうでもいい。今起きている状況を理解しようとするので精一杯だ。
私が茫然とした様子で佇んでいるのを見て、男は言った。
「その様子だと、おじさん、洞窟の出口にたどり着けなかったみたいだね」
「何なんだ、この洞窟は!?君は一体何者なのかね」
「名乗る程のものでもございません」
「はやく名乗りたまえ!!」
「前に言ったとおり、死神だよ」
「死神だと......。私は夢でも見ているのか」
私がそう言った瞬間、頬に強烈な痛みが走った。
「いたい!?」
思わず、声に出してしまった。私の頬は、いつの間にか死神の右手につままれていた。しかも、ポテチの油がついたネチョネチョの手でつままれたせいで、不快感は倍増だ。それに、このにおい。こいつ、しょうゆ味のポテチが好きなのか。
死神が、再び寝転びながら言った。
「ね、夢じゃないでしょ」
「いきなり何なんだね、君は!!」
「死神でございやす!!」
「知ってるよ!!」
こいつとの話しは、普通の対話に比べ疲れが段違いだ。こいつには、私が積み重ねてきた話のセオリーが全く通じない。まるで未知の生き物と対話しているみたいだ。
「おじさんには、迷いがあるんだよ。だから、洞窟から出られないんだ」
「私に、迷い。そんなことはない。そんなことは」
「おじさんには二つの選択しかないんだよ。洞窟の奥に進みあの世にいくか、洞窟の外に出てポテチを買いにいくか、どちらかしかないんだ!!」
「ポテチはもういい!!私は生きるか死ぬか迷っているということだな、つまり」
「そういうことだよー。どうする、生きちゃう?死んじゃう?残り10秒以内に答えてね。それでは、シンキングタイムスタート!!」
そう言うと、死神はスマホを取り出しタイマーを設定した。
「えっ!?そんなこと言われても......」
私は、困惑していた。やはり、私は迷っていのか。はぁ、疲れたな。ここで楽になってもいいか。どうせ、働く会社もなく、ただ、会社を行くふりをして公園でブランコを揺らす日々。生きていたって、死んでいるのと変わりない。
「ねー、まだー。あと5秒ぐらいだよ。ささっと、ファイナルアンサー決めちゃってよ」
あと、5秒か。こうなったら、答えるしか。
ピロリンピロリンピロリンピロリン。
突然、死神のスマホから音が出た。あと、5秒ぐらいあるんじゃなかったのか。
「ということで、時間になったので僕が勝手に決めちゃうよ。お進み下さい、洞窟の奥へ」
死神が洞窟の方に手をやり、お辞儀をした。
「いや、待て待て!!なんで、君が勝手に決めるんだね」
「えっ!?不服なのー?」
「そうだ。不服だ!!君の言うとおりになるのが不服だ!!それに決められんよ。私一人じゃ。家にずっと待ってる人がいるんでな」
「ポテチ?」
「ポテチじゃない、妻だ。人だと言っていただろ」
「もう仕方ないなー。行っていいよ、外に」
「じゃあ、行かしてもらう。二度とこんな場所に来てたまるか!!」
私が、歩いて出口に行こうとすると、右肩に死神が片手を置いた。
「最後に一つだけ。ポテチとともにあらんことを」
「うん!?言っている意味が分からん」
私は、歩いた。闇の中をひたすらに。すると、今度は、迷うことなく洞窟の外に出ることができた。
真っ暗だった空間から、太陽の日が当たる場所に来たため、外はまぶしい。私は、手で影をつくり、後ろを振り返ってみると、出てきたはずの洞窟はなくなっていた。
ガタガタ。
私は帰宅し、家の扉を開けた。家の奥から、妻が出てきて、いつも通りの妻の声が聞こえた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
私もいつも通り、妻の声に答えた。
「あら、あなた、持ってるそれなに?」
妻は、私が持っていた物に興味を示したようだ。
「ああ、これか。ポテチだよ。しょうゆ味の。ひさびさに食べたくなってね」
「あら」
死神くん、私が君の代わりに頂戴するよ。しばらくは、そちらに行くことはないだろうから。
「へっくしゅん!!!おじさん、まだかなー。早くポテチ買ってきてよー」
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