神さまのいない日々
意味も理由も言葉もないままに、時間だけが過ぎていった。
目を閉ざしてうずくまった殻の中、耳に届いたかすれた声に外をうかがって気付いた。
遠い日の笑い声も優しい言葉も、もうどこにも見つからないことに。
「気味の悪い子」優しかったお母さんの声で呟かれた言葉が耳を離さない。透明な殻の外、血まみれの両手でうずくまりながらはかれる7人分の「ごめんなさい」。ひたすら紡がれるそれに。
自分の口から出たはずの謝罪はひどく惨めだった。
そんな権利なんてないくせに、涙が溢れてとまらない。
こんな日々を未来と呼ぶのなら、「明日」だというのなら。
もう手に負えない、放り出して。誰の目にも触れない殻の中に閉じこもって、泣いていよう。
それでも廻るこの世界の言葉すら知らないままに、狂おしいほどの不条理を指でなぞっても。
こんな理不尽を受けるそんな世界はきっと、わたしにはいらないから。
意義も声も存在もないままに、時間だけが過ぎていって。
あの日々の笑い声も、優しい気配も見つけられないところに独りでいても仕方ないことなんて、もうとっくに気づいてたんだよ。
それでもやめられなかったのは、心がちぎれそうなほどに痛くてたまらなかったから。涙も声も心も、枯れて消してしまいたかったから。
「こんな日々を未来と呼ぶのなら、「明日」だというのなら。もういらない」
なんてわたしは、もう遠い日に囁いて。殻の中で独り泣いてた。
それでも廻るこの世界は、わたしをなぐさめることなんてないと知っているから。
もう手に負えない、放り出してしまおう。こんな「
そうやって未来も自分も涙にぬれた目で呪って、誰の目にも触れない殻の中に閉じこもって泣いていよう。
巡る世界がわたしのいないところで静かに息絶えていくのを、理不尽にも祈る。こんなひどいことを願う「わたし」が明日おわりますように。
「ごめんなさい」大好きな
血塗れの両手、うずくまってはき続けられる言葉たちに。そっと殻から出れば、顔を上げた2つ増えた泣き顔たちに抱きしめられる。
気づけば世界の中、お母さんと一緒にお父さんに内緒で作った秘密基地。あれからもう何十年経ったのかわからないほど、遠くまで来た。
葉っぱに埋もれた古びた木箱の中にはずらりと並んだたくさんの「声」がつまった水晶玉。
「8歳になったさくちゃんへ」「9歳になったさくちゃんへ」「10歳になったさくちゃんへ」
手に持った水晶玉から聞こえる優しいお母さんの祝う声に涙があふれる。
意味も理由も言葉もないままで、時間だけが過ぎていった。
神さまがいなかったことなんて、誰にも知られないまま。
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