現代から異世界に召喚されたけどいろいろあってみんなぶっ潰す
のののXR
第1話プロローグ
臭いがする、生臭い臭いだ。
臭いがする、焼け爛れた臭いだ。
臭いがする、強烈な血の臭いだ。
周辺を囲っていた数十人は散り散りに、その最前列にいた数人はバラバラに。
撒き散らし、吹き飛ばし、無惨に、無惨に死んで逝く。
「助けてぇ!!!」
救済を欲する声だ、逃げ惑いながら只管に叫ぶ、その恐怖から逃れる為に。
だが。
「ひっ!?ぅぅうぁぁぁああああああああ!!!!」
断末魔が響く、血液と臓物が宙を舞い、絶命。
その傷口は武器によるものではない。
その傷口は魔術によるものではない。
その傷口は魔導によるものではない。
その傷口は、強靭な顎(あぎと)に食い潰された様なものだった。
惨たらしく死んで逝く仲間を背に、生き長らえるため、誰もが走った。
しかし、絶望は許さない。
「カレン、ブレイズ」
「うん、わかった」
発動する炎の魔術、人一人飲み込める程の灼熱が走る標的に迫る。
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
当然逃げ切れるわけもなく、また一人絶命。
数十人もの仲間は瞬く間に数を減らし、残すはたった5人。
それでもなお、殺戮は終わらない。
人形のように、玩具のように。
投げられ、飛ばされ、屠られ、裂かれ、砕かれ、潰され、殺して、殺して、殺して、殺す。
そして残るは一人。
腰を抜かし、汗と涙で顔を汚し、恐怖に震える最後の一人。
歩を積め、距離を積め、ゆっくりと死が近づいてくる。
「オロバスの連中だな?」
しかし一撃は下されない、飛んできたのは質問だった。
「はっはい!そうです!!」
状況を見極める判断力も、現状を理解する冷静さも失った男は淡い希望を抱き、絶望に答える。
「捕獲が目的か?それとも殺しか?」
「ほ、捕獲です!!絶対に殺すなとの命れびっ」
「もう用済みだ」
返答が終わる前に、最期の一撃は下された。
断末魔さえ許さぬ一閃により、殺戮は終わった。
返り血の滴ったマントを脱ぎ捨て、下げていた小さなバッグから新たなマントを取り出し、着用、何事もなかったかの様にその場を後にする。
「死体、片付けなくていいの?」
「ああ、別に大丈夫だ、ほっといたら魔物が食ってくれるよ」
「そっか、なら大丈夫か」
会話をしているが、周囲には残骸しかない。
だが、確かに声はする。
男の声と少女の声。
二人の声は、マントの男から発されている。
この男の名はアギト。
先程の殺戮の正体であり、捕獲対象とされた男。
大きなマントを常に着用し、その下に、少女の声を発する異形の右腕を宿している男。
数奇な宿命を背負い、ただ願いのために前進する男。
この男の名はアギト。
またの名をこう言う。
神の国から来た男、と。
現代から異世界に召喚されたけど
いろいろあってみんなぶっ潰す
-プロローグ-
事の始まりは、およそ2年前。
現代の日本の某所にて一人暮らしをしている青年がいた。
名をアギト、四神 顎(しじん あぎと)と言う。
数ヵ月前まで同県の大学に通う学生だったが、現在はフリーター。
在学中、就職活動に右往左往していたのだが上手くいかず、どこからも内定を得られぬまま卒業。
今も活動は続けているが、当時から本人に特別意欲があるわけでも、明確な目標があるわけでもなく、ただ成り行き上仕方なく、生きる上で仕方なく様々な門を叩いている。
当然そう言った姿勢を各企業から見抜かれ、現在に至るわけだが、本人はそれに気がついていない様子だ。
「うぅ寒いな…」
夜風が刺してくる。
四季で言えばまだ秋の頃だが、気温で語れば冬の只中と言えるほど、その日は冷え込んでいた。
彼は今外にいる、アルバイトの帰り道だ。
いくら両親から仕送りを貰っている就活生とは言え、額は微々たるもの。
その殆どが生活費に消え、雀の涙も残らない。
勿論感謝はしている、当然だ、その微々たる仕送りのお陰で家賃を始めとする各費用を賄えているのだから。
だが彼は就活生、一人暮らしを楽しむ為だけならそれでよかったかもしれないが、面接会場に行くまでの交通費や履歴書などの雑費が仕送りだけでは心許ない。
加えて金銭に余裕がなければ娯楽や趣味も満足に行えない。
故のアルバイトだ。
今の所彼の目論みは順調で、就活を行いながら、趣味も出来ており、漫然としているものの、不自由のない生活を送っている。
「腹へったなぁ…はやく帰るか」
誰もいない夜道に小さな独り言が風に拐われる。
足早に道を駆け、鼻歌混じりで家路に着く。
いつもと変わらぬ日々。
だがそれは違った。
早足で進む中、見慣れない不自然が彼の視界に入った。
道の隅で何か光っている。
マンホール程の直径の何かが淡く光っているのを、彼は見た。
「マンホール…?なんてあったか?ここ」
その時は光に関しては特に疑心を抱かなかった。
何かの工事だろうと、その程度の思考で片付いたからだ。
しかし見た所、工事にしては余りに伽藍堂で、三角コーンもなければ本当に何もない。
ここで初めて不審に思い、覗くようにそっと光に近づいた。
「なんだ…これ……」
近づいて漸く理解できた、これがマンホールでないとこを、光っているのは地面に書かれた見たこともない文字なのだと。
蛍光塗料で書かれた文字、と考えたが直ぐに否定。
暗がりでも見える程度の光り方ではなく、文字その物が光源となり、周囲を淡く照らしている。
理解できない、意味がわからない、光る文字も、文字自体も。
疑問と若干の混乱と好奇心がせめぎあい、一歩、また一歩と距離を積める。
そして、爪先が文字に触れた。
ここから全てが変わるのだった。
本人は触れた感覚などなかっただろう。
だが確かに文字にふれてしまったのだ。
「え?っぅわ!?」
突如、強く前方に引っ張られ、文字の上に立ってしまった。
彼の周囲には誰もいない、本当に誰も。
何度見渡しても、只管に暗闇と寂しげな街灯が並ぶだけの帰り道だ。
理解も何も追い付かない状況で、自らの体が動かせない事実を知る。
先程から動こうにも、殆ど動けない、辛うじて首と指が動く程度で、それ以外は締め付けられたかの様に、微動さえ許されない。
疑心は最早恐怖となり、混乱を増幅させ、好奇心を殺した。
「なんっだ!?…これっ!?」
もう声を出すことも難しく、気付けば前のめりだった姿勢は背筋を正され、真っ直ぐに立っている。
意味がわからない、訳がわからない、何が起きているのかわからない。
うっすらと浮かんだ涙がこぼれる前に、彼は穴に落ちた。
そう、「穴」に落ちたのだ。
それが本当は何なのかわからないが、彼は穴と捉えるしかなかった。
目を閉じた訳でもなく、突然視界が闇に染まり、先程まで確かにあった地面の感触が消え失せ、同時に落ちる感覚を覚えた。
永遠の様な一瞬、一瞬の様な永遠。
どれ程落ちたかなどわからず、只落ち続けるばかりだった。
いつの間にか落ちる感覚は消え、足には地面の感触があった。
感覚を取り戻した彼は、次に体の自由を取り戻した。
締め付けらた感覚がない、指が、手が、足が動くのだ。
最後に彼は視界を取り戻した。
目を開き、ゆっくりと視界に映す。
白い部屋。
大勢の白衣の人。
大きな機械。
そして。
「ーーー!ーーーーー!!ーーー!!」
「ーー!!!ーーーー!ーーー!!」
「ーーーーー!!!ーー!ーーー!!」
飛び込んできた意味不明の言語。
なりやまない拍車。
「………え?」
彼の名はアギト。
この日、全てが変わり果てた。
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