第11話 続バイトで最初で最後の飲み会

バイトのメンバーとともに予約していた居酒屋に着くと、今日仕事が休みの人たちが先に到着していた。そこに僕たちが加わり全員で14名くらいになったと思う。麻美も当然いた。

私服姿の麻美はとても可愛らしかった…と思った記憶があるが、どんな格好だったか覚えていなかった。

それはその後、お酒を大量に飲んだのが原因だ。


コミュ障気味の僕は、麻美以外とあまり話せない。麻美とは席が離れていて会話できるような距離ではなかった。

そうするとほぼ無言の状態。

周りがワイワイ楽しそうに話している。全然面白くない内容なのに爆笑したり、盛り上がったりできている。

それに乗っかれない僕は、孤独感を深めていく。手持ち無沙汰に緊張感も手伝って、一人でどんどん酒を飲んでいった。


飲み会の中盤だろうか。僕は席を立ち、トイレへと行った。大をするつもりだった。

便器に座り用を足していたら、突然の吐き気と気分の悪さが襲ってきた。

目の前に洗面台があり、便器に座ったままそこに手をかけていつでも吐き出せるような体勢をとっていたが、あまりに気分が悪くて身動きが取れないまま10分は経過した。


トントン

「ユキ君、大丈夫?」


誰だったかはわからないが、バイトの誰かが心配してトイレのドアをノックした。

「だ、大丈夫です。」

本当は全く大丈夫ではないが、大丈夫じゃないと言えば救急車を呼ばれるようなことになるだろう。そんな醜態は晒したくない。大丈夫と答えるしかない。気分が悪いだけで死ぬわけではない。


それからまたしばらく時間が経ったが、体調は一向に回復せず、僕は便器に座ったまま固まっていた。

(楽しみにしてた飲み会が、こんな形になるなんて…!)

ろくに麻美とも会話をしていない。そして、一人で酒を飲んで一人で潰れている僕は、情けなくバカな男に見えるだろう。

気分の悪さに朦朧としながら、そんなことを考えていた。


トントン


また、ノック。


「ユキ君!大丈夫!?」「救急車呼ぶ?」「どんな感じ?」

先輩が3人、トイレの前にいる。

声をよく聞くともっと大人数がいるようだった。

「だ、大丈夫…」

なんとか声を絞り出したが、大丈夫には聞こえなかったのだろう。

バイトの人たちは優しかった。恐ろしいほどの親切心で僕を助けようとしてくれた。


居酒屋の店員にお願いをしてトイレの鍵を開けたのだ。パンツも履かず便器に座っている僕を助けるために。


トイレのドアが開いたとき、バイトのメンバーが全員いた。その中には当然ながら麻美もいた。

僕は慌ててパンツを履こうとしたが、パンツが足に絡まったのか酔っていたのか、便器から滑り落ちて床に横転した。股間のソーセージは出たまま、カレーをトッピングしたままのお尻とともに、全員の前で披露することになった。


終わった…


僕はそう思った。そこからの記憶があまりない。ただ、最も恥ずかしさを感じたのは、その時ではなく、翌日自宅の布団で起きたときだったが。

僕はそのままバイトを無断で辞めてしまった。

なんでこんなことばかり起こるんだろう。僕がバカなことをしたせいなのはわかる。しかし、それもコミュニケーションが取れないのが原因。そして、コミュ障な理由は自分に引け目があるからで、引け目がある理由は不細工だからだ。

根本は不細工だからだ。悲しいがそれが現実。人は見た目が9割とか残酷なこと言っている人はいるが、残りの1割も見た目が悪いと磨けないこともあると思う。

悲しくてたまらないが、どうしたらいいのかもわからない。

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