第23話「美桜と怪しい影」

「優斗、帰るわよ」

「優斗君、一緒に帰りましょう?」

 放課後、教室にやってきた美少女二人が、帰り支度をしていた俺にそう告げた。

 美少女二人──言わずもがな、幼馴染二人である。


「「「!!!!!!」」」


 その時、教室中に衝撃が走ったことは言うまでも無いだろう。

 クラスメイトからの視線が集まる。教室に残っている全員がこちらへ意識を飛ばし始めた。

「お、お前ら……」

 一方、俺はというと。

 突然の出来事にただ固まることしか出来ず、上手く言葉が出てこない状況であった。

 今朝、柚希と美桜が「これからは一緒に登下校しよう」と言っていたのを忘れていたわけではない。

 先ほどの件もある、どのみち二人とは帰路を共にしようとは思っていたが……誤算だった。まさか二人が教室まで迎えに来るとは思ってもみなかったぞ!

「おい、あれって花咲さんたちだよな……」

「なんで橘のところに……」

「てか今呼び捨てにしてなかったか?」

「あー、花咲さんたちやっぱり可愛いなぁ」

「ねえねえ、あれってさぁ……」

「えー、ウソー!」

「いやでも、もしかすると……」

 騒然とするクラスメイトたち。

 ま、マズい……ここは何とかごまかさないと。

「お、おう! 二人ともどうした、"幼馴染"の俺に何か用か?」

 "幼馴染"というワードを強調し、二人へ返事を返す。

 変な動揺は逆に疑われかねない。この場は冷静に、あくまで「幼馴染同士」という関係で収めなければ。

 本当は知り合いであることも隠しておきたかったところではある。だが、こうなった以上今更ごまかすのはかえって不自然。

 であるならば、下の名前で呼ばれていてもおかしくなく、一緒に帰っていても不思議ではない関係──幼馴染という間柄を皆に知らせるのが一番だ。

 だが、どうにも二人はその言葉に不服の様子。


「むっ……」

「んー……」


 二人には申し訳ない気持ちもある。

 先日「告白にきちんと向き合う」と言ったのに、こうしてごまかそうとしているのはどうなのか。そう言われても不思議ではない。

 だが……しかし。

 ほんっっっっっっとうに申し訳ないんだけど、まだ学生生活を終わらせたくないんです!

 出来れば平穏に、何事も無く三年間を過ごしたいんです!

 何とでも罵ってくれ。なんなら埋め合わせだってする。だからここは……ここだけは!

「──する?」

「──だね」

 と、心の中で必死に謝罪をしていると、双子たちは何やら小声で密談を交わしており──って!

「じゃ、帰りましょうか?」

「うん、行こう? 優斗君」

 何をするのかと思えば、二人は俺の両サイドにスッと立ち、互いに腕に抱きつくような体勢で俺を教室から引っ張り出そうとし始めた。


「「「「「──えっ、えええええええええええええええ!!」」」」」


 教室中に驚きの声が響く。

 ……なんて、冷静に状況を分析してる場合か!!

「お、おい二人とも! 何やって……」

 だが、俺の言葉は一切届いていない。

 いや、届いてはいるが右から左に受け流されているといった感じだろうか。

 必死の抵抗もむなしく、二人に引っ張られるがまま教室を後にし、自宅へと向かう羽目になった俺。


 ……明日から、どんな顔して学校に行けばいいんだ。



「柚希、美桜。とりあえず一回離してくれないか……」

 やがて学園から十分ほど歩き、駅へと到着した。

 学校からここまでかなりの生徒とすれ違った気がする。恐らくは今頃、あの男子は誰だと噂されている事だろう。

 ああ、どうしてこんな事に。

「ま、そろそろ許してあげよっか」

「そうだね、優斗君かわいそうだし」

 そう言いながら離れる二人。その聞き分けのよさを、もう少し早く発揮して欲しかった。

「……お前ら、良かったのか?」

「ん?」

「何が?」

「いや、少なくとも俺のクラスの連中は、半数以上が見てたと思うぞ。多分明日は俺たちの話題で、というか今頃はそのことで持ちきりだろうさ」

 二人がどうしてこんなことをしたのか、それは何となく分かる。

 変に関係を隠そうとした俺に怒っている、そういうことだろう。

 だが、たったそれだけのことで、あんな大胆なことをして二人は良かったのか。少なくとも、今日の俺たちを見た人間からはあらぬ誤解を受けることは間違いない。


「なるほど、私たちの心配をしてくれてるのね?」

「心配っていうか……まあ、それもあるかもしれんな」

「ふふっ、ありがとう優斗君。でもね、それは問題無いっていうか、むしろ私たちとしてはありがたいっていうか」

「ありがたい?」

「そうね。逆に言えばそれが狙いだったわけだし」

「なっ……! お前たち、もしかして」

「さあ、どうでしょうね」

「優斗君の想像にお任せします」

 この双子、最初から俺たちの関係をバラすつもりで……。

 だから俺の教室にわざわざ迎えに来たり……思えば、あの時からこうなることは逃れられなかったということか。


「…………ああ、明日を迎えるのが怖い」

 帰りに胃薬を買って帰ろう。そうしよう。



「…………」

 楽しそうに話している三人組を、ただ遠目から眺める。

 あの男、美桜さんと仲良くするだけでなく、さっきは抱きついたりして。

 ──さて、どうしてくれようか。

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