第19話「双子からのプレゼント」

「花火?」

 短いようで長かった旅行も、ついに夜を迎えた。

 ひとまず温泉で頭を冷やし、食事も済ませ後はのんびり過ごして寝るだけ……と思っていると、双子姉妹から「花火をしよう」と提案を受けた。

「目の前のビーチ、夜は花火しても大丈夫なんだって!」

 と、やけにノリノリの柚希。昼は途中で帰ってしまったし、まだ遊び足りないのだろうか。

「ま、せっかくだしね。優斗も当然やるでしょ?」

「それは別に良いけど、肝心の花火は?」

「さっき下の売店で買ってきたよー」

「優斗がお風呂に行ってる間に二人でね」

 俺が冷静さを取り戻そうと必死になってる時、二人はそんなことをしてたのか。

「じゃあ準備して行くか。あんまり遅くなってもあれだしな」

「うん、それはそうなんだけど……」

「優斗、花火を持って先にビーチへ向かっててくれない?」

「先に? 別に一緒に行けばよくないか?」

「えっとね……そのー」

「……色々と準備があるのよ、こっちにも」

「別にそれくらい待つけど──」

「とりあえず!」

「先に行ってて!」

 有無を言わせず、部屋から俺を追い出す二人。

 やがてピシャりとドアが閉められ、とても部屋に戻れる雰囲気ではなくなってしまった。

「……俺、何も準備してないんだけど」

 仕方なくドアの向こうから二人に声をかけ、花火を手に先に海へと向かうのであった。



「お、お待たせ」

 浜辺の近くに設置されたベンチで待つこと数十分、ようやく二人が到着した。

「遅かったな二人とも……って」

 やってきた二人は、明らかに先ほどとは雰囲気が変わっていた。

「髪、結んできたのか」

 柚希は長い髪を横に流してサイドポニーのような髪型に、美桜は短い髪を頭の上でお団子のようにまとめピンで留めた髪型に、それぞれヘアアレンジを施しており……なるほど、遅くなった原因はこれか。

「……ど、どうかな?」

「……私も、この髪型は初めてだから」

 心配そうな表情を向ける二人。

「──似合ってる……と、思う」

 服装もそうだが、人の髪型なんて評価したことないし、何て言えば良いのかよく分からない。

 だからまあ、思ったことをそのまま口にするしかないよな。

「最後の言葉がどうも余計な気がするけど?」

「ま、まあまあお姉ちゃん」

 しまった、ハッキリと似合ってるとだけ言えば良かったのか……。

 若干不服そうな姉を宥める妹。スマン柚希、苦労かけるな……。


「……ん?」


 と、そんなやり取りをしていると、二人が何か紙袋のようなものを持っていることに気がついた。

「その荷物、どうしたんだ? 花火がまだ部屋に残ってたとか?」

 俺が持ってきたので全部かと思っていたが、まだあったのだろうか。

「あ、気づいてくれた?」

「ああ。けど、花火にしてはちょっと小さい気もするけど」

 そう口にすると、二人は互いに顔を見合わせ。


「これはね、優斗」

「優斗君にプレゼントするために買ったものなんだよ」


「……え?」

 プレゼント?

「ほら、今年の誕生日、私たちにプレゼントくれたじゃない? けど、今までお互いに交換はしないって約束してたから、こっちは全然準備なんかしてなかったから」

「だからね、お姉ちゃんと相談して、今日渡そうって決めてたの。だから……はい、これ」

「……良いのか? 俺だって別に、事前に準備してたわけじゃなかったし」

「良いの、私たちがプレゼントしたいって思ったんだから」

「そうだよ優斗君、むしろ受け取ってくれないと困るかな」

 スッと渡された二つの紙袋。両腕にそれぞれ重さが伝わってくる。

「……そっか、ありがとな」

 正直、二人へのプレゼントはその場の勢いで買ったみたいなところがあったし、お返しなんて全く考えていなかった。

 けど、この二人はキチンと用意してくれてて……。

 何だろう、まだ中身を開けてないのにすっげぇ嬉しい。

「ちなみに、中身を見ても良いか?」

「うん、大丈夫だよ」

「優斗が喜んでくれるかは分からないけど……」

 大丈夫、もう既に喜んでるから。


「まずは美桜の方から……って、これ」

 柚希のプレゼントと比べ、やけに重かった美桜からの贈り物を開ける。

 すると、中から出てきたのは。

「ランニングシューズよ、これで少しは運動しなさいよね」

 赤い二足のシューズだった。

 なるほど、運動好きな美桜らしいというか……。

「ありがとな、美桜。大切に使わせてもらう」

 運動はあまり得意ではないが……そうだな、早朝ランニングでも始めるか。

 ……いや、最初はウォーキングくらいからにしよう。うん。

「……たまに私もランニングしてるし、一緒にと思って」

 そう提案してくれること自体は嬉しいんだが、美桜のペースに着いていけるだろうか……。

「そうだな、もう少し体力がついたらな……」

 どのみち運動不足は感じてたし、丁度良かったのかもしれない。


「……じゃ、次は柚希のプレゼントを」

 美桜のプレゼントと比べ、重さはあまり感じなかった柚希の紙袋を開ける。

「これは、ブックカバーか?」

 中から出てきたのは、黒色のブックカバーだった。

 と言っても本を買ったら付いてくるような紙で出来ているものではなく、革で作られた本格的なやつ。

「うん、それと何冊か私の好きな本をプレゼントしようと思って。……優斗君、あんまり本読まないし、喜ばないかなって悩んだんだけど」

「いや、俺の場合は読む機会が無かったからな。こうやってプレゼントしてもらえると良いきっかけになると思うぞ」

「ホント? なら良かった……」

 本好きの柚希らしい、そんなプレゼントだった。


 ……というか。

「二人とも、結構個性が出てるな」

 ふと思ったことを口に出してしまう。

 運動好きな美桜はランニングシューズを、読書が好きな柚希はブックカバーと本をプレゼントしてくれた。

 そう、二人とも自分の好きなものを、俺にくれたわけで。

「そりゃあ、まあ」

「えっとね……」

 すると、そんな俺の言葉を聞き、言葉を合わせるように二人が口を開き。


「好きな人にはね」

「自分の好きなものを、好きになって欲しいじゃない?」


 ……お前ら、それは反則だろ。

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