第25話「真実を語るノート」
「よ、よし……少しだけなら」
言いながらノートを開こうとする。
重要なページなのだろうか、途中のページに付箋が付いていた。
まずはそこから目を通そうとする。
今更どんな恐ろしい事が書いてあっても驚くことは無い……はずだ。
――――――――――――――――――――――――――――
『あの女――春瀬七海に私の心のうちを知られた。
あの女は言った、「お兄ちゃんのことが好きなんでしょう?」と。
絶対に知られるはずは無かった。
これまで徹底して距離を作ってきた。
ここ数ヶ月は、自分でも感情が抑えられずについお兄ちゃんに近づいてしまったけど、それでも、私がお兄ちゃんを異性として好意を抱いていることを知られないよう気をつけていたはずだ。
だから、私は不思議でたまらなかった。
なぜ春瀬七海は、私の、お兄ちゃんに対する気持ちを知る事が出来たのか。
その答えは、すぐに出た。
「だからね、私が、優介の部屋に盗聴器を仕込んで、それで聞いたってこと」
あの女は、お兄ちゃんの部屋に"盗聴器"を仕掛けていたんだ』
――――――――――――――――――――――――――――
そこまで読んで、ノートを勢い良く閉じてしまった。
……どういうことだ。
どんな内容だろうと驚かないように心構えをしたつもりだった。
だが、そこに記されていたものは、僕の想像をはるかに上回るものだった。
「七海が、盗聴?」
そんなはずは無い。
あの七海が、そんな、そんなことをする訳が……。
だが、そう否定する一方で、もしかするとこれは事実なのではないかという思いも浮かぶ。
先ほど七海と会話していく中で浮かんだ疑問。
どうして七海は、朱莉の心のうちを知っているんだろう。
それに対する答えがどうしても出てこなかったが、もし、ここに書かれているように、七海が僕の部屋に盗聴器を仕掛けているのだとすれば……。
確かに僕は、部屋で独り言のように愚痴を零していたかもしれない。
どうも悩み事をするときに独り言が漏れてしまう癖があるのは、以前から指摘されていた悪い癖だ。
もし、七海がそれを聞いていたのだとすれば……。
そもそも朱莉が自分の口から七海へ自分の話をするはずが無いんだ。
でも……。
突きつけられる事実。
幼馴染のことを疑いたくは無い。だが、朱莉が嘘をついているとも思えない。
「僕は……どっちを信じればいいんだ」
その後、再度ノートを読み始めたが、結局書かれていたのは以前と変わらず僕に関することばかりで、それ以上の情報を得ることは出来なかった。
◇
【並木朱莉】
……お兄ちゃん、読んだんだね。
あらかじめ部屋に用意しておいたビデオカメラをチェックする。
そこに映っていたのは、兄――並木優介が私の部屋に入って、机の上に置いておいたノートを手にしている場面であった。
「これで、後は……」
その様子を確認し、ビデオを止めお兄ちゃんの部屋に忍び込む。
この時間はお風呂に入っているはずだから、少なくとも三十分は時間に余裕があるはずだ。
「……よし、大丈夫みたい」
慣れた手つきで、お兄ちゃんのスマートフォンのロックを解除する。
そのまま、兄のスマートフォンに仕込んでおいた、リアルタイムで声を聞くことが出来る盗聴アプリのチェックを行った。
以前までは制服に仕込んだ盗聴器で様子を伺っていたが、録音データではすぐに行動に移すことが出来ない。
そこで、最近ではスマートフォンでリアルタイムのお兄ちゃんの様子を観察できるようにしていたのだが……今日ほど、この機能に感謝した日は無いだろう。
「やっぱりあの女、私を理由にお兄ちゃんに近づいたね……」
放課後、お兄ちゃんとあの女の会話は、近くで全て聞いていた。
七海がお兄ちゃんに、私のことを話したこと。
それを理由に、あくまでフリだということで、お兄ちゃんと付き合うことになったこと。
「お兄ちゃんと付き合うなんて、絶対に許さないよ」
そのまま部屋に戻り、机の上に置いていたノートに手を伸ばす。
先ほど、普段書いていたお兄ちゃんノートに付箋を付け、あの女のことを書き足し、タイトルに『裏』と付け足したそのノートを、そっと引き出しに閉まった。
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