第11話「予想外の展開」

 結局、演劇部の大会は地区予選で終わってしまった。

 僕達も決して他の学校に負けないくらいの練習を重ねてきたつもりだったけど、やはりまだまだ実力が足りなかったのだと痛感させられてしまうほど、他校の舞台は素晴らしいものだった。

 僕達にとっては二度目の、そして先輩達にとっては最後の大会。

 悔しい思いも、これで終わりなんだという寂しい思いも全てが入り混じり、結局その日涙を流さなかった部員は誰一人としていなかった。


 けど、僕の頭の中は、部活動のことよりも、別のことでいっぱいになっていた。


「……今日の地区大会で敗退が決まったということは、俺と晴香は今日で引退するということだ」

 マッさんが重々しい雰囲気で口を開く。

 そう、今日の予選が終わってしまえば、3年生は引退が決まってしまうのだ。

「今日まで本当にありがとうね、みんなと活動が出来て、本当に楽しかったわ」

 続いて晴香さんが、目に涙を浮かべながら言葉を口にした。

 3年生はマッさんと晴香さんの二人、そしてこの二人がいなくなったことにより部員は僕を含めて3人となってしまう。

 僕らも後1年か……。

 

 すっかり涙も流しきった後。

 帰りの電車にゆられながら、ふとマッさんが僕らに問いかけてきた。


「ところで、俺はともかく晴香が引退してしまうとこれから色々と大変になってくるな」

「そうなんですよね、舞台に出てくれる女の子を捜さないと……」


 そう、晴香さんが引退するということは、女子部員が七海の一人になってしまうということ。

 更に、その七海は舞台に出る役者ではなく脚本と演出を担当する人間なので、次の舞台から僕と嘉樹の二人しか演者がいなくなってしまうのだ。


「流石に僕と嘉樹の二人じゃ厳しいですよね……」

「そうね、確かに男二人の演劇ってのも……まあ、脚本も書こうと思えば書けるけど……」


 男二人の演劇、うーん、一部の層には需要がありそうだけど……。


「とにかく、女子部員の問題が急務だな。とはいえこの時期から加入してくれる女子なんて難しいだろう」

「そうですねー、2学期が始まって声は掛けてみようと思うんですけど、現実的なのは1年生の女子になりますかねー」


 新入部員……1年の女子で、部活動に加入していない子かー。

 そんな都合よく演劇部に入部してくれそうな女の子、果たしてウチの学校にいるのだろうか……。




「ただいま」

 自宅へ付くと、朱莉が一人で食事を取っているところだった。

 父さんはまだ仕事だろうが、母さんはどこにいったんだろうか?

 というか、朱莉と二人っきりってちょっと緊張するな……。


「おかえり」


 なんて一人で勝手に緊張をしていると、ここ最近すっかり返事を返してくれるようになった朱莉から、出迎えの言葉が飛んでくる。

 初めて返事を返してくれたあの日から数日、最近ではスッと返事をしてくれる。

 とはいえまだまだ会話といえば返事くらいなもので、それ以外では今までとあまり変化が無い。

 日常会話も特に交わしてはいないし、「おはよう」「おかえり」くらいなものだ。

 まあそれに関しては徐々に進めていけば良い。今はこうして返事をしてくれるだけでも進歩だろう。


 ――と、思っていたんだけど。

「ねえ、お兄ちゃん」

 この日は、どうやらいつもと少し違ったようだ。


「私、演劇部に入部したいんだけど」

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