バラの花とビールジョッキ
カゲトモ
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「お久しぶりですね」
「ご無沙汰ね、マスター」
赤い唇を三日月に引いて、蘭子さんはにっこりと笑った。
「おや、なんだか楽しそうですね」
「あら、そんなことないわよ。私はいつだって笑顔だもの」
そんなこともないだろ、とは口に出さずにスマイルスマイル。今でこそ浩太郎さんと親密な関係になったからこんなににこやかだけれど、荒れている時もあったじゃないか、なんて。
ゆったりとスツールに腰かけた蘭子さんは一杯目にシェリートニックをオーダーした。
「浩太郎さんとは仲良くされているんですか?」
「えっ、あっま、まぁね、うん。普通に仲良いわよ」
「今更私に隠さなくてもいいじゃありませんか」
「か、隠してなんかないんだからねっ」
ツンデレか、というツッコミは表情だけにしておいて、ロンググラスを蘭子さんの前に差し出した。
「それで、クリスマスはどうでした? 確かイブにお約束をされていましたよね?」
「ふふ、よく覚えているわね」
「バーテンダーですから」
クリスマスイブイブの予定を浩太郎さんにドタキャンされた蘭子さんは、店に愚痴りに来ていた。まぁ一日ずらしてクリスマスイブに約束を取り付けていたから、結局惚気に来ていたのだけれど。
こうして晴れて、恋人たちのクリスマスを意中の相手と過ごせたわけで。
「デートはどうでした?」
「デ、デートじゃないわよ。デートじゃ」
手首を返しながらグラスの中を氷で回しながら、蘭子さんはそう言って目を細めて視線を外す。
何か良いことでもあったんだな?
「ただご飯を食べて、ちょっと散歩して帰って来ただけ」
ただって言う割には、顔がニヤけているけどな?
「一応予定通りに、ね」
「予定通りですか」
「いや、まぁ大まかには」
大まかには?
「だって、クリスマスイブだからどこのレストランも埋まっていたんだもん」
「それじゃぁどちらへ?」
蘭子さんは言いづらそうに口元に手を当てて小さな声で言った。
「大衆、酒場?」
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