「採点の時間」(2)

 そんなベタな寝言聞いたこと無いぞ。


「いーえ、寝てます。むにゃむにゃ!」


「寝てる子は寝てるって言わないよ」


「起きてる人はむにゃむにゃ言わないじゃないですか! あたしは寝てるんです! 決して! いい感じに寝ているところを彰彦さんに邪魔されてなんていないんです!」


「……そうかい」


 朝から元気だね……。別に寝てる人もむにゃむにゃ言わないと思うけど、そこを突っ込んだらまた五月蝿くなりそうだ。

 というか、なんかこんなやりとり初日にもあった気がする。可愛い子は可愛いとか言わないとかなんとか。


「じゃあ、ナナは寝てるってことでいいんだな」


「むにゃ!」


 そういう鳴き声みたいになってやがる。全然可愛くない。踏まれた猫みたい。


「これは独り言なんだが、俺には昔、空っていう妹がいてな」


「……」


 むにゃらないのか。まあ、寝てるならそれでもいい。所詮独り言なのだから。


「まあ、なんていうんだろうな。出来た妹、っていうのも陳腐だな。見ての通り今は一緒に居ないんだが、昔は四六時中一緒っていうか……駄目だ上手くまとまらん」


「……はい」


 うわ、起きてる。本当に恥ずかしいなこういうの……。


「こういう事言うと、ちょっと気持ち悪いかもしれないけど……。お前に似てるんだよな。いや、俺も君野に言われて気付いたんだけど」


 ナナは無言で布団から顔を出す。なんかそういう仕草もやってた気がする……。


「それで、何かごめん。知らず知らずのうちに妹の姿を重ねてたかもしれん」


「……ぷっ」


「……人が真剣な話してるときに、屁こくなよ」


「こいてないです! 笑ったんです!」


 でしょうね。

 こればっかりは仕方がない。真面目な話が続くと茶化したくなるという悪癖だ。


「えい」


 うつ伏せになっていたナナと、その上に掛けられていた布団が宙を舞う。何が起こったか分からず、ひらひら落ちてくる布団を目で追っていたが、その布団が地面に落ちる頃にはナナが目の前に居て仁王立ちしていた。


「彰彦さんは、あたしが妹扱いされたら怒ると思っているんですか? そんなヒロイン属性がお好みですか?」


「……いや、そんなことはないけど」


 どうやってうつ伏せからワンアクションで立ち上がったのだろう。そっちの方が気になる。

 今、普通にジャージだし。


「でしょう? 前にも言ったと思いますけど、本当に感謝してるんですよ? もちろん、彰彦さんにも事情が有るでしょう。感情が有るでしょう。そういうのを全部ひっくるめて、有難いな、出会えて良かったなって思ってるんです」


「……おお」


 すごいな、こいつ。面と向かって、茶化さずに感謝を伝えられるなんて。それが出来ていたら、少しは俺も変わっていただろうか。


「なんなら妹さんにも感謝ですよ」


 それもなんか分からないけどすごいな。

 駄目だ。語彙力がなくなってしまった。

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