「キャスト・オフ!」(4)

「さあて、師匠。何から始めましょうか」


 昨日スペードに告げた空き地に着いてから、ナナが得意そうに切り出した。師匠って呼ぶことにしたの? 師匠、寝間着だけど。


「そうだな。スターゲイザーを狙ったところに当てる練習、かな」


 というか、それぐらいしか思いつかない。人間同士の喧嘩なら多少アドバイスも出来るが、魔法少女同士の決闘となるとさっぱりだ。

 白雪先輩、もといスノーホワイトにでも聞けば良かったかな。


「わかりましたー。その辺に落ちてるガラクタにでも当ててみます」


 ふむ。

 俺達が今いる空き地には、不法投棄された冷蔵庫や車、空き缶やペットボトルなど、大小様々なごみが散らばっている。より具体的には五十メートル四方……ぐらいの空き地の、その半分以上がゴミで埋め尽くされている。

 まあ、別に壊しても文句は出ないだろう。


「それで、師匠は何をするんですか?」


「……ん?」


「いや、あたしは今から的当てをするとして、師匠は一体全体何をするのかなーって思いまして」


 的当てとは随分可愛い表現だな……。というか、師匠にも何かさせる気なのか。とんでもない弟子だな。


「何って、応援とか」


「そんなの駄目ですよ」


 駄目らしい。どんな主従関係だ。


「そんなことも考えてなかったんですか? 仕方ない師匠ですね。では、あたしが的当ての練習をしている間、ずっと『俺は魔法が使える』と唱えててください!」


「なにそれ」


 いや、本当になんだそれは。何の意味があるんだ。


「言いませんでしたっけ? 魔力は生まれ持ってのものだって。覚えてません?」


「覚えてるけど」


 それとこれと一体何の関係があるというのか。


「師匠も言ってたじゃないですか。超能力者みたいだなって。基本的にその理解で間違ってないです。要するに魔法少女って、元々持っている能力を強化しているだけにすぎません」


「……まだ分からん」


「だから、ちょっとしたものなら使えるんです。師匠にも。どの程度魔力を持っているか知らないですけど、それこそ練習次第で一番簡単なやつくらいなら」


「まて……何かおかしいぞ」


 どこだろう。魔法少女は魔法使いになる。なれなければ魔力を奪われ人間界で一生を終える。この辺りだ。

 つまりは人間界に魔法を使える人は居ないってことに……ならないのか? スノーホワイトは例外としても、それこそ自称超能力者、霊能力者なんてのはいくらでも居る。彼らは全員が全員、元魔法少女と言うことも無いだろう。人間に生まれて、能力を開花させた本物が何人か混ざっているとでも言うのか。


「へっへっへ。何を考えているのか手に取るようにわかりますね。読心術が使えるようになったのかもしれません」


 俺の顔を覗き込みながら楽しそうに笑うナナ。


「人間にも魔法が使える……?」


「だから、そう言ってるじゃないですか」


 呆れたように溜息をつく。師匠に向かってなんだその態度はと言いたい。


「それなら、何でそいつらには魔力を奪いにいかないんだ?」


「そんなこと、する意味がないからですよ。魔法少女から魔力を奪うのは危険だからというのもありますが、魔法の使い方を知っているからです。人間界では、貴方は魔法を使えますよ、と言われたところで信じないですし、実際に使える境地まで達することはほぼ無いです。使えたところで、別に魔法界だけで魔法を独占する理由も無いですし」


「……」


「分かりませんか? 魔法界の住人が人間界で魔法を使うのは駄目ですが、人間界で人間が魔法を使う分にはどうでもいいですからね。そこまで干渉することはないです」


「……半分くらい」


「ですか。では、これが多分一番の理由ですが、人数が多すぎますね」


「人数?」


「人間界の人口は七十億ですか? それだけの数を魔法界たった三万人の力でどうこう出来るわけがないんですよ」


 そういうものなのか。魔法が使えるという優位性から、なんとなく魔法界の方が上位の存在のように思っていたが、ここまで人数に差が有っては、それも難しいかもしれない。それこそ、魔法界と人間界で争いにでもなったら、あっさり人間界が勝ってしまうのではないか。


「んー。話が長くなってしまいましたね。特訓、始めましょうか」


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