「キャスト・オフ!」(2)

「えっ」


 声を発してしまい、口の端から液体が零れる。

 床に落ちたそれは歯磨き粉の白ではなく、血と混ざっているらしく、汚いピンク色をしている。


「あーあー。あたしが拭いておきますから、早く口濯いできてください」


「ふはん」


 すまん、と言ったつもりだが、なんか間抜けな声が出た。

 何をやっているんだ俺は。


 そういえば君野にも、空にも言われたことがある。曰く、俺は夢中になると周りが見えなくなるとかなんとか。


 ぶへっ。

 口の中のものを洗面所にぶちまける。


「うーわ」


 ピンク色どころか、ところどころ真っ赤な鮮血が混じっている。

 何だか意識してしまってせいで、歯茎も痛くなってきた。口の中を怪我した時ってどうすればいいのだろうか。まさか絆創膏を貼るわけにもいかないし、軟膏を塗る……?


 まあ、ほっといていいか。

 軽く口を濯いで、タオルで拭う。

 ほっとけば治るだろう。治らなかったら、その時考えたらいい。今は他にするべきことがあるのだから。


「あ、戻ってきた。何だったんですか? 新手のストレス解消ですか? よく分からないですけど、体に悪そうだからやめた方が良いと思いますよ」


「いや、違う……」


 言いながら、なんとなくナナの向かいに座る。

 くそう。少し喋っただけで、口の中がヒリヒリしやがる。


「まあ、いいですけど。それより、どうやってスペードに勝つんですか? あたし自分で言うのもなんですが、大した魔法使えないですよ?」


 ふうむ。それは、まあ、そうなんだろうけど。


「それはスペードも同じじゃないのか? 魔法……見習い? みたいな感じなんだろ? 今のところ読心術と、空飛んでるのぐらいしか見てないんだが」 


「ですか。スペード……っていうか、スペード家のお家芸は火ですね。何もない所から火柱を上げたり、手から火を出したり、何でもアリです」


 火か。何かイメージしやすいな。怒り散らしながら周りを燃やし尽くしてそう。


「あたしも習ったりしましたけど、全然ダメでしたねー。マッチぐらいの火なら出せますけど、凄く時間掛かりますし、戦いには使えないですね」


「スターゲイザーは?」


「は?」


 え? はってなんだよ。俺の作戦の第一条件なんだが。


「あれをぶつけて攻撃すればいいじゃないか。肌が出てるところは人間とそんなに変わらないんだろ?」


「ああ、いえ。あんな可愛らしい魔法を戦闘に使うとは、考えもしなくて」


 そっかあ、スターゲイザーか……。と呟くナナ。


 いや、あれそんな可愛くないぞ。というか普通に怖いし。何したか自分で分かってる?


「まあー、出来なくも無いですけど、人に向けて撃ったことないですし、そもそも、そんな近くで発動したこと無いですね。っていうか出来たところで、元々が塵ですし、燃やされて終わりだと思いますが」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る