「宣戦布告だ。魔法少女スペード」(3)

「さて、と」


 ようやく待ち望んでいた昼休みになり、購買に走るクラスメイトを尻目に俺は一人空腹も忘れて屋上に立ち尽くしていた。もうすぐナナと待ち合わせた時間になる。それまで何をしたものか。

 手すりに身を乗り出して下を確認するが三日前の様に校内が騒然となっているということもない。まだナナは来ていないようだ。


 やっぱり何か腹に入れておくべきだったか? 右手で腹をさするが別に食欲は無い。胸にしまった暴力装置が邪魔なだけだ。暇つぶしにこれでもいじるか……。

 俺は腰を下ろして手すりに背中を預ける。ピースメーカーを取り出そうと手を突っ込んだが、ぐしゃぐしゃの紙片が先に手に当たる。そういやあったな、こんなの。両手で引っ張って皺を伸ばしてみても、やはり何が書かれているか分かりやしない。待てよ? これって他の魔法少女にも有効だったりするのか? だとしたら破り捨てるのは勿体ない。スペード対策の一つになるかもしれないのだから……デザートとかスノーホワイトにも使えるのかな。

 呪いの札は丁寧に三つ折りにして逆側のポケットに入れておく。なんだろう。考え方一つでお守りの様に思えてきた。


 さてさて、ピースメーカーだ。再度ポケットに手を突っ込んで握るが、ズッシリとくる。感触だけだと到底偽物とは思えない。


「よっと」


 眼前で西部開拓時代からの拳銃が存在感を発揮する。

 改めて見てもやっぱり重厚感と言うか、威圧感と言うか、有無を言わせぬ迫力がある。あれは何年前だったか、空と祭りに行ったときにどうしても籤が引きたいとせがむもので、一回だけ引かせてやったことがある。その時に空が何を欲しがっていたのか忘れたが、当てたのはモデルガンだったはずだ。俺は拳銃にそこまで詳しいわけではないから、その時の陳腐なやつぐらいしか見たことは無いが、クオリティは段違いだ。実は本物なんじゃないか? 弾は……どうやってみるんだろう。撃鉄引いちゃまずいし……。あ、ここ開きそう。開こうかな。でもこれで実弾がぼとぼと落ちてきたら? あれ? いま職質にでも遭ったらやばくね?


「ううん……」


「お疲れですかー?」


 うおっ。

 いつの間にか目の前にいたナナに顔を覗き込まれる。なんだこいつ。空でも飛んできたのか。屋上に通じる扉は視界の中だ。見逃すはずもないのだが。


「また、魔法か」


「ですねー。今使っていたのは『運良く気付かれない』という性質のやつです」


 くるり、と得意げに体を回転させ、メイド服の裾が翻る。

 便利だな、魔法……。


「ん? 気付かれない魔法?」


「そうですよ?」


「何で三日前使ってなかったんだ?」


 そんな便利な代物があるなら使うべきだっただろう。何でこんな辺鄙な高校に特異な姿を現してしまったんだ? お陰様で俺は一躍時の人となってしまったじゃないか。


「まあ、早い話が使っていたら彰彦さんと会えないからですね。今日みたいに時間と場所を指定しているならともかく。これあんまり使い勝手良くないんですよ」


「そんなもんか」


「ちなみにあたしはこの魔法を『石ころぼ、


「それだけは止めろ」


 ウィンクしながら舌を出すナナ。なんだそれ可愛いな。


「それで? 今から何するんですか? その銃でスペードでも撃ち殺すんですか?」


「いや、そんなことはしない……」


 と言いながら、どこか「その手があったか」とも思っていた。魔法少女に現代の重火器が有効なのはナナが言っていたじゃないか。なるほど。こっちも使えるな。

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