木曜日

「宣戦布告だ。魔法少女スペード」(1)

「ナナちゃんと仲直りした?」


 珍しく早くに目が覚めてしまい、することもないから登校してきた俺を君野はそんな言葉で迎えるのであった。君野はいつもこんな時間に登校していたのか? ……暇なのかな。


「おはよう、とかじゃないのか普通」


「おはよう。ナナちゃんと仲直りした?」


 頑固だなぁ。というかヤンデレっぽくてちょっと怖い。


「……したよ。昨日とか一緒に寝たぐらいだし……ああ、添い寝だからな。そういう意味じゃないから」


「そういう意味?」


「何でもない」


 君野は首を傾げるが俺はあえてそれを無視して自分の席に着く。肩に掛けていた鞄を足元に放る。ふう。解放された気分だ。


「まぁ、でも良かったよ。彰彦くんなら仲直りしてくれると思ってたけど、まさか昨日の今日でと思わなかったなぁ。それだけナナちゃんの事が大切だってことかな?」


「大切……ではないけど、何だろうなぁ」


「……? どうしたの彰彦くん。慌てて否定するとこじゃないの? 『おわわー! そんなんじゃないわボケー!』って」


 誰だよそいつ。おわわーとか言ったこと無いぞ。どういう感情なんだよ、おわわー。今度から折に触れて言ってみようかな、おわわー。気が触れたと思われるだろうか。


「いやなに、諦めて逃げてばっかじゃ駄目だと思ってな。そろそろ安芸津彰彦という人間も、色んなことに立ち向かっていこうかと」


「すごい。なんかスッキリした顔してると思ったらそんなこと思ってたんだ」


 はー。君野が嘆息する。

 別にすごくはなくないか。具体的なこと何一つ言ってないぞ。


「あの彰彦くんをこんなに変えちゃうなんて。私ってすごいなぁ」


 そっちか。うっかり褒められたと思ってしまった。

 何となく気恥ずかしくなって顔を手で覆う。


「てっきり来る途中にトイレでも行ってきたのかと思ってたよ」


「そんなこと思うな」


 思っても口にするな。クラスメイトが聞いてたらどうすんだ。まあ、気にしないんだろうな。こいつは。


「うんっ、いいツッコミだね。いつもの彰彦くんだ」


「なんじゃそりゃ」


 魔法少女たちの事は置いておくとしても、こいつはこいつで謎が多いよな。独特の空気というのか。


「そういえば妹さんのことはナナちゃんに言ったの?」


「ん? いや言ってない」


 なんか今日ぐいぐい来るな。何でまだ誰も来ないんだよ……。


「取り敢えず目の前の事を片付けてからになるだろうな」


「なにそれカッコいい。敵? 敵とか倒すの? 日下先生?」


「いや、違う」


 何で今日ふざけたおしてるんだろう。機嫌が良いのか?


「じゃあ課題とか? なんか出てたっけ」


「気持ちの問題なんだよ。俺たちはやるぞって宣言する。まあ、そこからだな」


「俺、たち。じゃあナナちゃんのことでもあるんだ」


 おっと、失言……? でもないか。


「それで? 宣言して、その後に敵を倒すの?」


 なんかふざけてる割には的確に核心をついてくる。俺が分かりやすいとかいう次元じゃない気がするが。


「そんな直ぐ倒せるぐらいならとっくにやってるだろうさ。今は無理だ」


「じゃあ、どうするの?」




「まあ、特訓しかないだろうな」

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