「ちょっと、嫉妬しちゃったな」(2)

「あれー? どしたの彰彦ちゃん。今日シフトじゃないっしょ」


コンビニに入るや否や、赤ら顔の店員に絡まれてしまった。というか、白雪先輩だった。また飲んでいるのだろうか。いい加減本部とかから怒られるのではないだろうか。


「いや、客として来たというか……。ナナ来てません?」


「魔法少女ちゃん? 来てないと思うけど。何々? 喧嘩でもしちゃった? お姉さん相談に乗っちゃうよ?」


 この人はバイト先に何しに来てるのだろう。

 暇つぶしとしか思っていないのではないか。……まあでも助かるか。

 俺は仕切りを跨いで白雪先輩の隣に立つ。


「喧嘩ってほどのことも無いですけど……。家に帰っても居なかったんでどうしようか悩んでいたところです」


「ふーん? 今朝までは居たんだよね?」


「はい」


「じゃあ、その前後に何かあったわけだ」


 昨日の魔法少女二人のやり取りを思い出す。酔っぱらっているくせに変なところ鋭いな、この人。


「まあ、そうなんですけど……」


 魔法がどうとか言うべきだろうか。ナナは気にしないだろうけど、俺の頭がおかしくなったと思われる可能性がある。ただでさえ頼れるものが少ない俺なのに、バイト先に居辛くなったら本当に命に関わる。だけど、ナナも今後の人生が掛かっているわけで。


『ナナちゃん、妹さんにそっくりだもんね』


 くそっ……。何で今思い出すかな。


「あー……。ナナの奴、自分を魔法少女とか言ってるじゃないですか」


 もうどうにでもなれ。そもそもこの酔っぱらいは飲んでるときのことをあんまり覚えてない。頭おかしいと思われても、次に会う時には忘れてるかもしれない。なら、いいか。


「言ってたねー。それ関係?」


「それ関係です。実は今魔法使いになるための試験中で、それに合格しないとただの人間にされて故郷を追われるそうなんで」


「ふーん……」


 白雪先輩はいつの間にか手に持っていたお茶のボトルを軽く振り、ちゃぽちゃぽと音を鳴らしている。

 何だろう、それ。何の仕草なんだ。こいつ頭おかしいなと思われているのだろうか。まあ、言っていて自分もおかしいと思ってるからしょうがない。

 やはり言うべきでは無かったか。


「試験かー、何か懐かしいな」


 やっぱり酔っているみたいだ。あんまり会話が噛み合っていない。何か心配して損した気分だ。というか大学で試験はいくらでもあるだろうに。


「そういうわけなんで、ナナ探してきますね」


 白雪先輩に相談したことを後悔しつつ、仕切りを跨いでコンビニを後にしようとした。


「ちょいまち」


 制服の袖を掴まれる。何なんだそれ可愛いな。


「相談してくれたお礼に良いものを見せてあげよう」


「良いもの?」


「ちょっと裏に入ろうか。あんまり人目があるとね」


 何が何だか分からんが、白雪先輩と連れ立ってバックヤードに回る。今日は店長も居ないみたいだ。この人一人で店に立たせるとか度胸あるな。


「ふいーい。何か恥ずかしいな。いったんお茶飲んでいい?」


「構わないですけど」


 俺はパイプ椅子に座るが、白雪先輩は立ったまま喉を鳴らして先ほどのお茶を飲む。良い飲みっぷりだな。中身がお酒じゃないといいんだけど。


「ぷはー! うん、酔いも冷めてきた。冷めてきた」


「あのー。時間掛かりそうなら後ででも良いですよ。ナナも探さなきゃですし」


 今何やってんだろう、ナナ。あんまり良い想像は出来ないのだが。


「せっかちだなぁ、彰彦ちゃんは。こっちは結構緊張してるのにさー」


 何でだ。良いもの見せるってまさかストリップでも始めるつもりなのか。


「まあ、いいや。溜めても恥ずかしくなるだけだし。いっくよー」


 言いながら白雪先輩は右手を首元まで上げて、そこから手刀でも打ち込むかのように一気に降ろす。


 瞬間。目を刺すような光が俺を包み、思わず目を伏せる。何が起こったのだろうか。隕石でも落ちてきたのだろうか。そういえばナナが流れ星を操ってたな。まさかナナが……。

 光がようやく収まり、顔を上げると目の前にローブ姿の少女が目の前に立っていた。すわ、スペードの再来かと思ったが、スペードのどす黒いそれとは違いまさに純白とでも言おうか。まだ目が慣れないのかと思った。


「魔法少女スノーホワイト参上!」


 白雪先輩は元気良く叫んだが、酒のせいか照れているのか顔は真っ赤だった。

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