「魔法の使えなくなった魔法少女は」(7)
ややあって、笑い疲れたナナがぽつりと呟く。
「あたし、バイトしたことないんでちょっと不安だったんですけど」
俺は今から不安なんですけど。まあ茶々入れるのは辞めておこう。
「ここなら楽しそうに出来そうです。一緒に働かせてください!」
「勿論よ!」
「これからよろしくねー、魔法少女ちゃん!!」
ああ、仲良きことは美しきかな。兎に角これで生活費の目途は立った……いやいや、原付な。原付を弁償させるためだから。生活費じゃないから。
「じゃあアタシがレジ打ち教えてあげるから、行こうか」
「はーい」
白雪先輩がナナを連れ立って楽しそうに出て行く。そうやってるところを見ると姉妹みたいだな……あいつ何歳なんだろう。深夜働かせて大丈夫かな、とか考えつつ、やっと開いた椅子に腰を下ろす。
「ふーう」
「お疲れねぇ、安芸津ちゃん。コーヒー飲む?」
「あ、いえお構いなく」
そう? と既に席を立ってカップを並べていた店長が、一つにだけコーヒーを注いで帰ってくる。
「しかし、可愛い子ねぇ。人間離れした可愛さって言うか……本当に魔法少女なのかしら?」
「……酔っ払いの戯言ですよ」
そうかしらね、とコーヒーが並々入ったカップに口を着ける。小指は立てないといけないんですか? 何の意味があるんですか? 言わないけど。
「そう言えば二週間休んでたワケじゃない? 何か言われたりしなかった?」
「休んでも良いけど散らしてほしい、と担任に言われました」
腰を落ち着けたのは良いけども、どうにもまだ手持無沙汰だな。コーヒー貰えば良かった。
「良い先生じゃない。ワタシなんかねぇ。こんなになる前はバンドマンだったのよ」
「それは知らなかったです」
バンドマンと担任と何か関係あるのだろうか。
「だったのよ。それで学校サボって練習なんかしてたんだけどね。ワタシの担任なんかカンカンよ。メンバーの一人なんか無理矢理坊主にされたんだから」
「すっげー話ですね」
今やったら体罰で叩かれるぞ。今だと精々厳重注意じゃないだろうか。それでも怒る親は居るらしいからな。時代が違うと言うか……そう言えば店長も何歳だか分からんな。
「でしょう!? それで坊主にされた子と最近会ったんだけど、なんとお坊さんになってたのよ!」
「何ですかその話」
笑えばいいのか、驚けばいいのか分からん。トークがおばさんのそれだ。
店長は喋って喉が渇いたのか、湯気が出なくなったコーヒーを持ち、喉を鳴らして呷る。この隙を逃す安芸津彰彦ではない。
「ちょっと二人見てきますね」
俺は返事を待たずに、レジ打ちの練習とやらをしている二人の下に向かう。だが扉を開けたところで白雪先輩の悲鳴が聞こえてくる。
「痛い痛い!! ギブギブ!!」
ナナが白雪先輩の関節を極めて組伏せていた。やっぱ強いんだこいつ。
「……何してるんですかそれ」
「いやあ……。強盗が来た時の練習だよ。強いねー、魔法少女ちゃん」
いてて……と腰を痛めた年寄りみたいに腰を擦る白雪先輩。このコンビニは年寄りばっかりだ。
「そう言えば彰彦さん。あたし今夜、白雪姉さんの所にお世話になってきます」
今の今まで関節を極めていたナナが涼しい顔で宣言する。
「そうなん?」
「そうなのよねー。アタシも魔法少女ちゃんと話したいこといっぱいあるし、一日だけ借りてってもいいかな?」
はあ、良いですけど、と気の無い返事が漏れる。仲良いなこいつら。まあ、泊めるのは本人がよければどうぞって感じだ。俺の所有物でもないし、貸し借りもクソもないだろう。流石に店長の家に泊まるってなったら全力で止めるけど。
「んじゃ俺帰ろうかな」
「おー帰れ帰れ。アタシたちも帰ろうかな。魔法少女ちゃん。語り明かそうね」
「白雪先輩は仕事してください。あ、でも出来たらナナは早く寝かしてくださいよ」
言ってコンビニを後にする。ナナの子ども扱いして、と言う声が聞こえたが、敢えて無視しておいた。
やれやれ、今日こそは久し振りにぐっすりと眠れそうだ。
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