「魔法の使えなくなった魔法少女は」(5)
居た堪れない。この場から逃げ出したいくらいだ。これ以上は俺も耐え切れそうにないから、空気が読めないと言われようとも話を逸らさないとやっていけない。
「質問いいか」
「どうぞ」
手のひらをこちらに向けるナナ。少しは落ち着いたらしく、さっきまでの震えは止まっていた。
「その、魔法界ってのはどのくらいの人数でどこにあるんだ」
「人口は三万人くらいでしょうか。何処にあるかは説明しづらいですね……。何処にでもあるとでも言いましょうか……ごめんなさい、上手く言えません。強いて言うなら『魔法界』という言葉で定義づけられた概念のみの存在とでも言っておきます」
「はあ……よく分からん」
そもそも、概念という言葉の意味もよく分かっていない。説明しろと言われたら言葉に詰まる。
「じゃあ、最初に会った時お前はマンホールから出てきたじゃないか。あれはどういうことだ」
「どうって言われましても。移動魔法で人目の付かないところに送ってもらっただけですよ。概念に過ぎない魔法界から、実在する人間界に移動するのは、かなり高度な魔法なので、魔法使いと認定されるまで絶対に自力では戻れないですね」
「分かったような、分からんような」
「それこそ、あたしの『幸運』の魔法なんかじゃ全く無理です、ノーチャンスです」
大体予想はついていたが、そういう魔法だったか。あれ、『幸運』? 体力は?
「その桁外れな体力は魔法少女みんな持っているのか?」
「ええー、そんなわけないですよー」
少しだけ口調が元に戻っていて安心する。誤魔化しに過ぎないが、話題をすり替えた甲斐があったというわけだ。
ナナは立ち上がり、メイド服の裾やら袖やらを引っ張る。
「この服のおかげですよ。これ自体が魔法の結晶の様なもので、着ている間は身体能力が上がりますし、大抵の攻撃は防ぎます。そうですね、例えばあたしに向かって古今東西の重火器をぶっ放したとしますね」
物騒な例えだが、魔法界ではよくあることなのだろうか……そんなわけあるか。さっきの冗談に対する意趣返しだろう。健気な……。
「服に覆われているところは無傷で済みます」
「覆われてないところは?」
普通に疑問に思った。
実際、顔と手首から先は何も覆うものが無く、陶器のような肌が剥き出しだ。集中砲火を受けてそこだけ被弾しないわけもないだろう。
「消し炭です」
あっさりと言ってのけるナナ。その顔からは、さっきまでの悲壮的な色は消え失せていて、いつもの笑顔が少しだけ戻っている。
「まあまあ、これで話は全てですかねー。軽蔑しました?」
「軽蔑? 何で」
同情ならしたかもしれないが、なぜ軽蔑。
「あたし原付で轢かれたのをネタに、しばらく泊めてもらったり、ご飯を貰ったりしようと思っていたんですよ? 行く場所が無くて途方に暮れていましたから」
「アホ」
ナナの頭に軽くチョップをする。よほど驚いたらしく目を瞬いている。
「何とも思ってないどころか、少し嬉しかったよ。しばらく一人で暮らしてたからな。なんなら暫く泊めてやってもいい」
「……ありがとうございます」
また瞳を潤ませるナナ。やばい、ちょっと恥ずかしい。またもや直視出来ずに、両手で顔を隠しながら話を続ける。
「礼なら白雪先輩に言うんだな。無理矢理にお前を泊めたのも、お小遣いくれたのも、あの人だ」
「何で顔隠したんですか」
「自分の言葉が恥ずかしくて」
とは言え、暫く泊めるとなったら生活費がな……そういや、原付は修理で直る範囲なのだろうか。ナナのことで手一杯で帰ってくる時に確認していなかった。ふうむ。白雪先輩ねえ……。
「ナナ」
「はい」
急に呼ばれて体をびくっとさせたかと思ったら、指先を絡ませてもじもじしている。何してんのこいつ? 漏れそうなの?
「バイトしないか?」
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