ダークサイド・パトロン

コレステロール宮田

第一話 ニートイズビューティフル

従兄弟の忠行が結婚するらしい。

伯母の口からそれを聞かされて以降、母はずっと機嫌が悪い。


「まったく……昔は忠行のほうがずっと成績が悪かったのに、いまじゃあの子は高卒だけど立派にホヨダの工場で勤続8年だって。お嫁さんは市役所の市民課で立派にお勤めだって言うし。どこでこんなに差がついたんだろう。

麦子。あんた本当にこのままでいいの?悔しくないの?」


べつに。忠行は学校の成績こそ振るわなかったが、性格はからっとしていてイイヤツだ。私も一緒に働いたり結婚したりするのなら陰気で体力のない私よりも忠行がいい。悔しいとか悔しくないとかそんな気持ちはない。


あ、でも同年代の従兄弟が結婚するという件については軽くショックは受けた。忠行が結婚するということは私も結婚するような年齢になったということだが、私は二年前からずっとニートだ。結婚どころかいまだに親から小遣いをもらう身の上である。


親の説教は軽く聞き流すのが快適なニートライフのコツである。母の愚痴をBGMに朝食をかきこんだ私は、黙ってテレビに目をやった。今、時刻は九時16分。朝のニュース番組で12星座占いのコーナーが始まる時間だ。


お、やった。今日のラッキー星座はうお座だそうだ。


まあ、家で引きこもってニートをやっている私では、運が良かろうが悪かろうが一日特に何も変わったことが起こるはずもないのはわかりきっている。それなのにいちいちちょっと喜んでしまう自分が我ながら不憫である。


「ごちそうさま」

「ちょっと、麦子。あんた彼氏とかいないの?結婚は?」


母は私に就職をしろとはあまり言わない。

ここは田舎なので通勤できる範囲で仕事を探すのは難しい。仕事を探している人間がブランクの長い30前の女性ならなお仕事は見つけにくい。私の就業については母も私もほぼ絶望的だと思っている。

仕事の件はいい。だが、母は私の結婚についてはうるさく言う。

例え仕事を持っていても、女の子が30近い年齢になっても結婚しないのは親戚に顔が立たない。この地域にはそういう古い価値観がまだなんとなく漂っている。

ここでは仕事をする女は偉くもなんともないが、さっさと結婚して夫の親と同居して子どもをたくさん産む女は偉い。家事に加えて畑仕事などをこなせばさらに偉い。そこに加えて酔っぱらった親戚のおっさん連中をうまくあしらえる愛嬌があればその女はもはやただの嫁ではない、デキる妻、すなわちデキ妻である。


私はそんな偉い嫁になりたい!……とは思わないが、今の現状がいいとも思わない。親に肩身の狭い思いをさせて、しかも未だに親のすねを齧っているというのはさすがに胸が痛む。

しかし今さら私に何ができるというのだろう。


私は自分の食器を流しに運び、黙って洗い始めた。盗人にも三分の理……ではないが、私にだっていろいろ言いたい事がある。私は好きでニートになったのではないし、望んで独身を貫いているわけでもない。


だが、今の私の不利な状況で母に反論するのは下策もいいところである。

だから私は黙って食器を洗うのだ。ニートは好感度が命である。


食器を洗いながら考えた。


私は朝からご飯2杯に昨日の残り物のトンカツとおひたしをしっかりと食べた。働いてもいないし家にいても何をするというのでもないが、しっかりと腹は減るのである。そして摂取したカロリーは使われることなく私の腰まわりにしっかりと蓄積されていく。蓄積した脂肪カロリーがあるのなら腹は減らなくともいいような気がするが、しかしそうはいかないのが人間の体の不思議なところである。もしかしたら人間の体というものは腹が一杯になったら寝るというサバンナの動物たちとは出来が違って、おなかがすいていてもいなくてもとにかく何かを生産するように、働くようにと進化し続けているのかもしれない。


食器を洗い終わってもまだ母の説教のような愚痴は続いていた。見合いをしてみてはどうかとか、近所の兼業農家の長男さんがお嫁さんに逃げられたそうだから、後釜に座ってはどうかとかなんとか。


食器を洗うかゴミ捨てをするくらいの家事ですら再三いわれないと重い腰を上げない私が兼業農家の嫁などつとまるものか。相手をみてものを言って欲しい。


どうも今日の説教は長くなりそうなので、私は不機嫌な母から逃げるように二階の自室に戻ってPCの前に座った。ここが私の定位置である。

しかしPCの前に座ったからといって仕事を探すわけでもなければ、お見合いサイトに登録するわけでもない。世間のニート諸氏のように無料のオンラインゲームを楽しむわけでもない。そんなことはもうすっかり飽きてしまった。


自室にこもって私がすることといえば、ネットで自作の漫画を描くか、あるいはその漫画を見た人が書き残してくれた感想に返事を書くこと、この二つとあとは昼寝だ。


ネットで自作の漫画を発表しているというと、何も知らない人はけっこう「すごーい」などと言ってくれたりするのだが、私は報酬を受け取って漫画を描く漫画家ではない。趣味で漫画を描く同人作家だ。もちろん報酬などない。


プロの漫画家ではなく無報酬の同人作家としてネットで漫画を発表するというのは、別に偉いことでも何でもない。技術がなくても始められるし、資格もいらない。普通に働いている人たちに「すごーい」と言ってもらえるようなすごいことではない、と私は思っている。


何しろこういう場では好きなことを好きなように描いて、飽きたらやめればいいし、気に入らなければ書いた作品を削除したって構わない。

テーマは自由。表現も制約が(ほぼ)ない。描き始めた漫画を完結させようが途中で放り出そうが、書き手側の勝手で、誰からも責められない。

つまり読者が圧倒的有利な立場にある商業漫画とはちがって、こちらは描く側にすべての決定権がある。


私がニートになって二年。たいした量の漫画を書いているわけでもないし、絵がうまいわけでもないけれど、それでも継続してちょこちょこと描いているとそれなりに読んでくれる人は出来る。

頻繁に漫画を描いていた一時期は1000人近くが私の漫画を読んでくれていたので、そこで調子に乗って本を作って販売したこともある。もちろん本を作るといっても出版社を通して作る本ではなく、自分で印刷所を通し、て印刷し、自分で委託販売先を見つけて売るかイベントなどで手売りするスタイルの同人誌である。印刷その他の資金は親に頼み込んで借金をして調達した。


はじめのうちは楽しかったのだ。人気作家になったつもりで居た。けれど、ネットで漫画をアップする人がだんだん増え始め、サイトユーザーが増え、書き手に若い人が増えた。


私は元々自己肯定間の薄い人間で、気は弱いし劣等感の塊だ。読むまいと思っても若い人たちの漫画が気になったし、一度人の作品を読んでしまえば才能の差を見せ付けられている気がして落ち込んだ。他人の漫画を読むことでだんだん自信をなくした私は、そのうちに漫画が描けなくなった。

昔、本当にプロの漫画家を目指していたころと同じパターンで、私は漫画を描く事が怖くなってしまったのだ。


もし私がプロの漫画家ならば批判は当然真摯に受け止めるべきだし人気の上下も気にするべきだ。けれど今の自分は同人作家なのだから好きに描けばいいし、漫画が面白くなくても、自分が描きたければ描けばいい。

頭ではわかっているのだけれど、私は他人の漫画を読んですっかり自信を無くしてしまった。それまではあれほど楽しかったことが、何だかすべて色褪せてしまい、やがて漫画の続きを考えるということすら面倒になってしまった。

そこで自信を喪失しても、周りを見返してやろうとかもっと面白いものを描こうなどと前向きなことを考えるような私ではない。

最近の私は、自分のサイト内で自分の近況報告をするだけで、漫画はすっかり描かなくなった。描きかけだった漫画も未完結のまま放置してもう半年になる。


そんな状態なので当然ながら私の漫画を見に来る読者の数も減ってきている。以前は毎日のように書き込まれた賞賛のコメントも、一週間に一度あるかないかだ。


PCの電源ボタンを押してしばらくPCが立ち上がるまでの時間、ぼうっとモニターを眺めた。

モニターの黒い画面に映るのは冴えない表情でこちらをみつめるもっさりとした女だ。輪郭はジャガイモみたいだし鼻はニンニクみたい。それに小太りで、日焼けはしていないはずなのに顔が茶色い。それだけでも結構見苦しいというのに、手元不如意にて1年以上ヘアカットに行っていないので、髪だってぼさぼさだ。我ながら見苦しいと思う。


高校を卒業し、未来に胸をはずませながらこの家を出た18歳のときの面影はそこにはない。

漫画家になるんだと人に堂々と胸を張って宣言できたのは、いつの頃だっただろうか。

漫画家になると上京して七年間東京で頑張ったけれど、どんどんデビューしていくほかの新人仲間を見送りながら、私はデビューすらできないままだった。


結局、私は有名作家のアシスタントをしてどうにか食いつないで、それでも夢だけは捨てなかった。それなのに、私よりもはるかに年下のアシスタント仲間がデビューしたと聞いて……表面ではおめでとうと言いながら、なんだかもう、自分が何をやっているのかわからなくなってしまい、そのまま逃げるように地元に帰ってきた。


八年間自分なりに足掻いて、悩んで悩んで悩みぬいた。


自分では普通の人生を歩んでいる同級生たちよりも厳しい道を選んだ分、よほど努力し続けたつもりだった。それでも、苦しかった八年が終わってみると、私の手元には返ってきた敷金の数万円以外、何も残っていなかった。


18歳から26歳までの時間を無駄にして、そして実家に帰って二年。私は何もしていない。

本当にどうするんだ、私……。


どう考えても私の将来は薄暗い。


私はその薄らぼんやりとした不安から逃れるように漫画投稿サイト『Web picture』のマイページを開いた、すると久しぶりにコメントが来ていた。


更新ペースは各人の自由とはいえ、私のように更新が長く滞っていると、閲覧者から続きを催促するコメントが来ていることがある。

私はニートだが、一応こういった場所での「描き手」はプロではないので自分の仕事を持っている。だから、たいていの書き手は創作よりも自分の生活を優先している。

そういう事情があるので、こういう同人作品に対しては「閲覧者側はお金を払ってプロの作品を読んでいるわけではないのだから、お客様目線での催促コメントは控えるべきだ」という暗黙のルールがある。そのルールに強制力はないし、そもそもその暗黙のルールはどこに書かれているわけでもない。ルールを知らない人は当然ながら一定数存在する。


私にも何度かきつい口調の催促コメントが来たことがある。

私のように『描きたくても描けない』状態に陥っている描き手には案外こういう催促コメントが心に刺さる。期待されているのだから喜ぶべきではないかとも思うのだが、傷ついちゃうのである。


「催促コメじゃありませんように、催促コメじゃありませんように、催促コメじゃありませんように………!」


普段は自分の家の神棚すら掃除しないくせに、私はブツブツと神様に祈った。


『はじめまして。先生がお描きになっている『僕と君の町』、面白かったです。ところでこの続きはどこに行けば買えますか。返信待ってます。連絡先は以下です。090-××××-○○○○』


短いそのコメントに、私は思わず渋い顔をした。


どこにいっても買えませんよ……。だってその漫画、ただのウェブ漫画だから。人気が出たウェブ漫画が出版されるケースもないではないけれど、それは星の数ほどもあるウェブ漫画のうちほんの一握りの作品だけだ。

私のように特に人気があるわけでもない作家の漫画が出版なんかされるわけもないし、肝心の作者は続きを描く気もなく、一般閲覧者からの催促コメントすら恐れているというこの体たらく……。

あと、これは暗黙の了解ではなくて公然のネットリテラシーだが、公開コメント欄に自分の携帯番号を書き込むなんて、何を考えているんだろうこの人は。


他の描き手の中にはこういうウェブ漫画や同人誌の仕組みを知らないような書き込みは無視して削除する人も多い。けれど、私はこの顔も知らない上にネットリテラシーのネの字も知らないような閲覧者がなんだか哀れになって、無視する気にはなれなかった。

この人をこのまま放置すると、この先もどこか別の場所で自分の個人情報を危機感なく書き散らすのではないだろうか。おせっかいかもしれないがそんな気がしたのだ。


私のようなニートに同情されるこの人は一体どんな人なのだろう。ネットを覚えたての小学生だろうか。

私はなるべく丁寧な文章を心がけて返事を書いた。


私の書いている漫画はウェブ漫画で、プロの描いたものではないので本屋さんでは買えない事、そして続きは申し訳ないが(気分が乗らないので)今は描けない事。そして公開コメント欄に自分の個人情報を書き込んではいけない事。今回は私の方でこのコメントは削除するけれど、応援のコメントは嬉しかった。などなど、きっとセンシティブであろう思春期手前の小学生を傷つけることのないように返事を書き、相手の公開コメントを削除した。


小学生か。

若いって、何も知らないから行動する勇気が出るんだな……。


私が今、小学生だったら漫画家を目指すなんて絶対にやめておくのに、20年前の私は漫画家になることの難しさなんて何もわかっていなかった。ただ絵を描くのが楽しくて、自由帳に好きなものを描いてはクラスの女の子たちに「すごい」と持ち上げられていい気になっていた。

小学校の教室を一歩出てみれば実力がすべての世界は冷たく厳しくて……、そりゃあいい人も一杯いたけど……、それと漫画家になるって事はまったく別だった。私はその実力社会を泳ぎきれずにドロップアウトして、今は、空白だらけの履歴書を書く勇気もないまま居食いの日々を送っている。


私は一体どうなってしまうのだろう。

世に漫画家になることに成功した漫画や小説の類は読んだことがあるが、そうなれなかった側の人間のその後を描いた漫画は見た事がない。

十代二十代の頃に何度も何度も思い描いた人生はもはや断たれ、私の前に道はない。どうなればいいのか、どうすれば自分の人生をリカバーできるのか、わからないままただ日をすごしている。母の言うように嫁にいけば安穏と生きていけるのかもと夢想したりもしたが、それでは私は安泰だが、私のようなジャガイモに似た怠け者を嫁に迎える側は自分から波乱の人生に飛び込んでゆくようなもので、それはそれで何の罪も無い私の夫氏が気の毒だ。


せめてバイトでも見つければいいのか。しかしバイトを探すとなればいくらバイトとはいえやはり履歴書は必要で、自分が書くことになるであろう空白期間の多い履歴書を思うとそれだけで私の未来はぼんやりと薄暗い……ような気がする。


ごろりと横になって窓の向こうに広がる青い空を見つめた。

子どものころはよかったなぁ。

子どものころは漫画を読んで、かいて、自分が成功する未来を夢想しているだけでよかった。そんな私を誰もとがめなかった。

当時の私は自分が漫画家になれないかもしれないとか、将来自分がジャガイモにそっくりな小太りのブスになるかもしれないとか、そんな可能性は少しも考えなかった。その芽はあの頃すでに萌(きざ)していたというのに、本人はいたって暢気なものだった。などと考えていると、まだ午前中だというのにだんだん眠くなってくる。結局、今日も私は仕事を探すでもなく、結婚相手を探すこともせず、趣味で漫画を描くことすらせずに昼寝に一日を費やしてしまうのだろう。


ダメだなあ、私。

そう思いつつ、私はもう何ヶ月も洗っていないタオルケットを手元に引き寄せ、ゆっくりと目を閉じた。


このとき、暢気な私はこの件はもうこれで解決したと軽く考えていた。

しかし、この一時間後、昼寝から目覚めた私は再びこの小学生からのメッセージを受け取った。


『こんにちは、返信ありがとうございました。個人情報の件は失礼しました。ですが、漫画の件はどういうことでしょうか。未完のまま終わるということでしょうか。それはどういった理由で未完になっているのでしょうか。具体的な理由をお聞かせください。』


……なんだこれ。けっこうしつこいな。


私は再びこの小学生に返信した。

モチベーションが上がらず漫画が描けない事、私はプロの漫画家ではないので趣味の範囲内で漫画を描いているのでかけない場合は実生活を優先して描かないことにしていること、また描き始めたらぜひ応援してください、などと、これまた相手が傷つかないようやんわりとしたため、送信した。


すると、小学生はリアルタイムで『Web Picture』にログインしていたのか、数分もたたないうちにまた返信が来た。


『描けない時は描かない、ということはあなたのモチベーションが上がらなければ永遠に未完のままということですか。それは困ります。続きを楽しみにしているのでどうか描いてください。』


私も漫画読みなのでプロアマ問わずに漫画を読み漁る。だから相手の言っていることもわからないではない。だが、何度も言うようだが私はアマチュアである。お金を貰って描いているわけではないのだ。気持ちがのらなければ書かなくともなんら契約違反でもなければ詐欺でもない。アマチュアのやることにああしろこうしろと強制できる者などいない。実際、私のようなアマチュアが気分で描かなくなるのは本当によくあることで、完結の可能性は半々くらいの気持ちで読むくらいがお互いにストレスがなくっていい。

場合によってはプロの描いた商業漫画でさえも出版社の倒産や権利関係その他大人の事情で未完のままになることもある。

もちろん描けなくなったことに対して開き直っているわけではない。素人漫画でも書き始めた以上、読んでくれる人たちに喜んでもらいたいし、未完のままもやもやさせてしまっている件については申し訳ないとも思う。


だが、描けんものは描けんのだ。

宿便と同じで、描きたいことがたまらなきゃ出ないのである。そしてそれは宿便の持ち主の意思の力ではどうにもならんのである。


というわけで、私は再び、申し訳ないが今は描けないので気長に待っていて下さい。他にも面白い漫画はたくさんあるので『Web Picture』の上位ランキングを漁ってみてください。などとオススメし、検索バーに『完結』と入力して探すと未完の漫画をうっかり読んでしまうこともありませんよ的なアドバイスまでした。

いかに物分りの悪い相手でも、ここまでしっかりと説明してアドバイスまでされれば、もうこの業界のことはなんとなく理解しただろうし、この件は解決したであろう。さて、昼飯でも食おう。


しかし私は甘かった。

日本で長らく受け継がれてきたおもてなしの心というか、消費者第一主義が日本人のあり方を変えてしまったのだろうか、件の小学生はまたもやコメントを送ってきた。


『どうすればあなたのモチベーションが上がりますか。

お金を払えばいいですか。電子マネーなら少しは用意があるのですぐにお支払いできます。また銀行口座の場合は(以下略)』


事ここに至り、無職ライフではほとんど機能することのない私の危機感がようやくうすぼんやりとしたサイレンをならしはじめた。

この小学生閲覧者はとうとう行くところまで行ってしまった感がある。

たかが素人の書いたウェブ漫画にこれほど執着し、なおかつ金を払うなどと言い出した。利用する漫画サイトにもよるが、基本的にはこういった素人のウェブ漫画についてサイト内で金銭の授受についてやり取りをするのは規約違反である。この小学生は規範意識がゆるいのかそれともそもそも規約など読まずにサイトを閲覧しているのか。

なんにせよ素人のウェブ漫画家(笑)のモチベーションをあげるために金を払うなど並の執着ではない。


もしや、いやもしやではなくほぼ確定で、私は危ない人相手に丁寧な返信を数回にわたって行い、つけいる隙をチラ見せしつづけたということになるのではないだろうか。


熱烈ファンコールに少しいい気になっていた私はうなだれ、しばしの沈黙ののち、件の小学生のアカウントを静かにブロックした。ブロックと運営への通報は通常はセットで行うものだが、逆恨みが怖いので通報はしなかった。これで相手側からはブロックされましたと通知が行くのではなく、私のアカウントが見つけられないという状態になる。つまり、相手側から見れば私がひっそりと『Web Picture』を退会したかのように見せるテクニックなのだ。


これでもうややこしい目にあうことはないであろう。

私はほっと息をついて昼食をとるため自室を後にした。

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