タイムリープサッカーのルールは難解!!

ちびまるフォイ

サッカーゴールはどっちも同じ

『さぁ、今回もはじまりました!

 選手全員がタイムトラベラーのタイムリープサッカー!

 今夜はいったいどんな結末になるのでしょうか!!』


『楽しみですね、この試合の後に控えているドラマが』


『なお、試合の状況によっては放送枠が延長する場合がございます』


『死ね』


サッカーの実況アナウンサーと解説者のひと悶着がありつつも

選手が試合会場へ入って来た。


ホイッスルの音が鳴らされてキックオフ。


静かな立ち上がりかと思いきや、

フォワードの選手はいきなり突撃してきた。


「気をつけろ! 速攻だ!!」


自分のチームに伝えるが敵のフォワードは

こちらの作戦を知っているように、あらかじめ決められた配置へと向かう。


「奴ら、すでにタイムリープしてきてるぞ!!」

「こっちも負けちゃいられねぇ!!」


自軍の選手たちも次々にタイムリープを実行する。


※ ※ ※


ピーー!


ホイッスルの音とともにボールが蹴りだされた。

敵陣の選手たちは一気に攻めてくる。


しかし、タイムリープしてきた今度はちがう。

あらかじめ知っていた場所で待ち構えてボールを奪った。


「いくぞ! 翼くん!!」


自軍のフォワードはドリブルをして、とんでもシュートを放った。

一瞬、虎の残像すらも見えるほどのすさまじい勢いだったが

待ち構えていたキーパーにあっさり止められてしまった。


「ふふふ、どんなに勢いがあろうと、

 どこに来るかわかっていれば止めるのは造作もない」


「これが……守護神の力か……!!」


敵のゴールキーパーは守護神の二つ名で有名だった。

キーパーの成績ではなく、プライベートの付き合いが異常に悪く

何に誘ってもすべて断る頑なな姿勢からそう呼ばれていた。


「あの守護神を突破しない限り、こちらの勝利はないぞ!!」


監督はあつい檄を飛ばして、ハーフタイムが終わり

選手は温存していた体力をすべて解放。


後半戦は敵味方のすさまじいタイムリープ合戦となる。


攻め込まれそうになったら、過去に戻ってディフェンスを整える。

ボールを奪われたら、過去に戻って攻める場所を変える。


「もう時間がない! どうすればいい!」

「僕に任せろ!!」


ディフェンダーの一人が自信満々に宣言した後、

審判がいきなりレッドカードを出した。


「君、試合外へのタイムリープは禁止です。失格!!」


ディフェンスが1人退場となってしまう。


「おまっ……なにしたんだよ!?」


「試合前まで戻って、相手の選手の飲み物に下剤入れようかと……」


「バチバチの失格案件じゃねぇか!!」


試合中、全選手にはタイムリープ能力が与えられるが

あくまでそれは試合会場に入ったときまでの渡航が許されている。


試合前の時間まで戻ったり、

対戦相手が生まれる前に戻ってから相手を殺して

機械と人間の激しい戦争を有利に運ぶとかそういうのはできない。



この退場が大打撃で、ついに均衡は破られる。


『ああーーと! ついにここで得点!!

 試合終了2秒前についにゴール!! 敵チーム、勝利に王手!!』


「し、しまった……!!」


自軍チームのキーパーの体力がもたなかった。

タイムリープには体力が必要。


時間移動そのものは疲れないが、何度も過去をやり直すから

事実上、何試合もぶっ通しでやっているのと同じことになる。


いくつものシュートの前にタイムリープし続けて、

相手のシュートを阻んでいたがそれももう限界だった。


「誰か! 誰かまだタイムリープできる奴はいないのか!?」


翼キャプテンが滝のような汗を流しながら探す。

試合終了残りわずか。もう誰もタイムリープして戦況を覆せることなど――。


「……俺の出番のようですね」


「お前は! さっきからずっと見ているだけだった主人公!!」


「そう。どうして俺が一度もタイムリープせずに

 試合の状況を読者に淡々と告げていたかわかりますか?」


ピピー!

ホイッスルが鳴って、俺にイエローカード。


「話しをもったいつけて、回りくどいのでイエローカード」


「すみません! すぐ話します!!」


大物ぶった態度を改め、選手たちに自分の作戦を話す。


「試合終了まぎわになれば、もうみんな過去改変はできなくなる。

 だから、この状況で俺がタイムリープすれば

 その過去を再改変されることはないんですよ!!」


「なるほど!! 後出しじゃんけんというわけか!」


「ええ! それじゃ、行ってきます!! ハットトリック見せてやりますよ!!」


俺は温存していた体力を使って、試合開始前にタイムリープ。

選手同士の握手をする場所まで戻った。


「ふふふ……。悪いがこの後のすべての試合状況は記憶している。

 だれがどうボールを運ぶのかも、ね」


ピーー!

ホイッスルの音で試合が始まった。


「へい!! パスパス!!」


過去を知っているので、相手の防御の薄いラインを先読みできる。

これで一気に得点だ。


「くらえ!! スーパーシュー―ト!!」


敵のゴールめがけてはなったシュートはあっさりキーパーに止められた。

その後、何度も何度も蹴ってみたが、ことごとく止められてしまう。


タイムリープして何度も別の場所に蹴っても止められてしまう。


「な、なぜだ……なぜ止められてしまうんだ……!

 俺のシュートはタイムリープしても読めないはずなのに……!」


「いやタイムリープしなくても止められるわ」


守護神の痛烈な一言に俺は思い出してしまった。

自分が体力があるというだけで採用された選手だということに。


『ぶっちゃけ、サッカーの実力よりも

 タイムリープできる回数多い方が強いっしょ』


という監督の鶴の一声で決まったダークホース。

いくらタイムリープできてもへなちょこシュートじゃゴールは奪えない。


そうこうしているうちに、レッドカードが出されディフェンダー退場。

あれよあれよと攻め込まれて失点してしまい、再び絶望へ。


「くそっ! もう勝つ手段はないのか!」


「誰かタイムリープしてあの反則選手を思いとどまらせろ!」


「バカ! あいつは試合前にタイムリープしてるんだぞ。

 それより以前に戻ったら2人目のレッドカードになる。

 試合中に言い聞かせたって、聞くもんか」


「じゃあどうするんだよ! 何度タイムリープしても、

 相手のシュートが決まる未来は変えられないぞ!!」


どんな過去に行っても、相手の選手が鋭いゴールを決める未来は変わらない。

その選手をマークしても過去が変わったことで、別の選手がゴールを決める。


まるで神様が1点を相手にプレゼントするかのように

運命に導かれたボールがサッカーゴールに吸い込まれる。


「どうして諦めるんですか!! ホイッスルが鳴ったら試合終了ですよ!!」


俺はあきらめずに最後のタイムリープを実行した。

これが体力的にもこの小説の長さ的にも最後の時間渡航。


どう攻撃しても負けてしまう。

どう防御しても負けてしまう。


だったら変えるのはただひとつ……。


※ ※ ※


ピピ――!!


『試合終了!! 敵チームの負けです!!!』


「「「 やったーー!!! 」」」


最後のタイムリープでついに勝利をおさめた。

かっこ悪い形の勝利ではあったが、大事なのは結果だ。


チーム全員で大喜びして、みんなユニフォームの下を脱いだ。


「いやぁ、最後の最後で相手がオウンゴールしてくれるとはな!!」


「ええ、俺もお互いのキーパーに逆のゴールを教えてよかったです」



試合終盤、敵は相手のキーパーのいる自軍ゴールへと攻め

運命の神様に導かれるように華麗なシュートを決めた。

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タイムリープサッカーのルールは難解!! ちびまるフォイ @firestorage

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