少女は蒸気の夢を見る

@YukikazeSetuna

第0話 「ロンドン・レイバ」

18世紀後半、産業革命。

蒸気機関の発展により進歩を遂げたイギリス。

その影で、イギリスに技術を密かに譲歩していたある科学者が居た。

レイバ・アルトレッサ

彼が、イギリスに新時代の蒸気機関の一部設計図を譲渡したことにより

イギリスの蒸気機関は凄まじい発展を遂げた。


が、それは同時に蒸気機関から更なる次世代機関の誕生を意味していた。

かくして、イギリスは蒸気エンジンからガソリンエンジンへの移行、エネルギー革命を進めるようになったわけだが、この計画に反対したのがレイバ・アルトレッサだ。


レイバ・アルトレッサは従来の蒸気機関から内燃機関への移行は産業の衰退を意味すると主張した。

が、政府側はレイバ・アルトレッサの申し出を拒否。

エネルギーは蒸気からガソリンへと移行した。


その後、レイバ・アルトレッサはイギリスに対し戦争布告することになるのだが、ここで一つの疑問が生じる。

なぜ、技術者であるレイバ・アルトレッサが、なぜイギリスに対し宣戦布告が出来たのか。

答えは今でも謎に包まれているが、イギリス政府が当時公開した資料にはこのように書かれていた。



我が英国政府に宣戦布告をした”レイバ・アルトレッサ”は、当時英国政府が所有、管理していた新英国工業地帯で、エネルギー革命に対する反対運動を実施。

反対運動が実施される中レイバ・アルトレッサは実権を握っていた、旧英国工業地帯を中心に新政府を樹立。

その後、英国政府に宣戦布告をするものの、旧英国工場地帯に突入した英国部隊が鎮圧。



しかし、英国のどの資料を探しても旧英国工場地帯や新政府に関する記述が一切ない。

さらには、レイバ・アルトレッサに関する資料も一級極秘資料として公開されていない。


そう、蒸気に包まれし工業地帯は謎と闇に満ちたまま消えたのだった。


時は流れに流れ現代、幻の都市…

そう、レイバ・アルトレッサの新政府と思わしき国家”レイバ”(日本表記は零国)が世界各都市に対し宣戦布告をしてきたのだ。

初めは誰もが、冗談だと思った。

そりゃそうだ、樹立後すぐに鎮圧されたほんの一時期しか存在していない、幻の政府がいきなり宣戦布告をしてきたのだ。

おまけに国家の場所は不明。


各国政府は緊急首脳会議を実施。

真っ先に疑われたのがイギリスの関与だ。

当時の新政府を鎮圧したイギリスしかわからないのだから仕方がない。


各国からの問いかけに対しイギリス側は一切の関与がないと主張するも

新政府が鎮圧後も存在していた可能性があると発表した。


しかし、問題の零国の場所がわからない。

各国は軍隊をイギリスに派遣、当時の資料や工業地帯を捜索するも紙切れ一つ掴めずに終わった。


宣戦布告から1年後、日本帝国政府は非公式に零国政府と接触していた。

いや、厳密に言うと零国が日本政府に接触してきたのだ。


零国は日米と同盟を組み世界統制を図りたいようで、今技術者大国である日本帝国と武力大国アメリカとの間に関係を築こうとしていた。


なぜ世界統制なんか望んでいるかも分からないが、とりあえず危機的状況から脱出するため、日本政府・及びアメリカ政府は非公式に交渉を進めることを決意した。


もちろん、国同士の関係の構築には両者の窓口となる人間が必要だ。


こうし零国に派遣されることになった日本帝国側の交渉人として派遣されたのが、俺”柊 暁斗”なのだ。

で、隣りにいるのがアメリカ側の交渉人”クリス”だ。


今俺達は幻の都市”レイバ・スチーム”へ向かうため、零国が用意した航空機に乗っている。


「独り言はそれで終わりか?ヒイラギ」


「今までのあらすじさ、分かりやすかっただろう?」


呆れるというよりなんというか、疲れてるのか?なんていう顔で見てくるクリスが横目で俺を見て聞く。


「で、結局零国と英国新政府鎮圧に関する資料は見つかったのか?」


「いやこれが、面白いほど見つからない。」


見つかるわけがない、何百年も前に書かれた資料。極秘状態で保管されていると思われていたが資料にはこれと言って新しい情報は書かれていなかった。


なぜ極秘にしてあったのかよくわからない、そんな資料だった。


「なぜ、あんなもの極秘になっていたんだろうな、あの程度なら一般公開資料にも載っていただろうに」


「わからない、それに今回の日本帝国政府の対応も異例だ。場合によっては警備隊が派遣されるみたいだ。」


「あ、そういえば、この間米国が零国に核を撃つと脅しをかけたらしいが、零国政府は核を無力化できると返事が帰ってきた」


「まさか、そんな技術が存在するわけないだろう…」


「いや、今回ばかりは米国政府のお偉いさんも顔を真っ青にしていたぜ。なんたって、人工衛星からも見えない国、どこへ向かうかもわからない列車に乗せられるんだぜ。」


「……」

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