さよならウィンタードッグ

十海

はじめに

 私の犬が死んだ。

 2018年1月8日、時刻はおよそ20:30。

 病が判ってから17日め、あまりにもあっけない別れだった。

 他人のペットが死んだ話なぞ、さして面白くもないありふれた話題であろう。泣くために絶妙のさじ加減で調整された話なら他にいくらでもある。

「ふーん、それで?」

 それ以上でもそれ以下でもなく。Exactly、はい、それまでよ。

 しかしながら、同じような体験を持つ人にとってはどうだろう?

 この平凡な犬と飼い主の過ごした最後の日々の記録を読み、共有する何かがあるのではなかろうか。

 感情、想い、絆、心、悔悟、無念、そして虚無。様々な名前に分化する以前の、雑多なものを含んだ何かが。

 明確に「これ」と名付けることはできないが、漠然とただよう何ものかを吸い、己の内側を巡らせ、浸る。そのことによって、重く凝り固まっていたしこりを解きほぐすことができるのではないだろうか。

 

 故に、記そう。


 事の起こりは2017年12月。しかし、本当はもうずっと前から、静かに始まっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る