二之剣 「開始」

 自らが剣を抜き、勇者となると宣言したソラ。彼の元に、出場者の一人が近づく。先ほどのパフォーマンスに不満を持ち、ソラに文句を言いにいくのか。


「ソラ、来たな。待ってたぜ。ソラには負けないからね」


 いや、違った。近づいてきたのは、ソラの友達テラだ。笑顔を浮かべ、楽しげに話している。


「ああ、だが、勇者になるのは俺だけどな」


 お互い勝ちを譲る気はないようだ。笑顔の裏に闘争心を燃やしている。きっと、お互い赤く燃え盛る闘争心が見えているに違いありません。

 今、手を伸ばし、握手をかわす。お互いを認め合っているからこそできる行動。すでにこの二人は、かたい絆で結ばれています。

 二人が握手をし終わると、出場者の皆さん、円状のステージの隅に寄る。ソラとその友達テラもまた、他の出場者と同様、ステージの隅に寄っていく。

 どうやら、出場者全員が所定の位置につき、大会を始める準備ができたようだ。


 やべー、緊張してきた。


 剣神と呼ばれたソラでさえ緊張している。それだけ、この場所には、強者たちが揃っていると言うことでしょうか。ソラでも気を抜けば、あっという間に剣を抜かれてしまうこともありえるでしょう。

 ソラ以外の出場者の皆さんからも何ともいえない緊張感が伝わってきます。周りを囲む村人たちも、出場者たちの緊張感に触れ、急に黙り込み、真剣な表情で彼らを見つめている。

 静まり返ったステージで、始まりのカウンタダウンが今、始まります。カウンタダウンが「0」になった瞬間、大会スタートとなります。

 では、カウントダウンスタートです。


 「3」「2」「1」「0」


  START≫


 0になると同時に、ステージ全体にブザーが鳴り響く。隅によっていた出場者たちが、地面を蹴り、砂ぼこりが舞う。勢いよく剣の方に向かって走り出した。


         “土”


 おっと、女性のひとりが魔法で足をひょうのような足に変化させた。剣を狙うメヒョウといったところか。

 これでは、足の速い奴が有利なんじゃないのか。と、思う方もおられるかもしれませんが、そんなことはない!!


「そうは、させない!!ほら、よっと」


 屈強な男性が次は呪文を唱える。魔法のオンパレードだ。皆さん、魔法を一斉に使い始めた。まるで、ありがたいお経を聞いているようだ。聞いていると、知らぬ間に成仏していてもおかしくありません。


        “氷”


 呪文を唱えた男性の足元から氷が地面を伝ってメヒョウの女性の足元に伸びていく。メヒョウの女性も、すさまじいスピードですが、氷の進行速度はそれを上回っています。大地を滑るように動く大蛇のごとく氷が地面を伝わり、ついに女性の足元に食いついた。


「くそー、氷が邪魔で動けない」


 女性は、地面から伸びる氷に足を掴まれ身動きが取れなくなってしまった。彼女は靴裏で瞬間接着剤を踏みつけてしまったような驚きを感じているのではないでしょうか。


「そこでしばらく止まってな」


 足止めした男性がしたり顔で女性を追い越し剣へと向かう。女性は、彼の背中を見て悔しそうに見つめると、両手を使って氷をはがそうとするが、かなり時間がかかりそうだ。

 現在のところ、この男性が一番、剣からの距離が近い。これはつまり、最も勇者になる可能性が高いということになります。さてさて、現在のペースで剣へ進めるのか見ものです。

 ですが、ここにいるのは強者揃い。そう簡単には、剣をとることはできないはずです。


「あれ!?なんだ」


「空を飛んで何かがこっちに近づいてくるぞ」


 大会が盛り上がってきたところですが、村人たちの目線は、ステージの方を向いていない。青空の方向を向いている。一体、何が近づいてきたというのでしょう。

 青空には、いくつかの点が見える。しばらくすると、点が近づいてきて、輪郭がはっきりしてきた。

 うん!?あれはドラゴンです。ドラゴンの大群が背中に生えた巨大な翼を羽ばたかせてこちらに迫ってきています。大会に思わぬ乱入者だ。

 ドラゴンたちは、まっすぐ剣の方を見ている。剣がほしいのでしょうか。あまりドラゴンが剣を振るイメージがないですが......。聖剣はドラゴンをも魅了するようです。

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