魔王の逆襲
黒泉杏哉
第1話
俺の魔王としての生涯は今終わった。
数年前に現れた勇者により我の魔王幹部は全員やられ、領土を奪われた。
我は魔物を率いて最後まで必死に抵抗した。
だが勇者にあっけなく倒された。
勇者に指一本触れることすら出来ぬまま我は死んだ。
身体は死んでいるが魂は生きているのか思考だけは出来る。
(あの勇者に報いることが出来ぬまま終わってしまった)
悔しいし腹立たしいが魂しか存在していないため声も出せない。
(俺は魔王止まりで終わってしまうのか。かつて世界を恐怖へと陥れた魔神王にはなれぬのか)
魔神王。それは魔王の遥か上の存在。魔王は魔神王の下位互換に過ぎない。
あの世界は昔魔神王が支配していたが女神と勇者の結託により魔神王は亡きものにされた。
それからというもの魔神王レベルになれたものは1人もいなく、勇者に殺られるか、老いが来て死ぬかの二択だった。
我は5000年という時を生きてきたが勇者に殺られた。
力が欲しい。力があれば。勇者を倒したい。魔神王を超えたい。
そんな不の感情が頂点に達したその時。
「ちょっと君!さっきからうるさいよ?」
我の目の前に現れたのは2本の角を生やし、尻尾が6つあり、目は赤く、髪の色は闇を象徴とせんばかりの真っ黒な髪の色をした子供だった。
「あっ、今おいらのこと子供って思っただろ?」
無論俺は声を出せないから返答することはできない。
相手のことを子供と思っていてもバレやしないのだ。
「おい!心の中で子供って思っててもバレないんだよざまぁって思っただろ」
なに。バレてる?まさか。俺の心が読めるのか?
「ちょっと心を読み取るの面倒だから......」
そう言ってその子は手を前にかざした。
すると目の位置がだんだん高くなり息をするようになった。
「よし!これでまともに話せる」
「......」
「ちょっと待ってて」
そう言うとその子は走ってどこかへ行ってしまった。
しばらくすると何かを持ちながら戻ってきた。
「はい!鏡!見てみろ」
そう言われて目の前に立つと、かつての自分の身体がそこにはあった。
「我の......身体」
角は2本、赤黒の髪に煉獄色の目。羽が生え尻尾が5つ。
確かに自分の身体だ。
「どーして?てかお前誰だ?」
「いや先程も言った通り話しにくいから。あと自分から名乗るのが常識ってもんだろーよ」
「あーそーだな。俺はベルネア・カガチ・ルシダスだ」
「かっこいい名前だね。イケメンだし体型いいし強そう」
「死んでここに来たのだから弱いよ」
我がそう言うとその子の目付きと気配がガラリと変わった。
「ほんとにそー思ってる?」
殺気が感じられるほどの問いだった。
我はこの時本能的に真面目に答えないと殺られると察知した。
「いやまだまだ上を目指せたはずだ」
「よく分かってるじゃない!そう。君はこれからもっと強くなれる」
「でも死んでしまったんじゃどうにも......」
「輪廻転生。身体は少し違えど能力や基本的能力は全てそのままだ。顔が少し変わるだけだからなんの心配もない」
「輪廻転生?じゃ俺はもう一度あの世界に?」
「あぁそーだよ。そして君にはあの世界で魔神王になってもらうよ」
「我が魔神王?そんなの無理ですよ。我なんかが......」
「ベルフェ・デス・サタナス」
「え?」
「それがおいらの名前さ」
「ベルフェ・デス・サタナス?!」
「あぁ。魔神王とはおいらの事さ」
身体に寒気が走る。本物の魔神王が目の前にいるのだから。
「え、でも死んだはずじゃ。しかもそんな幼児体型なわけ」
「おいらは確かに死んだ。でもこの世界でおいらは生きている。この死後の世界で」
死後の世界。それは死んだものが住む世界。
魔神王はその世界で住んでいたのだ。
「でもその幼児体型は......」
「おいらは昔からこんな感じだ」
「え......」
こんなちょっと可愛い子が魔神王?信じられんな。
「でもここで何してるんですか?」
「死んでここに来た魔王達を輪廻転生させるかこの世界で暮らすかを判断しているのさ」
魔神王曰く。輪廻転生するものは必ず強くなれるやつでなければならない。その地での復讐心や逆襲心の不の感情がなければならない。
一方この世界で暮らすやつは才能がないやつ、あるいは自らこの世界で生活を望む奴らだと言う。
「君には紛れもなく才能がある。まだ覚醒していないだけさ」
「ほんとですか?」
「あぁ、もしかしたら君はおいらを超える魔神王になるかもしれない」
魔神王の表情は真剣だった。
「もう決意は決まったかい?」
我はしばし考えた。
ほんとに我に才能があるのか、あの勇者に勝てるのか。魔神王を超えられるのか。
そんな不安を抱いていた。
だがそんな不安よりも勇者への逆襲心が上回った。
そして決意する。
「我はもう1度あの世界で魔王になり勇者に逆襲をする。そして人々を恐怖へと陥れる魔神王になる」
殺気と真剣な眼差し訴えた。
「分かった。それじゃ転生させるよ」
我の頭上に黒い魔法陣が現れ降りてきた。
「幸運を祈るよ。」
視界から光が消えた。
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