霜夜のアサナシウス
塩原ゆに
T0XIC
嘲罵する毒、憎悪する毒、憐れむ毒。多様な毒に塗れ、いつしか自身も劇薬であるかのような自意識過剰気味の昏い気分に陥る。薄汚れたそれは、心臓を緩く突くように俺を蝕んだ。
部屋の片隅で見るには、あまりにも狭い世界だった。
清明学園における生徒会とは、言わばガーディアンである。
学園を運営し、敵国である「
家では歴代最高の力を誇る能力だと言われ、とある軍人には周辺国家では最大の力を持つと言われた。実際、そうだろうとも思う。過信も自己陶酔もしてはいない、客観的に見た時俺の能力は人殺しに適している。それも、大勢を殺害することに、混戦に。現役軍人にお墨付きを貰ってしまっては、信じるほかないだろう。俺は、国で一番効率的に人を殺せる人間なのだ。
今日、転校生がやってきた。本来、清明学園とは国のためになる人間に成ろうとする人物を養成する学校である。故に、非常に狭い門かつ閉鎖的な学校であるというのに、外部からの転入生を受け入れたのだ──史上、初めて。
学園はもちろん、生徒会役員にとっても、異例で"違和感"の残る転入だった。一昨日に転入の旨が記載された書類が生徒会のポストへ投函され、数々の企画運営が待っている中突貫作業で完成させた書類には、経歴の一切が書かれていなかったのである。
それでも理事長印が押されていれば受け入れない訳にもいかず、先程副会長を遣いに出せば──惚れた、と。異性愛主義だったはずの副会長が、同性の転入生に一目惚れをしたというのだ。
あり得ない、とこぼした会計は、僅かの逡巡の後食堂へ行くことを決めたようで、次々役員を誘っている。 ──ふと、最後にこちらを見つめた会計は、そのアーモンド型の瞳を細め、口を開いた。
「…会長も、行きますか」
悩んだであろう間に内心苦笑しながら、是を唱えた。学園中でよく思われていないことは、身をもって知っているのだ。
仕事を終わらせ、食堂へ向かう道中。恐らく興味しかもっていないであろう会計とその他役員──書記と、副会長、双子の庶務らの頭を眺めながら、密かに持ち歩いている小型のナイフをポケットで弄ぶ。
愛は人間を変えるとは言うが、まさか異性愛主義の副会長が同性に惚れるとは。それに、いくら同性愛が一般化して数百年といえど、生存の壁には勝てない。異性愛者のほうがまだまだ多いのだ。
もしかしたら、転入生は精神汚染系の能力持ちかもしれない。僅か警戒しながら、会計が食堂の扉を開けるのをじっと待った。
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