第7話 先遣隊

━━首都カイロの中心地、新市街にあるはタハリール広場。

 エジプトにおいて、ピラミッドや黄金マスクと並んで人気を博す名所である。

 ホテル等も近くに建ち、道は舗装され車通りがある。中心には円形の緑の台地があり、短く草が刈り込まれている。

 現地の言葉で『解放』を意味するこの場所で、これからピラミッド迷宮へ挑むため決起集会を開く先遣隊と文字通りこの状況からの解放を望む人々でごった返していた。

 

 (すごい人だなぁー。なんだか美味しそうな匂いがするし。 もうお腹いっぱいなのにまたはらが鳴りそう……)

 

 早朝にも関わらず1万人くらいだろうか、多くの市民と観光客が広場へと押し寄せていた。

 お祭り騒ぎのようになり、一儲けしようと露店も建ち並んでいる。

 広場中央には長方形の台が設置され、そこには20名の男女が立っている。

 全員装備はバラバラだが、それぞれがwofワールドオブファンタジーで手に入れたであろう防具を装着し、武器を身に付けている。

 

 中心に立つ、銀色に輝き蒼い縁取りを施したメイルを着込み背中には大剣をさしている男が声を張り上げ演説をしている。

 

 彼らを囲う様に人だかりができ、煌は近づくことができないがそのよく通った声は遠く離れた煌の耳にまで届く。

 

 『━━━━のだろうか。 違うだろ!いいわけがない! 我々の手でもう一度平和を勝ち取ろう。皆、立ち上がるんだ! 今こそ力を合わせ、平穏な日々を取り戻そう━━━』

 

 (全員強そうな装備してるなー。 特に演説してる人は装備からして熟練者っぽい感じがするし。…あの人達のランクを見たいな……よし、もう少し近づくか)

 

 煌はここでの強者と言われる彼らが、どの程度のランクなのか気になり、無理矢理掻き分けて進んでいく。

 その間も演説は続いていた。

 

 『━━━この後、日が完全に上り辺りを明るく照らしたら、我々は街の周りのモンスターを殲滅する。 残ったメンバーは住民の方々と協力し、街の安全に務めてほしい。いないと思うが、隠れているモンスターをあぶり出してくれ。 各々決して無理はせずに。さぁ、皆!平和を平穏を!我々のカイロをこの手に━━━』

 

 男の演説が終わるや否や、盛大な拍手や雄叫び、口笛などが飛び交った。

 

 そんな中に、煌は「押すなよ!」「無理矢理くんじゃねぇ」と散々言われながらも、漸くランクが視認できる距離までに到着した。

 そのかん、周辺の人々のも一応確認しながら来たが、全員がノービスと頭上に表示されていた。

 ノービスの下にはランキングも表示されていたが、桁が数千万しかいなく目には入るが情報として記憶には残らなかった。

 

 先遣隊20名は台から下りず雑談をかわしている。

 

(えーっと…大体は数万か…それでもすごいなー。ノービスほとんどだけど、セカンドもいるし。 …あの男は…1983位! おぉ、高ランクプレーヤーじゃん! しかもサードか)


 煌は想像していたよりもランキングが上位であった男に驚きを隠せなかった。態度こそ驚きを出してはいなかったのだが、白装束から出た目だけが大きく開き、ふと男と目が合った。

 

 「おい、そこの君!そこの白装束の━━━」


 

 男が煌を指を差して呼ぼうとしたその時、


「キャャャャャーーーーーーーー」

甲高い女性の悲鳴が広場にこだました。

 

 「な、なんだ?!どうした!」

 「悲鳴か!おい、どこからだ?」

 周辺の人々がざわざわとするが、反響して声の出所でどころがわからない。

 

 背後から聞こえた気がした先遣隊の男は振り返った。

 「どこからだ?みんな見えるか?」

 「マハムードさん!あっちから悲鳴が聞こえます」

 と、隣にいるショートカットの女が指をさす。

 

 女が示した方向から悲鳴や泣き声、怒号が聞こえる。

 そちらに目をやれば、人だかりに海が割れるようにスーッと路ができた。

 その先、奥にいるのは2つの尾を持ち黒光りする巨大な体躯、砂漠の静かなる殺戮者━━━デススコーピオン。

 

 尾の一つには背中から胸を貫かれ、宙に持ち上げられたままピクピクと痙攣する女性が見えた。

 もう一方の尾は先から赤い液体を滴らせ、次なる獲物を狙っていた。スコーピオンの周りには何人も倒れているのが見える。

 

 「くそっ」

 マハムードは煌のことを気になったが、目前の敵に集中する。

 

 「総員、直ちに密集陣形ファランクス。ドクター、ピンドーラは怪我人の治療に当たれ。スカウト3人は他にモンスターがいないか探ってくれ━━いくぞ」


  『おおぉぉぉーーーー』

 ときの声が上がる。

 

先遣隊の編成は盾士シールダー4人、剣士ウォリアー4人、魔術師マジシャン2人、槍使いランサー2人、薬師ピンドーラ3人、医者ドクター2人、斥候スカウト2人、魔法剣士マジックウォリアー1人である。

  

 全員が台から飛びおりると同時に大盾を構えた4人が横一列に先頭を走った。4人はタイミングを合わせた様にスキルを発動する。『挑発』━━━

 

 4人は赤い光の膜に包まれた。遠く離れた場所からも目立つ赤く透明な光の球体となる。

 《挑発》は敵の意識を自分へと集中させるスキルである。

 

 デススコーピオンは尾を振り回し、刺さったままの女を投げ飛ばす。身軽になった尾を赤い球体へ向けると、カサカサと歩き出した。

 

 盾士シールダーの後ろに剣士ウォリアー槍使いランサー魔術師マジシャン、マハムードの順で追随する。薬師ピンドーラ医者ドクターは怪我人の元へ、斥候スカウトは既にその姿を消していた。

 

 デススコーピオンが盾士シールダーの目前に迫る。

 

 マハムードはデススコーピオンと戦った経験があり、自分抜きでも十分だと知っていた。仲間の総合戦闘力でなら圧倒できると、過剰戦力になると考えていた。

 だから、自分離れて手を出すことはないと高を括っていた。そして冷静に指示を飛ばす。 

 「シールダーが一撃を受けきったら、ランサー、ウォリアーは突撃。魔法はタイミングをみて放て」

 

 全員が言葉を返そうと口を開いた━━直後、「ギギギィィ」と雄叫びをあげ盾士シールダー1人に対し、尾を上下から牙のごとく噛みつく。

 けたたましい金属音を鳴らし、受けきる盾士。衝撃は凄まじく盾が歪む。

 

 「クッ、は、はやく」

 

 盾士の左右から剣士4人が別れて飛び出し、切る。

内、二人はスキルを発動。

 「半月切りムーンスラッシュ」━━切った残像が黄色く光、半月のように映る。

 「岩石割ストーンクラッシュ」━━文字通り、岩石をも割る一撃。

 

 盾士シールダーの間からは槍使いランサーが突きを放つ。6人がほぼ同時に繰り出した。

  

 『オラぁぁぁーー』


  ━━━ガキィィィンン

 

 誰一人として刃が通らない。その硬い装甲には傷一つつかなかった。まるで巨大な鉄の固まりを戦っているようである。

 

 「か、硬すぎる」

 

誰が発したか、その言葉を呟いた瞬間、

 「ギギギギギィィィァァアアーーー」

 

 歯を擦り合わせた様な金切り音を出した。その音は耳を塞ぎたくなる程で、みんな方膝をその場につく。

 デススコーピオンはぐっと少し地面に沈む。瞬間、周りを吹き飛ばすように回転した。

 

 『うわああぁぁぁーーー』

 盾士もろとも攻撃した全員が吹き飛ばされる。横っ腹から攻撃した剣士は逃げ遅れた市民を巻き込んで意識を失っている。

 

 「くそっ、俺がいく!サルマ、ダニヤ少しの間だけ頼む!時間を稼いでくれ!」

 (知ってるスコーピオンよりも強いのか……?!) 

 

「━━万物をはぜし轟炎の主よ、汝、我と━━━」


 マハムードはローブの二人へ叫ぶように指示を出すや否や、目を瞑り呪文詠唱を始めた。

 メンバーがデススコーピオンに傷一つつけることもできずに倒されたことに動揺しつつも、広場の惨状に非憤ひふんし、直ぐに冷静さを取り戻し、安定して言葉を繋げる。

 

 「わかったわ」

 と、デススコーピオンから視線を外さず返事をするサルマ。

 

 こくりと頷き返事をしないまま杖を構えるダニヤ。

 

 「ダニヤ、私は詠唱で強魔法を放つから牽制をお願い」

 

 ダニヤはまた無言で頷き、杖をデススコーピオンへと杖を向ける。詠唱破棄し言葉を紡ぐ。

 

 「アイスボール!アイスアロー!ウォーターエッジ!」

 ダニヤは水系統の魔術師マジシャンである。

 呪い師シャーマンを極め、魔術師を現在育成中のセカンド。

 「グギギギィィィァアアーー」

 ダメージが通り、デススコーピオンは攻撃が飛んで来た方へ睥睨へいげいする。物理攻撃には強固な外皮により耐性は強いが魔法攻撃には弱いのである。

 初めてダメージを受け怒りを露にし、攻撃目標をダニヤへと定めた。

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