戦え! 恐山戦士オソレンジャー3

ぜろ

第1話

 京都の五山の送り火で大量のゾンビパウダーが撒かれる、そう匿名電話が入ったのは七月も上旬の頃だった。青森の夏休みは短く、七月の末から始まって八月の二十日近くには終わる。不穏を感じ日本三大霊嬢が京都に集められたのは、八月十四日だった。一番に遠いオソレンジャーを慮ってのことである。送り火自体は十六日だ。しかし宿が取れなかったので、全員が同じ部屋で寝ることになったのは計算外だったねえと知事は言っていた。と言うのも比叡斬の薔薇十字ロザリアを筆頭に、チームワークでの攻撃を得意とする四本の散弾銃・高野散を操る雪之丞ゆきのじょうセレス・パラス・ジュノー・ベスタの四姉妹も女性だからである。女子の中に男子一人。たまらない人間にはたまらないのだろうが、朔望月朔哉には窮屈でたまらなかった。それと、おまけが一人。

「なんで当たり前のようにいるんだよお前は」

 新幹線のD席とE席、窓側で岩手名物らしい『かもめの玉子』と言う菓子をほおばりながら、ん、と楽隠居オルガンは喉を鳴らす。

 朔哉が冬服の制服なのはゾンビの血が付いても目立たないためだが、オルガンが夏服ながら長袖で、スカートの色と合っていない真っ黒なデニールの厚いストッキングなのは解せなかった。日本でも大分蒸すという盆地に行くのになぜその格好なのか、曖昧に笑ったオルガンはオソレンジャーの入った竹刀袋をぺたぺたと撫でる。久し振りに三人揃うのが嬉しいのか昨日は夜更かしをして、今はすうすう眠りの中だ。

「私もまだ一応ゾンビ志願だからね。どうやって大量のゾンビを作るのか、興味はある」

「また人んちの電話盗聴してたのかお前。どうでも良いが、ゾンビになったら即オソレンジャーに斬られるぞ」

「最近のオソちゃんは無暗にゾンビを切ったりしないよ。今年の恐山大祭だってそうだったでしょう?」

「あー……確かに」

 丑三つ時の恐山で秘密裏に行われるゾンビ成仏の儀式が七月に行われる恐山大祭ではあるのだが、オソレンジャーは単に見物しに来たゾンビに切りかかることも例年ではよくある事だった。だが今年はそれもなく、四日間の祭りは穏便に終了した。多分オルガンが滅多にゾンビを切ってはいけないと毎日のように言い聞かせていることも原因の一つだろう。最近のオソレンジャーは、なんと言うか、温厚になっている気がする。まあそれを扱う自分が温厚にならなければそれで良いことだが、と朔哉は携帯端末を見た。午後を少し過ぎた所で、無駄に長い仙台と東京間の途中である。もっとも、京都までも長いのだろうが、東京で一泊入るだけマシだ。勿論、オルガンとは別のホテルで。

 前回のロザリア事件が初関東であったように、今回の京都も初関西である。そちらのゾンビはやっと薙刀を持てるようになったロザリアか片付けているらしい。以南は雪之丞四姉妹が。そう言えば雪之丞四姉妹に出会うのも初めてだが、何歳ぐらいの物なのだろう。ロザリアは十七・八に見えたが、果たして。

「義務教育までは世話を見るけれどね」

 ぽつりとオルガンが呟くのに、うとりと眠りかけていた朔哉は片目を開けてオルガンを見る。

「それ以降は面倒見ないって言われてるんだ。だから修学旅行代わりに遠出がしてみたくて。オソちゃん達となら楽しいかなって」

 僕は入っていないのかと思いながら、朔哉は眼を閉じた。

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