第9話 巴琉3

何年ぶりに見たか。大きくはなったが昔と同じ柔らかな雰囲気を纏った背中があった。


勇「は、る・・・?」


巴「勇君。久し振り。」


勇「えっ・・・本当に、巴琉?」


巴「巴琉なんてやめて。あの時みたいに『はるちゃん』って呼んでよ。』


勇「はるちゃん、今まで何処にいたの?皆ずっと心配して((」


巴「そんな事、言わなくていいよ。私見てたから。お母さんも私の事忘れてるでしょ。」


勇君は相変わらずだ。思ってることが直ぐ顔に出ちゃうんだから。

私見てたんだよ。お母さんが私の知らないおじさんと知らない女の子と

手を繋いで楽しそうに歩いてたの。私がいなくなったこの場所を。


巴「あの子誰?」


勇「っ・・・、あの子って?」


巴「今、私のお家にいるのかな。可愛いね。」


勇「違う、あの子は・・・」


巴「いいんだ。私には帰る場所があるから。」


勇「帰る、場所?」


巴「うん!ね、勇君。」


勇「えっ・・・?」


巴「勇君は私とずぅっと、一緒にいてくれるよね。」


勇「何でっ、・・・俺は・・・!」


巴「―いてくれないの?―」


勇「ヒッ―・・・!」


皆いない。いなくなっちゃった。お母さんもお父さんもおばさんも勇君も

友達のりっちゃんも竜君もみんなみんなみんなみんなみんなみんな

いないいないいないいないいないいないいないいないいないいない


巴「・・・いなくなっちゃった。」


勇「は、巴琉・・・。」


巴「もういいや。バイバイ。」


yu side:


彼女がいなくなってから約10年。あの場所から小学1年生程の女子児童の遺体が

発見されたという報道があった。あれが彼女なのかは分からない。

遺体は鳥居の横にあった銀杏の木の下に埋まっていたそうだ。

長い間遺棄されていた為に身元の特定は困難だとされ、死体は警察の元に渡った。

巴琉はあの日、昔みたいに笑って階段の底に落ちていった。

2度も大切な人を失くした。2回目は涙も出なかった。

階段を1段、2段と下りていき、彼女の体が見えた。

その姿をじっと眺めていたら、何だか面白くなってきた。


「―ふははっ・・・、ただいま。勇君。―」



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