ゼロから始める自衛隊生活。

たけざわ かつや

前期教育編

第1話 ひよこクラブ①

 神奈川県の、海側にある某所。そのバス停にて。


「おはよー」

「おぉー、おはよう。そういや今日から同じクラスだっけ?よろしくー」

「よろしくぅ。って、去年も中学クラス同じだったじゃんかw」


朝の通勤時間、ストップ&ゴーの流れにイライラするドライバー達を余所に男子高校生二人は新しく始まる学校生活に胸を躍らせているようだ。


「そういや、綾瀬も同じクラスじゃなかった?俺たち、ツイてるよな!」

「綾瀬ぇ?あぁ、そんな女子もいたな。で、お前、あいつに興味あんの?」

「・・さすが、幼馴染様は違いますなぁ。僕らパンピーは、彼女が近くにいるというだけで幸せだというのに、幼馴染様はその有難味が理解なさってないようで・・」

「はいはい、そういうのいいから」

「そーいう余裕ぶった態度が気にいらないんじゃあ!」

「ちょ、落ち着けって!朝からテンション高けーよ」

「くっそぉ、ちょーっと近所で、ちょーっと同じ時期に生まれたからって、なんだよこの差はよぉ・・。俺だったら、幼馴染だと知った瞬間に運命ってモンを感じるのにこの男ときたら・・・」

「悪かったよ。・・じゃあ、あれだ。今日お前のこと紹介してやっから、もう泣くな」

「な、泣いてねーし!って、さり気なくハンカチ手渡すとかどんだけイケメンなんだお前」

「褒めたって何も出ねえよ。ほら、もうじきバスが来るぞ」


そう言って、二人がバスの来る方向に顔を向けた時だった。


『おらぁ!チャキチャキ動かんか!いつまでもピヨピヨ歩いてんじゃねぇ!』

『ヒヨコだってもっと早く動くぞ!テメーら人間ひとだろうが!チンタラ歩いてっと蹴り上げるからな!』


通勤時間帯の騒音に負けない怒声が聞こえ、二人は声が何処から聞こえたのか探す。やがて、その声は自分たちの背後に見える、柵の向こう側からだと気づいた。


『いいか!”集まれ”の号令が掛かったら素早く動け!歩くな!走れ!』


『もたもたもたもた・・・、高齢者かお前ら!デイサービスにでも行くか!』


『やり直し!とっとと散らんか!』


二人は柵越しに怒鳴り散らされている集団に釘付けだった。

その集団は、とても街中にはそぐわない迷彩服を着ており、怒声を上げる人間から離れたり集まったり。まるで【羊飼い】のようだった。


「何、ここ?刑務所?」

「いや、たしかここは”自衛隊”じゃなかったか?」

「”ジエータイ”?何それ?何つくってる会社なの?」

「ばーか、軍隊だよ、グンタイ!ほら、迷彩服着てるだろ」

「へぇ、これが自衛隊・・。なんか・・アレだな」

「あぁ・・アレだな」

「よく怒鳴られて平気だよな。俺だったら、とても耐えれねぇ」

「そうだな。お前だったら泣いて帰っちゃいそうだな」

「そうそう。『父さんに言いつけてやる!』って・・おい!泣かねーし!」


そうこうしてる内に、二人の前にバスが流れるように止まった。

『ご乗車ありがとうございます。このバスは横須賀中央駅行き・・』

アナウンスと同時にドアが開き、二人は乗り込む。


「いやぁ、すごいもん見たね」

「だな。俺も本物を見るのは初めてだった」

「あーしまった!写メ撮るの忘れてた!」

「やめとけ。捕まるぞ」

「そうなの?」

「いや、よく知らんけど。ほら、国家機密ってやつ?」

「コッカキミツ?何それ、ココナッツの仲間?」

「お前・・、よく高校受かったな」

「でへへ」

「褒めてねーよ!」


・・などとバカ話も一段落ついた所で、二人は無意識に、ほぼ同時に感想をもらした。


「「よくやるよなぁ」」

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