第26話 「真エンシェントリッチ」

 

 それを俺は上で見ながらフッ……と笑う。


『よくも、まぁ……良く勝ったよ。本当に君たちは勇者だよ』


 笑顔で言う。そして俺はエンシェントリッチが灰となった所へ行き、観察する。


『まぁ、リッチは倒されたら灰になるよな』


 言いながら俺はエンシェントリッチの灰を見ていると、


『ん? なんだこの違和感は……』


 俺はなにか引っかかり、エンシェントリッチの灰を見ながら言う。

 まて、そもそも何故、あの巨体でこの量の灰しか出ない? 明らかに足元に少し砂の山を作った程度の灰の量だ……。

 ――まて、もしだ……! もし! コイツがエンシェントリッチであるが、〝エンシェントリッチの一部〟だとしたら? と思うと、


『その考え間違って無いぜ、ダンナ』


 と――が答えた。その瞬間俺は、


『まだ戦いは終わっていないッ!!!!』


 と癖で勇者御一行に叫んでしまう俺。その瞬間である。

 大きな雷が勇者御一行の前に一つ落ち、勇者御一行は吹き飛ばされる。

 そこに現れたのは、


『フハハハハハ! デコイを倒すとは、本当にやるな勇者……!』


 エンシェントリッチが現れた。それもデコイでは無く、本体が。

 勇者御一行はエンシェントリッチ見て数歩後ろへ下がる。


「な、何故……」

『生きているか? か? お前たちが倒したのはデコイだ。まぁ、私の一部ではあるがな』


 ティアが驚きながら言うと、丁寧にエンシェントリッチは説明をした。

 そしてエ背後にあるエンシェントリッチは自身のデコイの灰の上に手をかざすと、灰がエンシェントリッチと同化した。

 その隙にリンとルキナはエンシェントリッチ本体に突っ込んだ。


『あー、言い忘れていたよ』

「アサヒ玄人流……!」


 リンは先程と同じ絶刀スキルを発動させると、エンシェントリッチは振り向く。


「連開花ッ!」

『昨日会ったのは――私だ』


 言った瞬間、連開花の三段切りを放つが、それを全てを魔法で構成した刃で受けきった。


『良かったな剣士勇者よ、外さなくて。ほれ、全部当たったぞ?』


 隙だらけのリンに言うエンシェントリッチ。そして、


『この刃になぁああああああああああッ!!!!』


 と言ってリンを掴んで、地面に叩きつけた。叩きつけられたリンは二回地面をバウンドして、ティア達のいる方へ転がった。


『フハハハハハ!!!! デコイと私は違うと理解した方が良いぞ』


 気配と殺意を完全に消し、背後に迫っていたルキナは念の為、ボウガンをセットし、アームブレードでエンシェントリッチを強襲した。


『――なぁ? 盗賊勇者?』

「――ッ!!」


 強襲した瞬間にエンシェントリッチの顔だけがこちらを見た。その瞬間ルキナは殺意を感じたのか、引こうとしたが引けない状況であった。

 エンシェントリッチはルキナに無数の魔法陣を展開させ、


『人の焼ける匂いを嗅いだ事が無いんだ。嗅がせてくれよ?』


 と言ってからルキナの周りで爆発が起き、ルキナは後方に吹き飛ばされ、大岩に背中から激突する。


『あーすまない。私は骨だから嗅覚とか匂いを嗅げないんだった。すまんな、勇者』

 岩に血がこびり付き、地面に血が流れた状態でルキナは気絶。リンは叩きつけられ、頭から血を流して気絶していた。


「エクスプロード!!」


 フィーはエンシェントリッチに最上級火魔法放った。


『おいおい、それしか撃てないのか? 魔法勇者』


 エンシェントリッチは飛んできているエクスプロードに指を差し、


『ハイドロショット』


 最上級水魔法で最上級火魔法を簡単に打ち消した。その後、フィーに向かってエンシェントリッチは指を差す。


『デモニックチェーン』


 拘束闇魔法をフィーに放ち、フィーの周りから黒い鎖でフィーは拘束された。


「あぁああああああああああ!!!!」


 拘束された瞬間、紫色の電撃が走りフィーは叫んだ。しかし、鎖のせいで倒れる事も出来ず、数秒後フィーは気絶する。

 一分もしないうちに勇者御一行はティアを除いて、倒された。


『デモニックチェーン。拘束された相手は魔力がある限り全身に激痛が走り続ける。滑稽だな! フハハハハハ!!!!』


 とエンシェントリッチは笑いながら言う。ティアは旗の先端を遠視リッチに向ける。


『ほう? 私と戦うか?』

「――ッ!」

 ティアはエンシェントリッチに突っ込み、旗のリーチを使いエンシェントリッチ

を突こうとする。

 エンシェントリッチはそれを魔法の刃で受け止めてから、エンシェントリッチは魔法の刃をティアに振り下ろす。

 ティアは棒の部分でパリィを行い、弾かれて隙だらけの胴にティアは旗を突いた。だが、


「――!?」


 障壁によって攻撃が阻まれた。


『残念……惜しかったな? 後少しだったが』

「この――ヴッ……」


 ティアはもう一撃与えようとした所でエンシェントリッチに首を掴まれ、持ち上げられていた。

 持ち上げられたティアはエンシェントリッチの手を掴み、足をバタつかせながらエンシェントリッチを蹴る。


『ほう! 面白い、その蹴りで私の障壁を壊そうとするか!!』

「ぐッ……! カッ……!」


 思いっきり蹴るが、障壁を割ることは出来ないティア。


『どうした? お前がこのまま首を折られて死ぬのが先か、お前が私の障壁を割り、蹴りを入れられるのが先か! やってみようではないかッ!! フハハハハハハ」


 必死に抵抗して、蹴りを入れるティアだが、ドンドン力が入らなくなっていく。


『ほれ、どうした? 抵抗しないとこのまま落ちてしまうぞ? 落ちれば、このまま首を折るだけだ……ほれ、頑張れ』

「あ……か……」


 殆ど力が抜け、エンシェントリッチの手を掴んでいたがそれすらも出来なくなり、手を離す。

 ほぼ、落ちかけるティアを見たエンシェントリッチは深い溜め息を一つする。


『もう少し楽しませてくれると思ったのにな……残念だ。では――死ね』


 エンシェントリッチは片手をティアの首に添えようとした瞬間、


『――ッ!!』


 エンシェントリッチの腕にボウガンの矢が当たり、腕が弾かれた。しかし、障壁を張っていたため直撃にはならなかった。

 エンシェントリッチは矢が飛んで来た方を見る。


『ほう、まだ生きていたのか』


 そこには全身火傷を負い、大岩に当たった時に出血をしてボロボロになったルキナがボウガンを構えていた。


「花蝶……風月ッ!!」


 ルキナの方を向いた瞬間から目が覚めたリンはエンシェントリッチに突っ込んで花鳥風月を放つ。

 斬られたエンシェントリッチは衝撃でティアを離す。それをリンは受け止め、後退し、その隙にルキナも戦線を離脱した。


「火は全てを照らし、灼熱の業火を持って全てを焼却し、我の想いに応え、そして全てを破壊し燃やし尽くせッ!!」


 いつの間にかフィーはデモニックチェーンを解除し、詠唱していた。


『その詠唱はまさか……!』

「メテオストライクッ!!」


 最上級火魔法にして、最強の魔法の一つをエンシェントリッチに放ったフィー。

 ファイアボールとエクスプロードの複合魔法で、その二つを取って修練しなければ出ない魔法。

 ファイアボールは範囲が広く、相手を燃やす魔法。エクスプロードは範囲は狭いが高火力の爆破魔法。

 その二つが合わさり、フィーの頭上に魔方陣が展開され、そこから赤い一筋の光りが出ると、大きな炎の塊ができ、エンシェントリッチに落ちていった。

 フィー、ここに来て修練が終わってメテオストライクを手に入れたのか……!!と俺は上で見ながら思う。


『貴様はデモニックチェーンがあったはずだ! なぜ動ける!?』


 エンシェントリッチはボロボロのフィーに言う。


「魔力を、放出してい……たのよ。魔力を吸うん、でしょ? なら、放出し続けて、痛みを抑え……てから、ディスペルで解除した……だけ……」


 まさかの荒療治を行なったフィーに驚きを隠せないエンシェントリッチ。

 そんなことをすれば魔力欠乏症で死に至ることがある。


『狂っている! そんな事をすればお前は自分で自分の首を締めていたのだぞ!?』

「それが、なに?」


 フィーは持っている杖に体重を掛けて、立ちながら言う。


「お前は、私以上に……大切なものを奪ったッ……!」


 フィーは魔法使いの帽子の下でニッと笑い、


「くたばれ、モンスター……」


 とエンシェントリッチに向かって言う。


『おのれぇえええええええええええ!!!!』

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