第24話 「エンシェントリッチ討伐~その2」


 ティアは死んでいる体の俺の元へやってきていた。ティアは冷たくなっているであろう俺の手を握っている。


「……薬師さん、私皆さんにお願いするとき一回目は頭を下げてしまいましたが、2回目は頭を下げなかったんですよ? なんでだと思います?」

『なんで言われてもなぁ……分からんぞ?』と俺はティアの目の前で言う。

「薬師さんが私の頭は簡単に下げて良い頭では無い。と教えてくれたからですよ?」


 優しく微笑みながら俺の身体に言う。


「あってからそんなに経ってはいない筈なのですが、薬師さんと長く一緒に過ごした気がします」


 まぁ、そうだろうな。と思い、何処かティアは遠目で感傷する様に俺の身体を見ている。


「でも、私は薬師さんにあって変わった。私は貴方のおかげでここまで来れたと思います。それに多少ですが、強くもなれました。ありがとうございます」


 言ってティアは俺の手に額をつけてギュッと手を握った。


「だからこそです。私は薬師さんの命を奪ったあのリッチを許せません」


 真剣な眼差しで俺の顔を見て言う。すると、ティアは部屋にあった時計を見る。


「こんな時間ですか……では、薬師さん……私頑張りますから、応援と私達に力を貸してください」


 言いながらティアは俺の手を離し、扉に手をかけて微笑みながら俺の身体に言う。

 そして扉を開けて、ティアは自室に戻った。


『どうすんだ? ダンナ』


 突然今まで寝ていたであろう――が話を掛けてきた。


『どうと言われてもな。俺は一旦見守るとしよう』

『ほう、それは助ける。っていう事ですかい?』

『……もうすでに俺はいつでも行けるんだが?』

『ハハハハハ! 確かに、それはあるな。ダンナ。んじゃ、今から行くか?』

『いや……俺は彼女たちが起こす奇跡を信じてみようと思う』


 俺は微笑みながら隣に入る――に向かっていう。


『まぁ、好きにしなさいんな。俺はダンナについて行くからよ』

『あいよ。その時になったら俺が行く。まぁ、そうはならないと思うがね』


 俺は――に言ってから屋根に行き、空を見上げる。すると――が存在を消した。

 フッと俺は鼻で笑い、俺は一夜を屋根の上で過ごす。

 そして、決戦を決めた次の日がやってきた。

 勇者御一行は早朝から起き、ギルドへ向かう。ギルドへ着くと早朝から既に冒険者達がギルド内に来ていた。

 冒険者達は黙って勇者御一行を見守る。勇者御一行は空いている席に座ると、ギルド内で働く店員が大盛りの肉や野菜、パンを勇者の席に置いていった。


「これは……」


 ティアが聞くと、店員はニコッと笑いながら冒険者達の方を見る。


「俺達の奢りだ。食べてくれ」

「それ食ってこの街を守ってくれ」

「俺達は応援しかできねぇ、だからこそこれくらいはさせてくれ」


 冒険者達は勇者御一行を見ながら言う。それを聞いたティアはフフと笑い、立ち上がる。

 ルキナ、フィー、リンも立ち上がり、冒険者達を見る。

 勇者御一行が立ち上がると冒険者達も立ち上がり、勇者御一行を見る。


「皆さん、泣いても笑っても今日がこの街の最後です」


 冒険者達は黙ってティアの言葉を聞く。


「でも、最後と言うのは終わりを意味する最後ではございませんッ!! 新たに訪れる今日です!!」

「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」


 冒険者達は腕を上げ、声を上げる。


「私達は勝てますッ! 皆さんと一緒に!!」


 ティアは剣を抜き、天井へ向ける。


「私はここに誓う! 今日ここで、この街で! あの忌まわしき魔王軍幹部、エンシェントリッチを打ち倒すとッ!!」


 とティアが冒険者達の士気を上げた。それを見ていたルキナ、フィー、リンは小さく笑う。


「ティア凄い」

「そうね、悔しいけど私にはティアみたいにあそこまで上手くはまとめられない」

「そうだな。あれはティアの才能の一つだな。先導者は皆を惹きつける。というやつか」


 と三人で話し、ギルド内は冒険者達の声で騒ぐ。


「頑張ってくれ!」

「この街を頼む!」

「応援してるぜ!」


 ティアはありがとうございます! と言いながら頭を下げてお礼をする。

 その後ティアは席に座り、朝ごはんを食べる。


「この頭を下げるのは別に良いですよね? 薬師さん……」


 と小さな声で言うティア。


「ん? なんか言った?」

「い、いえ! なにも!」

「そ、とりあえず食べて外に出るから」

「は、はい!」


 フィーに言われたティアは急いで朝ごはんに手をつけた。

 ああ、それで良いんだよティア。その頭の下げ方はあっているよ。と俺はティアの後ろで言って、肩に手を置く。

 すると、何かを感じたのかティアは不意に後ろに入る俺の方をみた。


「……」

「どうしたの?」


 突然後ろを向いたティアにどうしたのかと思い、ルキナが言う。

 ティアは口角を上げてから、ルキナを見る。


「薬師さんがいたような気がして。でも、大丈夫。引きずってないので」


 と言いながらティアはルキナの頭を撫で、再び朝ごはんに手をつけた。

 お、俺の事見えていたのか? 直感で俺の方を見たならこえーぞ!? う、うわぁ……勇者ってす、すげぇ……。俺も勇者でこっちに来たかった……。と思う俺であった。

 朝ごはんを食べ終わった後、勇者御一行は外壁の向こう側へ向かう。俺もそれに付いて行く。

 ティアは旗を地面に立ててかざす。フィーは瞑想めいそうを行い魔力を練る。


 ルキナはボウガンに矢をセットし、仕込みナイフ、弓の弦の調整を行う。リンは目を瞑りながら片手を刀の鞘に添えていた。それを冒険者達は見守る。

 そして、早朝から朝に変わり、朝の8時。その時、強い風が勇者御一行に吹く。

 それと同時にリンは目を開け、俺はエンシェントリッチが現れる位置を見る。そこには昨日エンシェントリッチが去る時に使った黒いゲートが現れた。


『ほぅ……逃げなかったか。その心意気は良い、家畜にしては素晴らしいな』


 と言いながら俺を殺し、この現状を作った元凶のエンシェントリッチが現れた。

 ゲートが出た瞬間にフィーは最上級魔法の詠唱を行っていた。

 リンは既にエンシェントリッチに突っ込み、抜刀の構えをしている。


『だが……学習能力が少々足らぬようだな』


 エンシェントリッチが余裕そうなトーンで言う。


「避けられるなら避けてみろ……!」


 ある程度近付き、リンの技の射程内に入った瞬間、


「アサヒ玄人流……花鳥風月……!!」

『――!?』


 リンは風の刃で一閃し、エンシェントリッチに張られていた障壁を斬った。

 それに驚いたエンシェントリッチは数歩後ろへ下がる。


『だがッ!! 隙だらけだッ! 家畜ッ!!』


 エンシェントリッチは魔法で構成した刃でリンを切ろうと振り下ろす。


『――!!』


 と思った瞬間、ルキナが背後から迫って来ていた。ルキナはアームブレードを展開し、振りかざしていた。

 反応出来ず、エンシェントリッチはルキナの攻撃を受け、リンは受け流しスキルで攻撃を避けた。

 その後直ぐに二人はエンシェントリッチから距離を置き、エンシェントリッチはまた数歩後ろへ下がる。


『まさか、これが狙いであの大技を使い私の障壁を破壊したあと、背後からの攻撃、そして貴様自身は私の攻撃を捌く手段があったと……』


 リンとルキナはエンシェントリッチを見る。


「そう」

「その通りだ。障壁は切らせてもらった。そして――」


 突然二人は後ろに下がり、エンシェントリッチから距離を取ると、


「決めろて、フィー」


 とルキナが呟く。


「エクスプロォオオオオオオオオオドッ!!!!」


 フィーが叫び、エクスプロードを放つ。昨日とは段違いの大きさの火魔法最大火力のエクスプロードをエンシェントリッチに放つ。


『フッ……だから言っただろう? 学習能力がな――!?』


 エンシェントリッチはエクスプロードに向かって手を向けたが、障壁を張ることが出来なかった。


「言っただろう? 障壁は切らせて貰った。と」


 とリンがエンシェントリッチに言う。エンシェントリッチはリンの方を見たが、迫り来るエクスプロードの方を見直し、


『クソォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』


 と叫ぶと同時にエクスプロードはエンシェントリッチの居た場所を爆破させた。

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