美少女男の娘からはじまる異世界事変にて鬼畜ロリに腹パンされる主旨

武論斗

プロローグ「女装は嵌まるから止めておけば良かった件」

――死因は、ショック死、だった…



30歳を越えた辺りから、年を数えるのを止めた。

登校拒否の引きこもりからニートへと、華麗なるステップアップを経て加齢を重ね、社会から退避、人生を浪費。

あまりある時間ときを膨大に無駄にし、喰っては寝て、クソをしては喰って、アニメを見てはゲームをし、アンチコメをしては推しを書き込み、親に悪態をついてはガチャの資金を稼ぐ、そんな家庭内暴君、オーバーロードよろしく、オーバーニートとして生き恥を晒してきた。


そんな俺が一大決心。


生まれてこの方、一向に女にモテないせいなのか、はたまた、まだ変身を残しているなのか、俺は遙か以前から興味を抱いていた“夢”を実現させた。



そう、男の娘、爆誕である!



10年近くも前にイライラ動画で知って以来、昨今の憂鬱berユーツーバーでの動画、そもそもエセックスTubeの男の娘シコシコ動画を見続け、俺もいつか男の娘に転生すべき、そう考えていた。

とは言え、そこはそこ。

ニートの帝王をナメちゃぁ~いけない。

何をなすべきかは百も承知だが、何もなさないのがニートの中のニートである俺の行動力、何かしなくちゃを何もしないで対応する超保守的姿勢、それこそモットー。

時を止める能力(俺自身)でお馴染みの俺にとって、やってみたいとは思っても、まず間違いなく、やらない。

俺はこう見えて、どう見えてるかは知らないが、用心深いし、注意深い、ついでに毛深い、故に不快。


十代の頃であれば好奇心と本能に忠実だ。

そりゃ即行、試してみてるだろうさ。

男の娘の存在を知った時点でプチおっさんだった俺が、そんな“はしたない”真似、するわきゃない。


しかし――


どうだい?

年を数えるのを止めたとはいえ、みるみる脂ぎってくるわ、頭髪は疎らになりつつあるわ、目ヤニは出るわ、肩は凝るわ、なんか眠いわ、くせーわ。

いよいよ、潮時。

今をおいてやらなけりゃ、ただのくそじじいになっちまう。


冗談じゃ~ない!


生まれてきて、何一つできず、やり遂げず、ただ老いさばらえて朽ちるのは、さすがの俺でも許せない。

だからこそ、やるしかない。

ナニかをなさなきゃ、俺は死ねない。


だから俺は、なったのだ、男の娘に!



俺がチョイスしたのは大人気キャラのコスプレ女装。

Fatファット/stayステイ nighterナイターという野球の英霊サーヴァントを使役して楽しむちょっとエッチなベースボールゲームの番外編、Fat/Giantsジャイアンツ Ownerオーナー、野球つくみたいなゲーム、通称、FGOに出てくる選手サーヴァントアストルフォ。


淡いピンクのヘソ出しセーラー服にミニスカート、と正に俺好みのビジュアル。

しかもこのキャラ、男の娘設定。

生物学的に、こいつは“男”なのだ。

つまり、男の俺がコイツのコスプレをしても本質的には女装じゃなく、男キャラのコスプレを演じている、と言い訳する事ができる、実に都合のいいキャラコス。


どうよ、俺の発想?


言い訳まで考えた末、チョイスできるこのクレバーさ。

十二分に、冷静、である。

正に、Uglyアグリー

実に、ひきニートらしい言い訳がましいナイスチョイスであると、自分で自分を褒めてやりたい。


そんな訳でコスプレ衣装を女zonアマゾンで購入、ウィッグもメイク道具も一式揃え、陰毛も剃ってパワーアップ。

いざ、届いて身にまとい、姿見で見てみたら、コレがもう、なかなかに、くるッ!


自分で言うのもなんだが、元々ルックスは悪い方じゃなかった。

ただ、根幹的に、原生的に、本質的に、考え方が、思考が、思惑が、発想が、少々キモイ。

そのキモさがこう、オーラ的ににじみ出てきてしまったいたのか、サトラレ状態だったのかは知らないが、人に避けられ、避けてきた。

結果、ボッチとなり、ソリストになった。


勿論、年のせいで軽くぶよぶよしてきてるわ、ハゲるんじゃないかと不安に駆られる毎日だったが、引きこもり故、肌も白いし、ニート故に手足も綺麗、薄毛はウィッグ被れば問題ないし、メイクとカラコンをすれば、そこそこごまかせる。

腹のたるみは気になるが、そんなもんは衣装のかわいさで何とかなる。

そこそこ、何とか見られるもんだ。

馬子にも衣装、俺にも女装。


なんか…なんか知らんが、いいぞ~、コレ!


なんというか~………こみ上げて参りました!!!



「んほぉぉぉぉおおお!」


……

………

――ふぅ。


賢者の言として、聞いて欲しい。


人間とは、知の集大成であり、それが獣との違い。

その違いは、しょくにこそ、最も現れる。

野の獣は、生きる為、ただ生きながらえようとする本能のみ、種の保存の為だけに食事を、エネルギーを摂取する。

しかし、人間は違う。

人は、食事を楽しむ。

味を楽しみ、香りを楽しみ、雰囲気を楽しみ、時を楽しみ、舌鼓を打つ。

それは無論、本能なのだが、その本能をより彩る為の知恵がある。

生きる事を楽しむ知恵が、そこにはある。

それが獣との違い、即ち、知性なのだ。


そう、俺は人間なのだ。

知性があるからこそ、本能をより楽しむ事が出来る。

知性なくして、痴性なし。

知性があるからこその恥性なのだ。

つまり俺は紛れもなく、知性派、なのだ。


――人間の証明。


そう、今や俺は人間たるを証明したのだ!


今、思わず独りでエキサイトしたのは、俺が知性派であるが所以。

人間が人間らしさとして、その生命に感謝する様。

生命に喜びを得て、これに感謝する事ができる、それこそが知性、人が人としてあるべき姿。


人間とは、かくあるべき…



――さて、と…


ふむ。

足りない。

まだ足りぬ。

もの足りない。


人間の発展、動物との違いは、好奇心の強さ、だ。

木々から下り、大地を二足歩行し、道具を作り、火を使い、捕食者のいない新たな大地を目指し、久遠の旅路に挑む、霊長の始祖を今、実感する。

新大陸を発見した西洋人が、いまだ知り得ぬその大地を、西へ西へと進出したかの如く、俺の好奇心は正に、まだ見ぬ楽園アルカディアを追い求めている。

それは正しくフロンティアスピリッツであり、旅人であり、魔訶不思議アドベンチャーなのだ。


大丈夫、大丈夫だ。


な~に、時間は12時過ぎ。

夜中だぞ、夜中。

人通りは少ないだろうし、暗がりでは男とはバレまい。


大胆!

いつもからは想像がつかない程、大胆極まりない。

とんでもない行動力。


しゅごい!


ヘソ出しミニスカピンクセーラーっつ~、とんでもない露出と派手さのせいなのか、今の俺はすこぶる大胆。

この感覚、病みつき、だ。

一歩一歩進む、そのストライドが大きい。

一流ブランドのファッションショーでキャットウォークを歩むスーパーモデルを彷彿とさせる程、今の俺の歩みは神々しい。

かつて、外を歩く時、これ程、凜々しく、意気揚々と闊歩した事があっただろうか?


なんて清々しい気分なんだ。

さすがに気分が高揚します、そんな感じだ。


対面から人が歩いてきた時、当初、避けた。

だが、どうだ?

刹那に慣れ、ごく僅かしか時間は経っていないというのに、何事もなく今ではすれ違う事さえ出来る。

それどころか、若干、擦れ違いざま、歩みを緩やかにしてみせる程の余裕さえある。


確かに夜中、ピンク髪のド派手なヘアースタイル、しかも、露出の激しいピンクのセーラー服をまとった奴が歩いていれば、それが女性であろうと視線を送られるだろう。

しかし、その視線すら今は心地いい。

いっそ、快感、だ。


しかも、何だ、この感覚は。

パンツが見える程のミニ丈のスカート、こいつの威力は?

効果抜群過ぎる。

スースーする、なんてもんじゃない。

履いてない、それくらいの感覚。

無防備にも程がある。

女ってのは、こんな感覚で日常生活を送っているのか?

なんて、破廉恥はれんち、な!


恐るべし、女、恐るべし、女装。


こんなものッ!


こんなもん、欲情せずにはいられない!!!


自宅の姿見前で自家発電してエキサイトしたばかりだというのに、もう、たまらん!

俺ジュニアが六方晶ろっぽうしょうダイヤモンドの如き堅牢さをもって、しまパンを処狭しと俺のボルケーノが活性化して止まない。

今の俺の性欲は、正に大出力の火力発電所のようだ。


うーん……


ダメだ、ヤルね!


そもそも超ミニ丈のプリーツスカートなんざ、もう、臨戦態勢の俺ジュニアが驚異的パワーリフティングしちまって、デッサンの狂った謎の勾配を形取ってる。

テント、なんて生易しい状態じゃない。

ニュートンの見付けた古典力学の法則を完全に無視した形状、怒髪天どはつてんを衝くとはこの事、それはもう珍妙奇天烈ちんみょうきてれつ、チンだけに。


どこで、する?


公衆トイレに駆け込む?

ビルとビルの間の小径こみちに入る?

駐車場の片隅、ライトの当たっていない場所?


いやいや、立ち小便じゃねーんだから。


今の俺は素直に、剛毅ごうき

コスプレとはいえ、こんな露出の高い女装のまま、夜道を十二分歩いてきた。

何人ともすれ違った。

中には若い連中や酔っ払いもいた。

勿論、おねーちゃん達も。


今の俺ならなんでもできる!


かつて、かつてこれ程、大胆に、積極的に、アグレッシブになった事があっただろうか?


いや、ないね!


今の俺だったら何でも出来る。

空さえ飛べるんじゃないか?

止まるんじゃねぇぞ…今ならオルガ兄貴の言葉の意味が分かる、そんな勢い。

すげーぞ、俺!

勇者とか、英雄とか、そんなレベルじゃねーって。

今の俺の戦闘力は、もう測定不能。


よっしゃ、決めた。

道の真ん中だ。

しかも、デカイ道。

その、ど真ん中!

俺のど真ん中、見せてやんよ!


だったら、国道しかねーだろ?

おお、よ!

国が相手だ!

何が、国、だ。

四角の中に、タマ、って入ってるじゃねーか!


よっしゃ、見せてやんよ、俺のタマをよぉ~!

それどころか、タマの中身まで見せてやんよ!

ブチ撒けてやんよ!


丑三つ時のせいか車の通りは皆無。

横断歩道も何もない大通り、道の真ん中に歩み出て、立ち止まり、しまパンを脱ぎ捨てる。

道交法?

知ったこっちゃないね。

右折禁止?

Uターン禁止?

バカヤロー!

オナ禁止って書いてねーだろ。

道と交わると書いて、道交法だろ。

そう、俺は今、道と交わってんだよ!


わーっはっはっはっはーっ!

ちょーきもちイイー!


股間の下を通り抜けそよぐ風が快感。


オラオラオラオラオラーッ!


――兆し。


むう…

早くもこみ上げてきやがった。

エキサイト済みだってのに、未体験のシチュエーションの織り成す謎の底知れぬ快感のせいで、早くも大爆発の予感、その予兆。

まあ、我慢する謂われもないし、大噴火を抑える必要はない。


エネルギーチャンバー内正常に加圧充填、発射角調整、ライフリング回転準備OK、ゲート解放準備完了。

握り圧よし、摩擦速度よし、右よし、左よし、感度よし!

タイミングは天に、トリガーは俺に。


さあ、行くぜ?


ん?

んん?


――あっ!?


右正面から車が来た。

ハッ!?

この音、左後ろからも来てるのか?

おいおい、正面の車の後ろ、後続車もいるじゃねーか!

いやいや、それどころか、歩道でこっちを見てる歩行者が何人かいる。

少し離れた歩道橋の上にも人がいるし、こっちを覗き込んでるじゃねーか。


ハッ!


サイレン?

パトカーのサイレンの音が聞こえる。

明らかに近付いて来る時の音。


この小さいカッシャって音はなんだ?

まさか、写メか?

周囲を気にした瞬間、色々な音が聞こえてくる。

と言うか、いやがる、人どもが。

好奇の眼差しで、俺を注視してやがる、ついでにカメラのレンズまで。


なってこった!!


まずい!

なにがまずいって、暴発寸前。

もう、手を止められない。

本能と理性とが激しくバトルし、後者が指し示す正解の選択肢、速やかに立ち去る、を選べない状況。

無論、逃げるさ。

だが、その前に、本能が、野生のそれが、俺を止めさせてくれない。

この場所に留まるべきじゃないのに、俺は留まり、しかし、欲望は止まらず、手も止まらん。


――野生の証明。


所詮、人間も畜生。

動物である事に変わりない。

発情期を迎えた動物の雄を抑える術等、たかだか矮小わいしょうな知性や理性なんて代物じゃ、お話にならない。

動物が生まれ出でて数億年、人間の誕生なんて僅か数百万年、今あるモラルなんてもんに限っていえば、千年の歴史さえも無い。

連綿と続く生命の、その種の存続を紐解く神々の作り出したプログラムは、人間が如きが勝てようはずもない。

悲しいかな、今の俺は種の存続そのものを実行している訳ではなく、ただのエアプ。

ほんの少し、脳の容積が増えた猿の、猿所以の、猿芝居。


人間の証明をした同じ日に、まさか僅かの時を置いて野生の証明迄してしまうとは、我ながらお粗末。


ここ迄、時間にして僅か数秒。

恐ろしい速度で物事を考え、思考する。

そして、鼓動が激しい。

ドクドクドクドクッ…

BPM180を越える程、まるで激しいメタルのドラム音のように、心臓が高鳴り、血圧が上昇。

これは、どっちなんだ?

今、この状況への焦りからくる今後への恐怖なのか、それとも快楽故の高まりなのか。

心音がうるさい。

止めてくれ、この鼓動のリズムを。

鼓動がうるさ過ぎて、頭がおかしくなりそうだ。

いや、既におかしいのか…



もうダメだ――


――果てる。



恐らく、それが俺の人生において、最後の射精、だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る