操りマウスは最初の一歩

ちびまるフォイ

おそるべき回りくどい世界征服へ

ネット注文で届いたマウスは、注文したものと全く違っていた。


「なんだよこれ。返品しようかな……」


パソコンにいれても認識しない不良品。

付属品のボタン電池みたいな小さな部品にいたっては使い方がわからない。


諦めるように取り扱い説明書を読んでみる。


「なになに……これは、人を操れるマウスです。ははは、マジかよ」


友達に小さな部品を取り付けてみた。

マウスを動かすと、友達の体もマウスに合わせて動く。


「わ、わぁ! 体が! 体が勝手に!!」


「あははは。すごいなこれ。本当に操れるじゃん」


右クリックすると右手が動き、左クリックで左手が動く。

どんな動きも自由自在。


端子を友達から外して遊びに出掛けた。


町でガラの悪い人に絡まれても体を動かして返り討ち。

店員に端子を入れてお金を引き出させる。

なんでもやりたい放題だ。


操りマウスを使いまくっていると、家にチラシが届いていた。


『大好評につき、操りキーボード 入荷!』


チラシはマウスを作っている会社からで、

ネット注文した俺の住所にセールス的に売り込んでいるようだ。


マウスでこれだけ味をしめたのだから、

キーボードともなるとどこまで、なにができるのか。迷わず注文した。


数日後に届いたキーボードは端子とセットになっていた。


「なるほどね、使い方は同じってわけか」


適当な通行人に端子をくっつけて、キーボードを操作する。


『私の名前は、○○○です。おーすごい。しゃべらせられるんだ』


通行人は俺が入力した文字をそのまま口から出した。

マウス端子もつなげれば体を動かし、キーボードで口を動かせる。


前から気になっていた女の子に告白させたり、

先生に接続して自分をほめさせたりとますますいいことづくめ。


「このツール最高だ!! もう絶対に手放さないぞ!!」


マウスとキーボードを常に携帯する変わったやつだと思われても、

それ以上に人を好きなだけ操れるこのデバイスは魅力的だ。


数日後、また家にチラシが届いていたので、慌てて確認。


「人間の体を自由に操れるようになって、あとは何ができるんだ?」



『これまでの機器のお供に! 人間USBメモリ、新発売!!』



なにができるかはわからないものの、迷わず購入。

届いたのは小さなUSBメモリだけだった。


「これまでの操れる系のとはちがうのか?」


いつものように見知らぬ誰かに端子をつないでみる。

なにも起きなかった。


「なんだよ。結構高い金払ったのに、不良品か」


家に戻るとパソコンにフォルダが表示されている。

中身を見てすぐにUSBメモリの使い道を理解した。


「これ……あの人の心の中なんじゃないか!?」


USBを取り付けた人間の記憶は動画ファイルで記録され、

性格的な特徴はテキストファイルでまとめられている。


メモ帳でテキストを書き換えれば、人の性格をがらりと変えられる。

動画を編集すれば記憶改変だって思いのまま。


「す、すごい……! これが今までで一番じゃないか!

 もう体だけじゃなくて、心まで好きに操れちゃうよ!!」


悪用すれば、フォルダをすべて消して廃人にだってさせられる。

都合のいい情報を入れて奴隷にすることだってできる。


「うおおお! 最高だ!! この会社、最高すぎる!!」


きっと次の商品も考えているのだろう。

きっと俺のもとにもチラシが届くに違いない。


でも、もう待ってられない。

いち早く手に入れて、また自分の世界を自由に変えたい。


会社の住所を突き止めてすぐに向かった。


「あの!! ここの商品のファンなんです!!」


「本当ですか。ご利用ありがとうございます」


「それで、今度はどんなものを作るんですか!?

 心も体も操れるようになった今、次はなにを!?」


「実は……もう思いつかないんですよ。アイデアがなくなりました」


「えっ」


「だから、アプリにしました」


開発者はスマートフォンに表示されているアプリを見せた。


「いったいどういうアプリなんですか?」


「これまでの、マウス・キーボード・USBの機能すべてを

 スマホのアプリを通して操作できるようにしたんです」


「て、天才だ……!!」


これまでデカいキーボードを持ち運ぶ必要があったし、

USBはなくさないように気をつけなくちゃいけなかった。


でもアプリともなれば、ずっと便利になる。


「このアプリに自分の情報を登録するだけで終わりです」


「はやく! 早くインストールさせてください!!」


「明日リリースしますから、お楽しみに。

 きっと何もかもから自由になれますよ」


「予約します!!!」


翌日、ついにアプリがリリースされたのでインストール。

自分の個人情報と性格と日常の行動まで細かく記入して、規約へ同意。


「よし!! アプリスタート!!」


アプリが開くと、体中の力が抜けた。

画面には次の行動がナビされて、体が勝手に動いていく。


「なんだ……なにがどうなってる……?」


スマホの指示に従って俺の体は動かされている。


「まさか……アプリで操られるのは……俺自身……!?」


自分で考えることも、自分で動くこともなくなり、

俺は全てのしがらみから解放されて自由となった。


必死に眼球だけを動かして周りを見てみると、

俺と同じようにスマホの画面を見ながら操られている人でごった返していた。



「だれか……誰か助けて……」



必死で目で訴えても、みな携帯の画面から体を動かすことはできなかった。

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