プロローグ2 真実

 もはや言わずもがな、私は兄を愛している。


 兄妹としてでは無く、一人の男性として。私は兄を恋愛対象として見ている。もうずっと長い間この想いを胸に秘め、兄であるりょうに近づこうとする悪い虫は私が払って来た。

 涼は見た目以上にモテる。見た目もそれなりに良いのも勿論理由になるのだが、あいつの一番の長所はその内面だろう。

 よく気が利いて、優しい。正義感が強く、義理堅い。誰にでも分け隔てなく接する人柄の良さも。それ故に隠れたファンも実は多い。一つ年下であるところの1年の私の周りにも涼に想いを寄せる友達は少なからず存在している。紹介して欲しいと頼まれた事も今まで何度かあったほどだ。


 だからこそ悪い虫も付く。事実、今まで涼が付き合って来た子達はロクな女の子が居たためしがない。まあ今はそこらへんの無駄話に時間を割くのはやめよう。

 その程度の性格ブス共はちょっと過去を調べ、脅してやれば簡単に引き下がる。



 自室の机に向かいながら圷唯あくつゆいは深く溜息を付いた。



 本当の問題はそこでは無い。



 私と涼が通う東京都にある私立蛍光院学院は日本有数の財閥、蛍光院家が所有する小中高一貫学校で入学時に難しい受験を通過しなければいけないものの、入学後はそのままエスカレーター式に進学できる。


 故に人間関係は狭く幼い頃から皆大体固まってしまっている。だからこそというか、ウチの学院には【学院3大美女】なんていう非現実的な伝統が出来ていた。勿論これらは非公式で生徒が勝手に格付けしているだけに過ぎないのだが。

 最も重要な基準の基盤になっているのはやはりルックスで、その次に重要な項目が社会的地位。その他様々な基準に基づいて厳しい選考がなされ決定されているのだとか。


 その中でも今の代の3人は黄金時代と呼ばれ、歴代でも最も長い時間をその席に位置しているほどの人物たち。



 唯は自分のノートPCを開きブックマークから学院の裏サイト、学院3大美女の公式サイトを開く。


 サイトの見出しには3人の美少女の写真が貼られ、その写真をクリックすればそのままその美少女のプロフィールに飛ぶことが出来るようにリンクが貼られている。

 投票自体もこのサイトで行われており誰が運営しているのかは分からないが、私達が入学する以前からこのサイトが存在している事から大方、卒業生が運営しているのであろうというのが大半の見解である。

 一応、詳しいプロフィールや写真を掲載することから、管理人から直接本人に許可のメールが届くらしい。過去には掲載を拒否して長い事名前のみ掲載のNO DATAと表示され続けていた事もあった。


 そのまま写真をクリックした。


 一人目に結城向日葵ゆうきひまわり。高等部2年生。国会議員の父を持ち。裕福な家庭に生まれ、その絶対的なルックスに加えて花の様な笑顔。誰にでも人懐こく、学院の大部分、生徒教師関係なく好感をもたれる程の人柄は絶対的な支持を獲得している。初等部5年生の時から学院3大美女に選考され、現在7年間維持。


 二人目は蛍光院栞けいこういんしおり。高等部3年生。現生徒会長。蛍光院家の一人娘。切れ長の目付きと凛とした振る舞い、圧倒的なリーダーシップを発揮し、校内では教師であっても逆らえるものは少ないと言われる程。初等部4年生の時から学院3大美女に選考され、現在9年間維持。


 三人目は夢乃白亜ゆめのはくあ。本名であり芸名。高等部1年生。歌手。芸能活動の合間を縫って通学。今や日本で彼女の名前を知らない者はいない。完璧なルックスとスタイル。芸能人であっても気取らないその態度に信者も多い。中等部2年生時に編入してきてから学院3大美女に即選考され、現在3年間維持。

 


 確かに女目線の私から見ても3人共見目麗しく、社会的地位にも文句を付けようが無い。二人は正真正銘のお嬢様であり、残る一人はかの有名な芸能人。実際こんな完璧超人がすぐ近くにいれば祭り上げたくなるのも理解出来る。

 別にだからといって私がそれらに羨望や僻みの視線を向ける訳では無い。私には涼だけいれば構わないのだから。他には何もいらない。


 ではなぜそれらが問題なのか。


 答えは簡単。その歴代最強の3人が揃いも揃って涼に想いを寄せている。そしてその3人ともが私の気持ちを知っている。


 当然と言えば当然かも知れない。

 3人とも涼に恋愛感情を持っているからこそ、それなりにアプローチを掛け続けている。そのことごとくを屠って来たのが何を隠そうこの私なのだから。


 その姿勢は今後も変わることは無い。

 相手が誰であっても涼だけは譲らない。

 どんな手を使ってこようが、その全てを踏み潰し、捻り潰し、叩き潰す。




「私から涼を奪おうとする奴は誰であっても潰すわ。どんな手を使ってでもね……。」



 今まで続いて来た戦いも、おそらくもうすぐ終わりが訪れるであろう事はきっと私達全員が気が付いている。

 だからこそ、最後に笑うのは私だ。

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