変化論

仕事も慣れてきて、K町の生活に不満はありながらもどうにか自分を騙し騙し生活をしていた。


5月半ばに一樹の仕事がK町常駐になったことで、改めて“同棲”のスタートをきった。

某サイトにて携帯小説を執筆し始めたのは、この頃だったはず。


きっかけは高校の頃の現代文の教師と2年ぶりに食事に行ったことがきかっけだったと思う。

恩師の名前は中川先生、独身。年齢は37歳。異性の先生ではあるけども特別な感情はもちろんお互いになく…“生徒教師以上友達未満”この言葉が合うだろうか。


基本的に会うと楽しくお話をするが、時として大人の意見をしっかり述べてくれる。

中川先生の人間性のおかげだろう…二人きりでお食事に行くことに対しても一樹は良しとしてくれている。


おっと、話が脱線。

そう、その恩師から先日「美咲さんは文章を書くことを趣味にするのが良いかもしれないね」と言われて…


『携帯小説でも書く?』

そんな冗談を放ちながら、笑ってみせた。


「私は、あまり携帯小説は好みませんが…美咲さんの今までの経験はとても貴重なので、日記でも何でも良いから形に残してみてはどうかと思って」


最初は何のこっちゃって…思ったわけで。だって、文学に興味もなければ…そんなに貴重な体験をしてきたつもりもない。


ただ、何故かその夜から寝る前に物語の序章を考えるようになった。それがエスカレートし…ノートにプロットを書くようになって。


浮かんだのは…フィクションの恋愛ものだった。

さすがに自分のノンフィクションを書ける程、ネタもないし…

その小説を投稿し終えた後、すごく清清しい気持ちになったんだ。


小説を夜な夜な考えることが趣味になってしまった私は、いずれそれが大きな目標にも繋がることになった。



そんなこんなで5月も後半を迎え…

来月の頭にはカメレオのライブに行くんだ。6月3日の仙台が終わったら次は6月17日の解散ライブか…今まで自分を支えてくれていたものが無くなると思うと、すさまじい勢いで寂しくなった。


ウォークマンを取り出し、カメレオの曲をランダムで流していると…


“変化論”と言う曲が流れた。


ー願うだけじゃもう何も変わらない

 けれど動き出せば何かがきっと変わっていくからー


その歌詞の一部が自棄に胸に刺さって、つい執筆をする指先を止めていた。


そうか…そうだった。自分が動かなきゃ何も変わらないんだ。

こんな分かりきってることに気づかされて、一人でうんうんと頷いていた。



【何かの追っかけをする人生も良い。追いかけるものがあるから頑張れるんだもの

追いかけてるバンドや芸能人を応援することが自分の夢でもいい。


けど私は、いつか小説でも何でも良いから、自分が作ったもので人に元気でも勇気でも何でも良いから与えられるような人間になりたい】


そう思った瞬間にPCを叩く指先は、いつも以上に強くなった。


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