ピーク・ボーン・マス

ダイ

アイデンティティー

 今は・・・10時14分。

 ヘルメットのバイザーの隅に映し出されたデジタル時計が教えてくれた。

 上を見上げれば薄い青色の青空、前を見れば一緒に歩く仲間の隊員たち、さらに前を見れば

ゴーストタウンの並ぶ廃墟たち、後ろを振り返れば遠くに見えるのは、都市のビル群。

 今日も何事もありませんように。

「ミドリ、何を祈ってるんだ?」

微笑んでこっちを見たのは、赤くて長い髪のクレナイ課長、今日も御美しい。

「今日も無事に皆で帰還できるように、と願っていました」

「ありがとうミドリ、ところでその"外骨格パワードスーツ"、ずっと気になってはいたんだが、

見たことない型のじゃないか?」

クレナイ課長が自分の外骨格と見比べながら。

「あっ、これですか?なんでもこれはアメリカ製のようなんです。この型はタナトスって言われてて。ちなみにあっちじゃ外骨格を"EXOスーツ"と言うらしいです」

こういうと課長の左後ろにいたキリさんがふと驚いたように振り向いて

「えっ、それもしかして自分で買ったの!?」

「いえ、スミレがプレゼントしてくれました」

私の右前にいた、私と同じく、都市機動隊第7課部隊に配属されたばかりのミツキも

「スミレさんって、さっき私が拾った写真の子?あの子どこかで見たような・・・」

「スミレはレッドダイアモンド社の社長令嬢だからもしかしたらどこかで・・・かもね」

ふとクレナイ課長は自分の外骨格の胴を見下す。

「レッドダイアモンド社には、このアーマーでお世話になっているな。

しばらくは着ているが驚くほどの丈夫さだ」

そしてクレイナ課長は前を向き、6.5ライフルを持ち、歩き始める。

 それに続き、部隊の個々もそれぞれの武器を持ち、課長の背に続き歩き始める。


 しばらくして荒廃した街の中を"パトロール"して行くが、未だ何も異状なし。

だが緊張は解けず、風の音や仲間の足音、劣化した建造物の並々が軋む音が聴こえるぐらいでしかない。体は暑いが何故か神経が凍りそうだ。

 上を見上げると空の色がまた一段と薄い青色になった、橙色も少しかかっている。

 そしてVTOLヴイトール機が上空を通過する・・・黒い煙を巻きながら。

 ・・・VTOL!?墜落してる!?

 少し遠くの方で物凄い音と驚くほどの震動がした。

「本部、こちら第7巡回班、航空機が近くで墜落した!救助へ向かう。

車両部隊コンボイと医療班を寄こしてくれ。場所は廃区画第7地区!」

 課長が無線を通して救援要請をする。


 墜落現場に近づくに連れ、銃声が大きくなって行く。

 凄まじい音だ、下手したらドリルよりも五月蝿い。

 一旦立ち止まり、全員がゆっくりと壁際から覗く。

「VTOLの前に3人、集中砲火を受けてますね」

「発火炎と着弾の仕方からして3時の方向と6時の方向から双方」

 状況を把握すると課長が指示をする。

「ミドリ、双方にスモークグレネードを投げて私と一緒にあのVTOLまで走れ。

キリはその後にバリアシートをできるだけ設置して遮蔽物を増やしてくれ。

ミツキはあの建物の最上階の下の階から狙撃してくれ。この地雷も持って行け。いいか、

増援が到着するまで5分ぐらいだ、長期戦になる」

指示を理解すると私を含めた3人は頷く。

 まずミツキがマシンピストルを持ち、建物へと小走りで移動する。

 それを視認すると「スモーク投擲」と小声で言い、VTOLの右側と左側へ1個ずつ投げる。

 僅かに点火した音がすると、次第に発煙し、青色の煙が充満していく。

 課長に続き、走る。

 背後からは弾丸が左右から流れて、地面や他の遮蔽物に着弾する。

 まだ煙があるうちにキリがバリアシートを敵側へ対するように設置していく。

 課長がVTOLへ到着すると、

 空かさず自動で敵を殲滅してくれるセントリー・ボットを展開する。

 私もキリと共に墜落機まで走り抜けて、即席シールドと瓦礫混じりの朽ち果てた柱を背にする。

 墜落機を守っていた3人のうち1人の男兵士がマシンガンの弾薬を再装てんしながら

「機動隊か、協力に感謝する。その墜落機に要人が乗っているんだが気絶してしまってな、どこか安全な場所へ非難させたいんだが埒が明かず動けん」

その仲間の赤いベレー帽の兵士はグレネードランチャーをひたすら撃つ。

「お嬢さん達、アイツらは"人造人間"だ。ロボット兵まで引き連れやがって!」

グレネードランチャーに被弾した敵の1人の体が破裂し、血が噴きあがった。

 黒い墨のような液体がVTOLのドアに僅かに付着する。

 課長は手榴弾を遮蔽物の陰から投げ、爆発の衝撃で敵部隊の目の前に瓦礫が落ちた。

「こちら側で増援を要請した。だが少しばかり時間が掛かる!」

「ここで死ぬよりはマシさ!!」

もう1人の大男もミニガンを敵が隠れている廃墟や廃車へ向けて掃射する。

 物凄い銃声、耳を劈くまでいきそうなほどに。

 だが覚悟を決めて、周りに続き私も応戦する。

 一瞬の焦りのせいでライフルの反動にひやりと制御を取られそうになるが、

訓練の時を思い出し、脇を締めて柱の隙間から敵を狙って引き金を引きながら発砲し続ける。

 絶え間ない銃声と遮蔽物に被弾した一瞬の音、間近に聴こえる爆発音に奥歯から力が入る。

「リロードする!カバーしろ!」

ベレー帽がミニガン男の右肩をたたき、しゃがむ。

「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

ミニガン男が雄たけびを上げながら再びミニガンの弾丸の雨を人造人間の軍隊に掃射する。

 人造人間が次々と黒い墨を

 男の足元がミニガンから、金属音を立てて排出された薬莢塗れになっていた。

 再装填しようとした私も、自分の足元も薬莢で埋め尽くされそうになっていたことに気づいた。

 そしてライフルの銃身の先端も赤くなりつつある。

 課長やキリさんもひたすら発砲し、悪戦苦闘している。

 撃ってはしゃがんではを繰り返している。そして敵はバタバタと倒れていく。

 銃身が赤くなっていると、銃の一部が破損してしまうかもしれないので、

 もう1丁の軽機関銃、M60E4をライフルと持ち替え、二脚を横たわった柱の上に展開した。

 猛暑と連射による発射熱の故に過熱したライフルを立て掛けた。

「なんでこんなに湧いて来るの!?」

 キリが呟く。

 私は撃ちながらふとここで思いつく。

 ミツキが向かいの建物の4階の窓際から銃身を少し退いていたのが見えた。

 再装填するのかと思い、無線で

「こちらミドリ、ミツキ、聴こえる!?」

『こちらミツキ、今リロードしてるところよ、もうじき弾も無くなりそう。そっちは?』

「こちらもそろそろかもしれない!そこから敵人造人間陣の中に変な装置とか見えない?」

『こっからじゃ"アンディー"の群れしか見えないよ。屋上から移動する。見えたら連絡するよ』

「了解。敵の狙撃兵は今の所いないようだ、オーバー!」

すると課長が拳銃に持ち替えて

「もうすぐ増援が来るはずだ!」

と言い、拳銃を撃ちまくる。

 そのとき、上空に3つの光の球体のようなものが飛んでいく。

 そして飛んでいった方向から爆発したような音と煙が上がる。

「クレナイ課長!!あっちの方向って・・・」

「都市の方向ってことは・・・」

私とキリは更なる絶望を覚えた。


「諦めるな!来るかもわからんだろ」

課長が励ます。

だがベレー帽の兵士が

「来なきゃ切り開くまでさ。ここは俺らが死守する。君達がその間にもうじき爆発しそうなVTOLの中から要人を安全な場所まで避難させてくれ」

それに同意するかのように2人の男兵士も「頼んだぜ!」と言う。

VTOLにはさっきから弾丸ばかりが撃ちつけられて、黒い煙が上がっている

『こちらミツキ、敵の軍隊が来る方向から、ワームホールって言うのかな・・・?それらしきモノが見えるよ』

「ワームホール!?」

課長が連射したライフルの故障を急いで治しながら

「ワームホールと言ったな。噂は本当だったか。よほど重要な奇襲作戦らしい。

 ミドリ、キリと一緒に非難させろ、行け!私を信じてくれ。生き残れたら最終偵察地点で会おう。 ミツキもだ!」

『了解、弾はまだあるのでまだ援護します』

「駄目だ!それにそっち側に瓦礫が多くあるのも、数にしては敵が来るのも時間の問題だ」

「ッ!?課長・・・・・・わかりました」

と迷いと生きなければという考えの中、VTOLの背後のドアをこじ開けるのに取り掛かる。

 外骨格の力を引き出してなんとかこじ開けた。

 だがその間も僅かな弾丸がドアの向こうを通過していく。

 中にいたのは若い黒髪の女性だった。首元を触るとまだ息がある、気を失っていた。

 左肩に担いで正面のまだ開けていないドアを蹴り開け、反対側に出た。

 そこには敵兵すらいなかった。

「ミドリ!そっち側は行けそう!?」

キリが機内に入り側面の敵を撃ち倒しながら聞いてきた。

「敵影なしです!行けます!」

と伝えると、駆けてきた。

 機内から出ると反対側は物静かだった。

 こっちは廃ビルが立ち並ぶが敵は駆けつけていなかった。

 すると課長と先ほどの兵士達がいる反対側で声がした。

「なんだあのデカいのは!?」「アイツも新型兵器か!?」

と声がする。

 覗くと完全武装した巨人がゆっくりと迫っていた。

 周囲の建物も余裕に超えているほどの巨体だ。


「やばいね・・・ミドリ、走って!」

「あっ・・・はい!」

キリの一声が自分の足を走らせる。

 銃声がする中、ただがむしゃらに。ゴーストタウンの通りを要人を担ぎながら走る。

 キリが後ろから付いて来てくれるかと思うと、

「クソッ!!」

彼女の頭上に巨人が外したロケット弾が被弾し、前に瓦礫が降り塞がった。

「キリさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

ショックな光景に・・・叫んでしまった。

 すると瓦礫の向こうから「平気よ!!」の声が

助かったんだと思いつつ、外骨格でも高く跳び上がることはできなそうなほど降った。

『遠回りになるけど、安全な場所で落ち合いましょ。確保したら連絡するから』

と無線からキリの声が。

「了解です。キリさん!」

と安否を確認して、またがむしゃらに走る。

 敵影は未だない、あの墜落現場が集中的になってしまっているのだろうか。


 外骨格の力でしばらくひたすら走ると、

 ゴーストシティを抜けて朽果ていなそうな家の前に着いた。

 これ以上は体力上走れないが、墜落現場からもいつの間にか離れすぎてしまった。

 煙と赤い光が遠くに上がっていた。

 その反対からは・・・砂嵐が迫っていた。

 生涯にして始めてみたが、持っていたゴーグルもいつの間にか穴が開いていた。

 このままでは視界の辛さと要人が目の痛みに襲われるだろうと思い、あの大きな家に入ることにした。

 正面のドアは開いていた!助かった!もうヘトヘトだ!!

 家の中に入ると、退去する前からそっくりにしてあったような空間だ。

「何方かいませんか!」

と声を出してみたが、物音すらしなかった・・・。

 階段が正面にある、随分立派だな。

 2回へ上がると、部屋はいくつかあってドアが少し開いていた最寄の部屋に行く。

 部屋に入ると、女の子のような部屋だ。奥にベッドがある。

 まずそこへ要人をゆっくりと降ろす。

 まだ意識を取り戻していない。

 その間に、装着していた外骨格のパックがかなり温まっていたので、外骨格を外して置いて冷やせるモノを探す。

 部屋を一度出て、拳銃を構えて、化け物でも出てこないか警戒しながら、

1階でキッチンを探す。

 リビングに出るとキッチンはその近くにあった。

 入ると電気がついて、テレビも電源はついたが、"電波を受信できません"だ。

 冷蔵庫も案の定、冷凍室を開けると保冷財を見つけることが出来た。

 ついでに冷蔵室から水と缶詰を2つずつ抱えてとりあえず部屋に戻ることにした。

 再び2階に上がり部屋に戻ると、黒髪の彼女がいなかった!

 背後から

 「動かないで!」 

 と女性の声と銃の金属音が微かにした。

 やられたと思った矢先に、急に力が抜けてしまい、私は眠ってしまった・・・。

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