大事なものは、うーん、まずさっちゃんでしょー
ごめんね。
心の中でつぶやいて、さっちゃんに技をかける。僕の母上が教えてくれた「優しく意識をオトす技」……錯乱していたさっちゃんは、音もなく倒れた。音がないのは、僕がつかまえたから。さっちゃんが怪我したら、たいへんだもんね。
誰だって、いきなり電気ネズミの力を手にしたら、困るだろう。制御不能なんだから、なおさらだ。生きるカミナリ。自分自身さえ黒焦げにするかもしれない。
そう、今いちばん危ないのは、さっちゃん自身なんだ。なのに、さっちゃんは自分の心配をしない。今やっと恐怖を爆発させたけど、それだって他の誰かを黒焦げにする心配で、うわーってなっちゃっただけなんだ。
僕は、あったかいタオルで、さっちゃんを拭いてあげる。汗びっしょり。きっと冷や汗だね。こわかったね。さっちゃんは優しいね。
さっちゃんは優しくて、優しすぎて、僕の名前を呼ばない。本名でも呼ばないし、呼び名もつけない。僕に呼び名をつけたら、僕を本当に自分のものにしちゃうんじゃないかって、こわがってる。
僕から言うのがいいのかなー。
さっちゃんの眉間のシワを、蒸しタオルの端で伸ばす。ぐにぐにぐーん。さっちゃんの顔、きれいになーれ。さっちゃんの心、やわらかくなーれ。
撫でるように拭いていたら、さっちゃんの目の端から、涙がこぼれた。
かわいそうなさっちゃん。自分を責めてるさっちゃん。そんなの、気にすることないのに。
遠くの故郷にいるだろう母上との秘密を、さっちゃんにしゃべっちゃいたいな。あのこと知ったらさっちゃん、楽になるかもしれない。
「お母さんとゆーくんのヒミツだよ」
「ひみつ、だよー」
いたずらっ子みたいな、母上の笑顔。
父上と母上が出会ったとき、もう僕は母上のおなかにいたっていう秘密。
あー、もっと早く話したらよかったなー。
さっちゃん、ごめんね。
またひとすじ、涙がこぼれた。僕はたいせつに、タオルを押しあてた。
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