夜空君の心配
やってしまった……
自分のしたことを後悔しながら、わたしはとぼとぼと家に帰る。
時間は夜の九時。普段のわたしからは考えられないほど遅い時間。
うぅ、さっきまで恵果ちゃんの家で遊んでたんだけど、気が付いたらこんな時間に……
夕飯も食べてないし、夜空君に連絡したのもさっき。
……夜道、結構怖いなぁ。
自分のせいだけど、そう思っちゃう。
夜空君、心配してるよね?絶対心配してるよ。
夕飯も作ってるだろうし……いくら夜空君は何時までに帰ってきてとか言わないにしたって、何の連絡もなしにこの時間だもんね……
何件か夜空君から連絡来てたの気が付かずにスルーしちゃってたし……
そんなことを考えながら歩いていると、やっと家が見えてくる。そして、その家の前に一人立っている人……
「よ、夜空君!?なにしてるの!?」
玄関先に立っていた夜空君を見て、わたしは慌てて駆け寄る。
まさか、外で待ってるなんて思わないじゃん!
「千雪を待ってたに決まってるでしょ。ただいま。」
いつもよりも低い声のトーン。普段ならにこりと笑ってくれるはずなのに、笑ってくれない。
あぁ、怒ってるよね。わたしでも怒るもん。
連絡もなしにとか、本当にダメだよね。
「……千雪。」
驚くほど低い声でそう言われ、わたしは思わずびくっと反応してしまう。
前にもこれくらい低いのは聞いたことがあったけど、それがわたしに向けられてるって思うと、なんか涙が出てくる。
「別に、遅く帰ってくるのもかまわないし、友達と遊ぶのもかまわない。
作った夕飯が無駄になるのもいいしね。」
夜空君はそう言うと、はぁっと息を吐く。
「でも、せめてなにかは連絡してよ。」
「うん。ごめん。」
「わかったんならいいんだけどさ。じゃあ、家に入るよ。」
夜空君はそう言うと、わたしに背を向けてすたすたとドアのほうに歩き出す。
わたしもついていくけど、驚くほど足取りが重い。
「何か、食べてきた?」
玄関のドアを開けながらの問いかけに、わたしは首を横に振る。
すると、夜空君は溜息をついてから「夕飯、温めなおすね。」と言う。
今回の件は、完全にわたしが悪い。
でも、こんなに機嫌が悪い夜空君を見ると、すごい泣きたくなってくる。
夜空君は夕飯を温めた後、「仕事が残ってるから」と言って地下室に行ってしまった。
夕飯は今日も美味しかったけど、心は晴れなかった。
翌朝、夜空君に話しかけようとしても、「大翔さんに呼び出されてるから先行くね。」と夜空君は早くに学校に行ってしまった。
久しぶりの一人での登校は、こんなに長かったかなと思うほど長く感じてしまう。
学校についてからも、移動教室とかが重なって話すタイミングが全くなかった。
だから、昼休みに一緒にお弁当を食べようとして教室に行ってみる。
いつもは夜空君から来てくれるんだけど、今日は夜空君が来てくれない気がしたから。
「夜空君?」
教室の中を覗き込みながらそう尋ねるが、返事がない。
いくら教室の中を見渡してみても、夜空君の姿は見えなかった。
「あの、夜空君は?」
わたしは、近くにいた女の子にそう尋ねてみる。
「ああ、なんかさっき飲み物買いに行きました。」
「そっか……ありがとう。」
また会えなかった。
そう思うと、どうしても気持ちが暗くなる。
夜空君が仕事とかで帰ってこれないから一人だったことはあるけど、今回みたいな事は初めて。
だから、どうしたらいいかわかんなかった。
「あの、もう少し待ってたら来ると思いますよ?」
「うん。ありが――」
そこまで言ったとこで、ポケットの中のスマホが震える。
画面を見てみると、夜空君からメッセージが来ていた。
『ごめん、ちょっと用事があるから、今日は一緒に食べれない』
「あ……」
わたしは、思わずそう声を漏らす。
「あの、どうかしました?」
「ううん、なんでもないよ。今日、夜空君忙しくて一緒にご飯食べれないんだって。仕方ないよね。」
わたしはそう言うと、夜空君の教室を後にして、自分の教室に戻る。
「ただいま……」
今までにないくらい重い気分で開けた玄関のドア。
帰りも、夜空君は何か用事があるとかで会えなかった。
「はぁ……」
溜息を吐いてしまうけど、悪いのはわたしだから仕方ない。
自分の部屋に鞄を放り投げた後、部屋着に着替えてベッドに飛び込む。
何もする気が出ない。
ただぼーとしていると、ガチャリと玄関のドアが開く音がする。
「ただいま。」
そんな声が聞こえてきて、わたしは何故かほっとした。
急いでベッドから起き上がると、部屋を出る。
すると、ちょうど自分の部屋に行こうとしていた夜空君と目が合った。
なんて言おうか、こんなに迷ったことはほとんどないんじゃないかってくらい、なにを言おうか迷う。
でも、なにかは言わなきゃいけないと思った。
「夜空君……昨日のこと、本当にごめんなさい。」
口をついて出たのは、夜空君への謝罪の言葉。
頭を下げていて夜空君の顔が見えない中、夜空君が何かを言うまでの間が恐ろしく感じる。
「……千雪、まず顔を上げてよ。別に僕もう怒ってないしさ。」
夜空君の言葉に、わたしはゆっくりと顔を上げる。
すると、夜空君がポンポンっとわたしの頭を急に撫でてきた。
「ちょ、夜空君?」
何も言わずにわたしの頭を撫でる夜空君。
たまに夜空君の行動がわからない時があるんだけど、今回はそれだね。
「きゅ、急にどうしたの?」
「……千雪はさ、すっごくかわいいんだよ。だからさ、黙って帰ってこないと何かあったんじゃないかって不安なんだ。」
夜空君はそう言うと、わたしの頭を撫でるのをやめて、ぎゅっとわたしを抱きしめてくる。
「でも、今日だってわたしのこと避けてたし……」
「避けてなんかないよ。本当に忙しかっただけだからさ。」
夜空君はいつもの口調でそう言う。
ただ、今日はそれがとても貴重なものに思える。
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