先輩、今笑ってた?



「ありがとう咲、助かったよ。」


咲が大翔さんと会長を説得してくれたおかげで、刑が執行されることはなかった。

そんな僕は今、キッチンでホットケーキを大量に焼いている。


「お兄ちゃんが危ないのに黙ってみてられないし。」

「普通中学生の女子とかもう少し兄に対して冷たいと思うんだけど、咲はそんなことなくてよかったと思ったよ。」

「私のほうが日頃からお世話になってるからね。」

「いやいや。僕一人暮らし始めてからは何もしてあげてないじゃん。」

「お兄ちゃんは私の目標だから、いるだけでお世話になってるんだよ。」

「そう言われると嬉しいね。咲、ホットケーキもうすぐ人数分できるから、みんなを呼んできてくれる?」

「わかった。」


咲はそう言うと車椅子を動かして、キッチンを出る。

僕は少し遊び心を入れようと、わざと大きなホットケーキを焼く。

十分焼けたことを確認したら、大きな皿にのせ、チョコクリームを取り出す。

チョコクリームでさらさらっと書くのは、僕が描いた『春の記憶と想い』という漫画の主人公である古波哲。


うん。なかなかの仕上がり。


僕はホットケーキの皿をリビングのテーブルに持っていく。


「夜空君、何か手伝うことある?」

「じゃあフォークとか皿とか出しておいてください。」


一番初めに来た大翔さんに手伝いを頼む。

大翔さんが準備している間に、僕は冷蔵庫からジュースを出しておく。


さて、あとはみんなが揃うのを待つだけだな。







「夜空君、今日の予定は?」


ホットケーキを食べている最中、先輩がそんな話題を出す。


「あと三時間ぐらいで天輝が迎えに来るから、それまでに片づけとか終わらせるって感じかな。遊ぶ時間はないよ。」

「ええ~。みんなで遊ぼうかと思ってたのに~~」


先輩はそう言うが、こればっかりは仕方がない。


「ま、いいや。帰ったら夜空君と遊ぶから!」

「僕が勝つ未来しか見えない。」

「自信満々だね?わたしだっていつまでも負けてないんだからね!」

「まあ、楽しみにしてるよ。」

「あ、信じてないでしょ!彼氏がいるすみれちゃん的にはこういう人はどうなんですか?」

「まあ、言ってること自体は間違ってないから。いいんじゃない?大翔もこんな感じの時あるし。」

「味方じゃなかった!?咲ちゃんはどう思う?」

「素敵だと思います。」

「味方がいない!?」


なんか先輩を見てると表情がコロコロ変わって面白いな。


「夜空君!なに笑ってるの!?」

「え?今笑ってた?」

「自覚無し!?」


全く気が付かなかった……

まあ、夏だから調子が狂うのは仕方ないのかな?


「夜空君はもう少し笑えばいいのに。」

「笑おうと思って笑うのは違うよ。」

「じゃあ、わたしがもっと笑わせてあげるから覚悟しててね!」

「何の覚悟がいるの?別に笑いたくない訳じゃないからね?ただ笑う機会がないだけで。」

「夜空君の腹筋が崩壊するくらいまで笑わせてあげるよ!」

「そんな経験一回ぐらいしかないから、楽しみにしてるよ。」


あの時は筋肉痛で大変だったなぁ……


「え?何で笑ったの?」

「咲が小学校低学年の頃、階段から落ちて左手を骨折したとき。」

「笑う理由が酷い!!」

「……あの時ほどお兄ちゃんが悪魔に見えたことはありませんよ。」

「だって階段から落ちたって言っても、たった一段分だよ?それで手にぐるぐる包帯巻いてて……ふふっ。今思い出しても笑いそう。」


なんか咲からの視線が冷たい気がするけど気のせいだと思いたい。

……いや、これは流石に僕が悪いか。


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