『好き』
ルカカ
『好き』
『好き』
たったその二文字すら言えなくて、ずっと君を追っていた。君を見つめる時間は、何にも代えがたいほど幸せで、君と言葉を交わす時間は、何にも代えがたいほど嬉しくて……。
一歩を踏み出す勇気もなく、ただ友達のままでいたから、その罰が下ったんだ。
「俺さ、アメリカに行くことになったんだ」
「……え」
放課後。たまたま会って、二人で帰り道を歩いていた。
夕日に照らされた君は、どこか瞳がかげっている気がした。
「両親が転勤することになって、俺も一緒に行かないといけなくてさ」
「そんな、そんなのって」
言葉が紡げない。喉の奥に想いが詰まって、息が吸えない。
「そんな悲しそうな顔すんなよな」
そう言う君も、気持ちを抑えるときの癖で眉が下がっているよ。
二人して黙って、帰り道を歩く。いつもよりスピードが遅いのは、たぶん気のせいじゃない。
友達の言葉を思い出す。
『後悔してないっていつでも胸を張れることをしてね。絶対に後悔しないことなら、誰があなたを責めても、私だけは必ず隣にいて、守ってあげるから』
ずっと私は後悔することしかしてない。きっと、これからも後悔ばっかの人生だ。
でも、今日だけは後悔しない日にしよう。あとで思い出して後悔しない日にしよう。
今日だけでいい。今日、後悔しない道を選べたら、私はそれでいい。
揺れ続けていた心はもうなくて、私の胸は温かい勇気で溢れてた。
「ねぇ」
「ん?」
こちらを見た君に、精一杯の笑顔を浮かべる。
「好き、大好き」
あれ?
想像していた言葉はもう少し澄ましたものだったのに、こんな取り繕ってないものになってしまった。
驚いた君は目を大きく見開いた。
「って、君がアメリカから帰ってきたら言ってもいいかな」
「は?」
「私は君の重しにはなりたくない。だから、君が帰ってきたらそう言ってもいいかな」
くくくっ、君は笑い始めた。始めは笑い声を必死に抑えて、でも次第に声は大きくなり、ついにはお腹を抱えてしまった。
「もうっ! 私は真剣に言ってるのよ」
「くくくくっ。だってさ、まさか、帰ってきたら言う、って。あははっ」
ひとしきり笑って落ち着くと、君はジッとこちらを見た。
「いいよ。帰ったら連絡するから、その時はちゃんと言えよ。楽しみに待ってるからさ」
「う、うん」
今さらになって心臓が飛び跳ねる。ドキドキして口から出そう。
「ほら、帰るぞ」
君は照れたように顔を背けて、いつの間にか止まっていた足を進める。
恥ずかしくて私もうつむきながら、ゆっくり二人で帰った。
「あ、そういえば、俺がアメリカ行くのは来年なんだけど」
思わず足を蹴り出したけど、私は悪くない。
『好き』 ルカカ @tyura
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