第18章 告白と沈黙

猫の飼い主なら誰もが知っているように、誰一人猫を自分のものにすることはできない。


エレン・ペリー・バークレー



十月二十六日 午後四時三十分


 教えてもらった住所にあったのは、広い庭付きの、邸宅と呼んで差し支えない大きな家だった。ここが高宮明日奈たかみやあすなの家。覆面パトを降りた私たちは、門の前に立つ。門から玄関までは、数メートルのアプローチを通っていく必要がある。理真りまが門に備え付けられている呼び鈴を押したが、返答は一切なかった。


「家に戻っていないのか、それとも、すぐに出かけたのか」


 理真は、とりあえず近くを捜してみよう、と提案して、私たちは車に戻り、付近の道路をゆっくりと走りながら高宮明日奈を捜していた。少ししてから、


「あの子」


 助手席から、フロントガラス越しに理真が指をさした先に、並んで道を歩く二人の人物の後ろ姿があった。ひとりは帽子を被り、さほど冷える気温でもないのだが、マフラーを首に巻いている。ズボンを履いているが女性のようだ。理真が指をさしたのは、その隣を歩く人物だった。


美緒みおちゃん?」


 後部座席から乗りだした私が言うと、理真も頷いた。薄いグレーの制服はみなみ中学校のもので間違いない。後ろ姿だが、小さな体とショートカットの髪型には見憶えがある。美緒は両手で体の前に、バスケットのようなものを提げているようだ。高宮明日奈を捜していて、大林おおばやし美緒を見つけるとは。やはり、二人には繋がりがあるのか。


「隣にいるのは、誰だろう? 友達かな?」

「とりあえず、降りて声を掛けてみようよ」

「分かった」


 やす刑事がハザードを出して車を道路脇に駐め、私たちは降車した。帽子にマフラーの女性が振り向いたのは、その瞬間だった。


「美緒!」


 と確かにその女性は叫び、隣を歩く制服の肩を押した。一瞬振り向いた制服の少女の顔は、やはり大林美緒に間違いなかった。美緒は走り出す。「待って!」と理真も足を速める。もう片方の女性は、振り向いて理真の前に立ち止まった。行く手を阻むように。「来るな!」と女性は両腕を広げる。右手には大きな紙袋を持ったまま。


「……あなた、高宮明日奈さんね」


 理真に言葉を掛けられると、女性はサングラスの上からでも明らかに分かる、驚いた表情になった。その後、前方を走っていた美緒が転倒し、そのことに動揺したのか、振り返った拍子に明日奈も転倒。いち早く美緒のもとに駆け寄った理真が、彼女の口から衝撃的な告白を聞いた。



「美緒! 何も喋っちゃ駄目!」


 理真との間に割り込んで、明日奈が美緒に覆い被さった。明日奈の両腕と体に包まれて、美緒はしゃくりあげている。二人の少女に挟まれた三毛猫が「にゃー」と鳴いた。それに気が付いた明日奈が美緒との間に少しスペースを空けたが、美緒は猫をきつく抱いたまま離さない。クイーンは美緒の頬を舐める。止めどなく流れ落ちる涙の一部が、クイーンの舌にすくわれた。



 美緒は、任意同行という形で捜査本部が置かれている上所かみところ署へ行くことになった。明日奈については、その場で話を聞くだけに留めようとしたのだが、「美緒についていく」と半ば強引に安刑事の運転する覆面パトに乗り込んだ。明日奈を助手席に乗せ、後部座席には美緒を挟んで私と理真が座る。クイーンを入れたバスケットは美緒が大事そうに抱えている。明日奈の持っていた紙袋の中からは、キャットフードや猫用のトイレキットが出てきた。トイレも、美緒が抱えたバスケットも新品同然の状態だった。クイーンのために用意してくれたのかと思うと嬉しいが、今はそのことを考えている場合ではない。私の頭の中では、美緒の告白がずっとリフレインしていた。


「私が……殺しました……形塚かたづか先生を……」



「駄目だ。完全黙秘」


 上所署の捜査本部に入ってきた安刑事は、そう言ってから嘆息した。周りの捜査員たちの口からも、同じようなため息や、うーん、といった唸り声が聞かれる。中学校教師殺害を同校の女子中学生が告白したことで、室内の空気は異様に張り詰めていた。殺された形塚は、大林美緒の担任でこそないが、国語の授業を担当していたという話だったが。

 署に来てもらった美緒と明日奈は応接室に案内され、署の女性警察官がいる中、安刑事に話を訊かれた。その結果が先の安刑事の言葉だ。


「最初に、あの二人を同席させたのがまずかったな」


 空いている椅子に腰を下ろした安刑事は、もう一度ため息を吐いてから言った。


「何があったの? 輝子てるこさん」理真が訊くと、

「応接室に入って、あの二人が並んでソファに座るなり、いきなり高宮明日奈って子が言ったんだよ。『美緒、絶対に何も喋っちゃ駄目。私を信じて』って」

「それで、美緒ちゃんは黙秘を続けてるんだ」

「ああ。最初に美緒をひとりにして、こちらがうまく切り出せば、知ってることを洗いざらい話してくれたかもしれなかったけどな」


 が、高宮明日奈に釘を刺されたことで、美緒は口を貝のように閉ざしてしまったということか。


「もうひとりの明日奈って子、相当手強いな彼女は」安刑事は、三度みたび嘆息すると同時に腕を組んで、「あの美緒って子が、自分が殺したって告白したとき、私は、これは知ってること全て話してくれるなって思ったんだ。美緒は、もう自分では抱えきれないくらいのものを胸に秘めていたんだと思う。それが、あのとき、理真に追いかけられて転んで、クイーンの入ったバスケットを手放してしまったとき、あまりの急展開にパニック同然になって、早く楽になりたくって、あの告白をしてしまったんだろうと思うんだ。だからあとは、堰が切れたように何もかも話してくれると高をくくってたよ」

「それが、当てが外れたのね」


 理真が言うと、安刑事は大きく頷いて、


「明日奈のひと言で、美緒は完全に自分を取り戻したんだと思う。それだけ明日奈は、美緒に信頼されてるんだな。あの二人、つきあいの長い親友同士なのか?」

「分からない。ただ、通ってる中学校は違うの」

「そうなのか。今日は明日奈は私服だったからな……私服と言えば、あの格好。まるで変装してるみたいじゃないか?」

「ええ。多分、私の目から逃れようとしたんだと思う」

「明日奈は、今、一課がガサ入れに入ってるアパートで、理真を見て逃げたんだってな」

「そうなの。私は明日奈ちゃんとは面識がないから、私の顔を見て逃げ出したってことは、彼女も事件に一枚噛んでるっていう可能性が高い。で、私が事件の捜査に介入していることをどうして知ったかというと……」

「美緒と繋がっていた、ということだな。その推理は当たってたわけだが……ということは、いま一課が追ってる事件は、美緒と明日奈の共犯ってことか?」


 あの二人が共犯。確かに、そう思える。事件の捜査をしている探偵に追いかけられたことと、殺人行為の重さに耐えかねて自白してしまった美緒に、共犯者である明日菜が必死に、それ以上何も言わないよう口留めをさせている。現状はそう見えるのだが……。


「美緒ちゃんと明日奈ちゃんの共犯だと過程して、犯行の様子を追ってみる?」


 理真の案で、私たちは現在得られている情報から、犯行の様子を推測してみることにした。


 十月二十三日、午後七時前後。教師、生徒が全員帰宅し終えたみなみ中学校グラウンド隅の体育用具室。そこに形塚教諭と、教え子の美緒、別の中学校生徒である明日奈の三人がいる。申し合わせて集まったのか、どちらかが他方を呼び出したのか、はたまた偶然一緒になったのかは分からない。美緒と明日奈は砲丸で形塚の頭を殴る――動機を考えるのは後回しだ。今は実際に何が起きたのかに焦点を絞って考察していく――これにより形塚は絶命。その場にあった砲丸を凶器として使用したことから、計画的ではなく突発的な犯行という気がする。そして……ここで分岐が発生する。


「あの血文字は、被害者と犯人、どちらが書いたのか」


 私が最初の疑問を口にした。体操マットに〈フユシナ〉と書かれた、あのダイイングメッセージ。それを受けて、理真は、


「被害者が書いた場合。犯人を名指しした、とは思えないよね。見ず知らずの明日奈ちゃんが、自分のことを〈フユシナ〉だと偽名を名乗っていたとしても、犯人を示すなら、普通なら教え子で名前もよく知ってる美緒ちゃんのほうを書くはずでしょ」

「実際に手を下したのが、〈フユシナ〉を名乗っていた明日奈ちゃんだったから、とか? 美緒ちゃんは、見てただけ」

「うーん……美緒ちゃんが、自分が殺した、って告白してるからね」

「そうか。字数の問題、とか? 美緒ちゃんの名字は〈オオバヤシ〉で五文字、に対して〈フユシナ〉は四文字。殴られて死に至るまでの短い時間に書くには、できるだけ短いほうがいいと思った」

「それなら〈ミオ〉でいいでしょ」

「そりゃそうだ。じゃあ、やっぱりあれを書いたのは犯人?」

「待って、被害者が書いた場合の、もうひとつの可能性がある」

「何?」

「犯人をかばったってこと」

「ああ。教師が、自分が殺されたとはいえ教え子の罪を隠すために、わざと全く無関係な名前をダイイングメッセージとして残す、か。美談すぎる気もするけど、あり得なくはないかも」

「でも、そこにも問題がある」

「それは?」

「〈フユシナ〉なんて、どマイナーな名前を選択する?」

「ああ、確かに」

「咄嗟に頭に思い浮かぶ名前じゃないよ。私も、この事件が起きるまで、世の中に〈冬科〉という名字があることなんて知らなかったもん」

「それでも書いたということは?」

「形塚さんは、冬科という名字があることを知っていた」

「国語教師だもんね。そういった方面に明るかったのかも。だとしても、選択が渋すぎる気がするなぁ」

「そこには意図があったとしたら?」

「意図?」

「そう、形塚教諭は、冬科という名字が存在することだけじゃなくて、そういう名字を持つ個人を知っていた。で、自分が見舞われたこの奇禍を利用して、その冬科さんに罪を着せることにした。どうしてそんなことをしたかというと、形塚さんは、かねてから冬科さんを恨んでいたから」

「被害者があえて嘘を書いたダイイングメッセージ? 教え子の罪を隠して、憎い相手に罪を被せる、一石二鳥の妙策ということか」

「理真、被害者と、その冬科ってやつには接点が全くないんだろ? どうして恨むんだよ」


 安刑事が突っ込みを入れてきた。そうなのだ。警察の懸命の捜査にも関わらず、未だに両者の間には、いかなる繋がりも見つかっていない。


「うん。それが、この説の最大のほころびなんだよね」


 理真は、あっさりと自説の瑕疵を受け入れる。


「それじゃあ、やっぱりあれは、犯人が書いたもの?」


 私は、棚上げされていた説をもう一度俎上に載せる。


「だとしても、同じことが言える。どうして犯人――今は、美緒ちゃんと明日奈ちゃんと過程してるんだけど――は〈フユシナ〉なんていう滅多にない名字を選んで書いたのか」

「それも全く同じことが言えるんじゃないか」と安刑事が、「冬科という男を知っていたのは、美緒と明日奈のほうで、そいつに罪を着せようとしたんだ」

「じゃあ、冬科さんは、美緒ちゃんか明日奈ちゃんのどちらか、もしくは両者と何かしらの繋がりがあったってこと? 殺人の罪を着せようとするほどの?」

「そこのところは今、一課が調べてるはずだ」

「そうですか」

「理真」と私は口を挟み、「ダイイングメッセージの、もうひとつの可能性のほうは?」

「もうひとつの可能性?」


 語尾を上げて安刑事が訊いてくる。彼女は捜査会議には出席していないので知らないのだ。


「分かってる。あの血文字は、元々は〈コンノ〉と書かれていたんじゃないかってことでしょ」


 理真が言うと、安刑事は、「コンノ……コンノ……ああ!」と両手を打ち合わせた。さすが刑事、理真の言ったことがすぐに理解できたようだ。


「〈コンノ〉の各文字に書き加えをして、さらに上に〈フ〉を付け足して、〈フユシナ〉にしたってことか! さすが理真、変なことを考えつくな」


 安刑事は、感心したような呆れたような口調になった。「そりゃどうも」と形だけの礼を言った理真は、


「その場合、第一段階の血文字を書いたのは、被害者でしかあり得ないよね。そこに犯人が注ぎ足しをして、第二段階にした。まあ、穿った考え方をすれば、犯人がまず〈コンノ〉と書いて、『あ、やっぱりこの名前を犯人にするのやめた』って継ぎ足しをした可能性もあるけど……」

「それだと、ちょっと間抜けすぎるな」


 安刑事の言葉通り、現実的ではない気がする。そのあとに私が、


「そうだった場合、どういうことになるの? 形塚教諭は、自分を殺したのが教え子とその友達だと知りながら、近野こんの先生に罪を被ってもらおうと、名前を書いたってこと?」

「近野教諭、えらいとばっちりだな。それを見た美緒と明日奈が、『形塚先生、それはいけませんよ』って、書き足しをしたのか?」


 それもまた間抜けすぎるなぁ。


「でも、形塚先生が近野先生を恨むような繋がりも、今のところ全然出てきていないのよね」


 理真の言った通りだ。今際の際に殺人罪を着せようと思うなど、相当な遺恨がなければ出て来ない発想だろう。


「どの道、」と理真が、「ダイイングメッセージ二段階説なら、最終的に血文字を完成させたのは犯人なのだから、美緒ちゃんか明日奈ちゃんが、やはり冬科さんを知っていたことになる。殺人の罪を着せようとしたってこともね」

「ここでもまた、咄嗟に〈冬科〉なんていう、ドマイナーな名前が頭に浮かんでくるわけはない、ってことだな」


 安刑事の言葉に、理真は頷いてから、


「それと、ダイイングメッセージの他に、もうひとつ、現場には不可解な手掛かりが残っていた」

「あ、腕時計」


 私が言うと、理真は「そう」と頷いてから、


「あの、壊れていた腕時計。時刻は、被害者の死亡推定時刻の一時間前の六時で止まっていた。犯行とは無関係に、まだ形塚さんが生きていた六時の段階で壊れたのだとしても、そんな時計をつけ続けるわけがない。犯行時に壊れたのだとしたら、死亡推定時刻との辻褄が合わない。形塚さんが、わざと普段から腕時計を一時間遅れさせていたのだとしたら、その理由が全くの不明……」


 理真は考え込むように無言になった。と、そこへ、


「あら、理真、由宇ゆうちゃんも」


 と丸柴まるしば刑事が捜査本部に入ってきた。私たちは挨拶を交わして、


「輝子、聞いたわよ。巻き込んじゃったみたいね」


 安刑事にも声を掛けた。


「別にいいさ、オレでよければ、いつでも巻き込めよ、しおり


 安刑事は片目をつむる。こういうの、かっこいいなぁ。ちなみに「栞」というのは丸柴刑事の名前だ。二人は同年代(安刑事のほうが若干年上らしいが)ということもあり、下の名前で呼び合う仲だ。笑みを浮かべてから、丸柴刑事は、


「ああ、そうだ、理真、調べたけれど、冬科と大林美緒、高宮明日奈の二人には、何の繋がりもないわね」

「そうか……」


 理真は、ますます難しい顔になった。あのダイイングメッセージが、(現在のところ過程された)犯人である美緒と明日奈の手によって書かれたのだとしても、彼女たちが冬科のことを知らないのであれば、わざわざ名前を書く理由が見つからない。


「丸柴刑事、冬科さんの部屋の捜索は? 何か収穫はあった?」


 顔を上げて理真が訊いた。捜査本部にいるため、理真もここでは「丸姉」という愛称で呼ぶのをやめている。


「ひとつだけあった。アパートの裏から、形塚教諭の財布が発見されたわ」

「財布が? 中身は?」

「現金は入っていなかった。クレジットカードや銀行のキャッシュカードといった、カード類は無事。形塚教諭の免許証が入っていたし、指紋も検出された。同僚の教師も彼が持っていたものに見憶えがあると証言してるから、形塚教諭の持ち物で間違いないでしょうね。ざっと調べたけれど、抜かれたのは現金だけみたいね」

「アパートの裏って、具体的には、どんなところにあったの?」

「建物裏の、背の低い雑草が茂った中に、ぽつんと落ちていたの。位置としては、冬科さんの部屋の真下。アパートの裏手には各部屋の窓があるんだけど、そこから投げ捨てたら、ちょうど発見されたような場所に落ちるかもね」

「財布が……」

「他に室内からは怪しいものはなにも発見できなかったわ。冬科と被害者が知り合いだったと思われるようなものも、何も。形塚さんの血液もね」


 部屋の前で発見された血痕の謎は、解明されないままということか。


「冬科さんに取り調べもしたのよね。何か言ってる?」

「全然。新たに発見された財布のことも、全然身に憶えがないの一点張り。形塚という教師も、会ったことも名前を聞いたこともないって繰り返すだけね」

「午後七時には、極めて強固なアリバイもあるしね」


 冬科の部屋に捜索が入り、現金が抜かれたと思しき財布という新たな物証が出てきたが、依然として冬科の犯行否認は続いているということか。


「そっちのほうは、どう? 犯行を自白したっていう子の親御さんに連絡は入れたの?」


 丸柴刑事が口にした。訊いた先は当然、少年課の安刑事だ。その女刑事は、美緒には母親しかいないことを教えてから、


「もちろん連絡したさ。でもな、遠いところにいて、すぐには戻れない、なんて言って、一方的に電話を切られたよ」

「そんな。我が子が人を殺したなんていうを告白したっていうのに……」

「口調から、必死さというか、母親っぽさが感じられなかった。心配というよりは、煩わしいという喋り方だったな」

「何なの、それ」

「これはオレの勘だけど、多分、美緒の母親は、男のところにいるんじゃないか」

「男って……」

「前々から、美緒のことを厄介に思っていたのかもな。その男から、コブ付きじゃなきゃ一緒になってやる、とか言われてて」

「そんな……」

「また連絡を入れてみるさ。場合によっては、携帯の電波を辿って、直接引き戻す」


 親子の間に警察でどこまで干渉できるのかは分からないが、とりあえず安刑事の目は本気だった。明日奈のほうはというと、親には絶対に連絡しないでくれ、と強い口調で言われ、安刑事もその気持ちを汲んで両親に連絡は入れていないという。それぞれが通う中学校にもこのことは知らせていない。


「美緒ちゃんと明日奈ちゃんの二人は今、どうしてますか?」


 私が訊くと、安刑事は、


「女性警察官二人を付き添わせて、応接室でじっとしてるよ。クイーンと一緒にね」


 クイーンは美緒と明日奈の要請で、二人と一緒にいて、理真もそれは快諾している。理真のお母さんには、とりあえずクイーンを保護したとだけ、理真が連絡を入れていた。電話の向こうで、お母さんはさぞ喜んでいたことだろう。

 完全黙秘を貫いている二人だが、クイーンと一緒にいた経緯だけは話してくれた。安堂あんどう家から大通りを越えた、あの公園で明日奈が保護したのだという。やはり、クイーンは道路を越えていたのか。どうしてクイーンを連れていったのかは、「かわいかったから」と明日奈が。学校でポスターを見たのに、どうして教えてくれなかったのかには、「かわいくて手放したくなかったから」と美緒が、それぞれ答えた。本当かどうかは怪しい。が、たったひとつだけ確かなことはある。それは、クイーンが、思わず連れていきたくなるくらい、そして手放したくなくなるくらいに、かわいいということだ。

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