第35話 【ACT六】喜びの凶兆
「妊娠したみたい」
と、ダルチナがジョニーに相談を持ち掛けたのは、とある星の輝く夜であった。ウトガルド島を囲む広い海に、その星の光がちらちらと輝き散っている。
「誰の……子?」とジョニーは恐る恐る訊ねた。
すると彼女は勝利の笑みを浮かべて、「ジョニーに決まっているじゃない!」
「本当に!?」ジョニーは驚いた。
「信じられないなら、遺伝子検査しましょ。 ウトガルド島王に誓って間違いないから」
次の瞬間ジョニーは躍り上った。そのまま踊りながら何か叫んで、ダルチナの部屋を飛び出して行った。
「ったくもう!」ダルチナは腹を撫でながら怒った。「男って本当、中身はガキね! ちゃんとした父親になるように今の内に躾けなおさないと!」
「俺、一年後には父親になるんだ、パパになるんだぜ!」
踊り疲れたジョニーは今度は嬉し泣きしつつ言った。
「おめでとう!」とそれを聞いたレットはにっこりと笑って、「良かった、本当に良かった! 何てめでたいんだ!」
『えー』と言ったのはプロセルピナであった。『ジョニーとレットが結婚しないの……?』
「うるさい黙れ! 俺は今世界で一番幸せな男なんだ! 世界一の多幸者なんだ! そうだ名前を、俺の子供の名前を考えないと!」ジョニーはとにかく今は興奮していて、大変である。
「それが決まったら僕にもすぐに教えてくれよ、ね!」レットは微笑んだ。
「勿論だ!」
ジョニーはウトガルド島王だと言うのに、威厳も何もかも捨てて――ただ今は歓喜に満ち溢れていた。
レット。
ええ、分かっていますよ、ラファエル様。すぐに実行します。ただですねえ、今殺してしまうとちょっと不都合が生じるので、しばらくは廃人として生きてもらいましょう。ガキがちゃんと生まれるまでは、物理的に殺すのは延期しないと、何せ王座に座る者が一人も眼球で見えないと言うのは、ちょっと他の幹部が黙っていませんからね。
薬物でやるのですか?
いえ、僕のA.D.としての力で、ヤツの心を完全破壊させてもらいます。薬物だと何かと証拠が残ってしまいますからね。万が一にも僕がやったなんて露呈したら、他の幹部が激怒しますし。あ、激怒はされたってラファエル様、貴方様のお力の前では無駄な足掻きなのですが、これはこれで結構面倒な事情がありまして。ウトガルド島の幹部は全員が叩き上げの実力者、殺す損失よりも巧い利用の方が利潤が上がるんです。
……ほう。お前には本当に利用価値がありますね。
ええ、当然です。僕は死にたくないんですから。
ふふふ。全ては順調――全ては我らが神の意のままに、全ては我らが唯一絶対神のために!
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