第4話 対 地球 契約概要①
私から、霧雨レインという男をもう少し補足させてもらうわ。彼は身長が180を超えるでかい男で、身体は筋肉質でガッチリとしている。髪は、白と黒が混じってボサボサとしている。目は切れ長で、睨まれるだけで、もう地の果てまで追いかけてきそうな殺気を感じられる。だが、そんな怖い印象とは程遠く、肌は白くてツヤがあり、まさに好青年といった印象の方も強く感じられる。年齢は不詳。本人以外誰にも分からない。誰もが彼の貫禄さと、厳粛さ、気品さは、たった数十年程では培われないものだろうと思うだろう。それでも彼の若さが溢れるその顔から、彼は今まで100年以上は生きてきた不老不死なのではないかと、疑いの念が生まれるほどの人物であった。それでは、皆さん、フルアール!
レインは、ビリビリとそのプロミス社から持ってきた封書を破いていく。開け口が上の部分にちゃんとあるにも関わらず、彼は封筒の真ん中から開け始めた。
「汚い開け方」
サニが口を突っ込むが、レインは聞いていない。サニは、そんなに無我夢中になっているのかと呆れかけていたが、実際は違っていた。レインの行動は、一見乱暴に見えるが、冷静だった。レインは、ある程度封筒を破くと、ピタと手を止め、ゆっくりとその破られた封筒の裏に指を入れた。パリ…と音がして、レインはその封筒の裏から何かを取り出す。水風船だった。透明な風船に、無色透明な液体が入っている。
「何それ?」
サニは、恐らく大事な書類が入っているその封筒に、何故水風船が入っているのか不思議でならなかった。レインは答える。
「多分、……アルキルアルミニウムかな。」
「アルキ……なにそれ」
サニには、初めて聞いた単語だった。
「サニも気を付けた方がいいよ~。酸素に触れただけで燃えちゃう奴だからねえ」
レインはその水風船をつまみながら、奥の自分の部屋に入っていった。ドアは開けたままにして、電気も点けずに何か作業をしている。サニは、また保管か、と思った。遠くでレインは話し続ける。
「真空状態に保管されてあったから、まさかとは思ってたけど。いやあ、流石プロミス社だ」
案の定、保管を終えたであろう帰ってきたレインの手には、もう水風船は無かった。
「普通に開けてたら破裂する所だったよ」
「……逃げて来たんだよね? よく潰さなかったね、風船」
また元のイスに座ったレインに、サニは言う。すると、レインは左手の人差し指を机の上でぴんと立たせ、振り子のように動かした。サニは、この動きをよく知っている。意味は、「おれをなめるな」だ。別に舐めているわけじゃないのに、とサニは口を尖らす。
「さて、気を取り直して見てみようか」
レインはその乱雑になった封筒から書類を出し、机上に置いた。厚さは数ミリ程度だった。表紙に、『対 地球 契約概要』と太字ででかでかと書かれている。サニは、最初、プロミス社の書類と聞いて息を飲んでいたが、その書いてある字の意味を、真剣には受け取れなかった。
「対、……地球?」
「やっぱりな」
サニは眉をひそめ、レインは口に手をあてて頷いている。サニは、自分だけ置いてけぼりにされているように感じ、すかさずレインに質問した。
「この地球って、どういうこと?」
「そのままの意味さ。……奴ら、『プロミス社』は地球と、ある契約をしている。詳しいことは、見れば分かるだろう」
そう言って、ペラ、とレインは書類を一枚めくる。
『対 地球 契約概要
責任者 アキレス腱三郎五右衛門破
この事項は、主に、我が社のプロミス規約第52条に則り作られたものである。
1.契約者
2.契約内容
3.契約達成に伴う準備
4.例外的な契約であることについて』
二ページ目には、そんな事が書かれてあった。サニがレインの目を見ると、レインも見返してきて、「覚悟はいいな?」というような視線を送ってきた。サニは応えるように、目線を下の書類の方へと落とす。レインはまた、それに応えるように、ページをめくった。
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