第13話 上映会
翌日になってわたしとちまり、
今回も移動には馬車が使われた。王家仕様の馬車と比べると、地味な造りだが、それでも引いている馬は立派な馬だった。しかも二頭立ての馬車が二台。大したもんである。
この日も天気は良く、爽やかな陽気だった。
デューワ王国は百年の平和を絶賛謳歌中である。平和が長く続けば、その分文化が華やぎ育っていく。王都ガーティンには、王侯貴族や裕福な商人などの上流階級の者が訪れる大きな王立劇場や、庶民でも気軽に訪れることができる小劇場まで、様々な大きさの劇場が建っている。
そこでは、演劇はもちろん、楽団による演奏会、歌劇や踊りなど、これまた王侯貴族向けの物から庶民のための娯楽作品まで様々なものが楽しまれている。
日本では、江戸時代や、戦時中などに演劇や芸術作品に対して強い規制がかけられた事が多々あったが、デューワにおいてそのような事は今のところ特に無いらしい。
流石に、あまりに性的表現が過激すぎるものに対しては、ちょっと待った!とある程度の取り締まりが行われるらしいが、それは日本でも同じであろう。
また、時の為政者や権力者を皮肉ったり、批判したりする作品も規制の対象になりそうなものだが、そういう話は聞いたことが無いと、デューワトリオは言っていた。
庶民にとって娯楽は良いガス抜きである。それを規制するような真似は大馬鹿者が考える愚策であるとわたしは考えている。表現の自由に規制をかけるなど、肝っ玉の小さいことを言っている国に、明るい未来など無い。
芸術文化は自由でなければならない。作るも自由、楽しむも自由。規制はあくまで自主的なものでなければならず、ブレーキを踏む権利や義務も、作り手側になければならないのだ。
デューワはそういう意味でも、多種多様な文化芸術が百花繚乱する黄金時代を迎えている。
そんな黄金時代に日本から文化芸術の黒船がやって来た。さあ大変だ、デューワの文化芸術の担い手たちは真っ青になって、日本に対して反対運動でも起こしたかと思えば、全くの逆である。
日本からやって来た物を貪欲に学び取って自分たちの糧にしようと、必死らしい。率直にすばらしいと思う。
今回、わたしの『白き姫君と剣の少年』のアニメ上映会が行われるのは、メインストリートにはあるが一番大きな王立劇場から少し離れた場所に建つ、二番目に大きな劇場である。
ガンダー劇場。庶民から上流階級の者まで楽しめる演劇や音楽界が行われる皆に親しまれた劇場で、今回日本との文化交流で様々な催しが行われるにあたって、改修が行われたとのことだった。
馬車を降りると、劇場の前で石田と真田が待っていた。上映会が始まるまでまだ少し時間があるが、チケット売り場では長い列ができていた。
「こっちです、こんにちは」
真田がわたしたちに挨拶をしながら、上映会のパンフレットをくれた。このパンフ自体もたいそうな人気らしい。
「お金、取ってるんだよね?」
わたしが訊くと、真田が答える。
「こっちの通貨で5リント。ランチ一食分くらいの価値ですかね。子供は半額。格安です」
「色々な人が並んでるますねえ」
ちまりが言った。並んでいる人たちの様子を見てみると、上流階級の人らしい身形がきちっとしている者もいれば、明らかに庶民風の人たちもたくさんいて、子供の姿も多かった。
「こういうのは珍しいです。貴族や裕福な者が庶民と同じ作品を見るために平等に並ぶというのは……」
と、言ったのはリリミアである。全ての人たちが同じ会場で同じ作品を楽しむ。それに対して『庶民と同じ会場で、作品を観られるか!』とお高くとまった連中が反対したが、それを企画運営サイドが、『日本では庶民も金持ちも関係なく同じ会場で楽しむもの』と突っぱねた。さらに、王家が皆等しく楽しんでほしいとの言葉を発したのが大きかったという。今のところ、会場が同じだからといって、上流階級の者と、庶民との間でトラブルは起こっていないらしい。
ところで、リリミアは、昨日わたしが睨んだ通りかなりの良いとこの御令嬢であった。リリミアの御父上、アルドーラ氏はバリバリの貴族で、伯爵さまだった。ということは、リリミアは伯爵家御令嬢ということになる。そりゃあ、たしなみとしてダンスの一つくらいマスターしていてもおかしくはない。では、何故そんなお嬢さまが、ぼくのような者の警護役に任ぜられたか、ということである。
ぶっちゃけ、その御父上の命らしい。日本からやって来るお姫さまの客の警護役、誰か良い者はいないかと相談を受けたのが、アルドーラ伯爵だった。アルドーラ伯爵は
『騎士とは王家と民衆の力になってこそ』、それが伯爵の口癖らしいが、その力を振るう機会が少ないのでは、伯爵としても複雑な思いが少なからずあったと思われる。そんな時に、警護役に適任者はいないかと訊かれた伯爵は自分の自慢の娘の名を挙げたのだ。
王家の為に御奉公しないで、何の為の騎士か!――ということだ。
「正直、面倒くさいっしょ?」
と、わたしが訊いたところ、リリミアはいいえ、と答えた後にこう続けた。
「殿下の大事なお客さまの身を守る大役、身に余る光栄と存じています」
何とできた娘であろう。ぼくなら確実にぶーたれている。
ちなみに、ヴァンドルフとユウリを推挙し、警護チームを結成するにあたって、そのリーダーに、リリミアではなくヴァンドルフを立てたのもアルドーラ伯爵である。アルドーラ伯爵はヴァンドルフと旧知の中で、その腕前を高く評価しており、是非娘に、後々人の上に立つ者としての心構えなど教えてやってくれ、との意味もあったようだ。ユウリが生まれたマスモ家も、アルドーラ伯爵とはよく知った間柄であり、また、伯爵は彼が学んだ学校の名誉理事も務めていたため、ユウリのことをよく知っていたらしい。
マスモ家に、天才ユウリあり。彼ならば安心して任せられると、伯爵は太鼓判を押し、王家サイドもユウリの警護チーム入りを歓迎した。
何せ名門の王立学校を飛び級で、しかも首席で卒業したほどの人物である。改めて思うがこの人選、ちょっとすごすぎないか?
「ユウリも、ぼくなんかのためにすまんねえ」
「え……?い、いえいえ。あの、それよりこんなにお客さんが。――霞ヶ城さんはすごいんですねえ……」
わたしがユウリに言葉をかけると、彼はパンフを手にちょっと興奮気味に言った。どうやら、上映会に心を奪われていた様子だ。
「いやいや。ぼくは本を書いただけでね。アニメは色んな人がみんなで作ってくれたから、すごいのはそっち。ユウリはアニメ観んの初めて?」
「はい。すいません、警護役なのにちょっとそわそわしちゃって」
「ああ、いいのいいの。警護役って言ったって、ぼくらに敵がいるわけじゃないし。ぼくたちが迷子にならないようにさえしててくれれば。あ、ほら、あんな風に」
わたしが指差すとユウリがそちらに視線を向けた。ちまりが劇場の外観や並ぶ客たちを写真に撮った後、わたしたちを見失ってきょろきょろしている。その様子を見たヴァンガルフが駆け寄って、手を引っ張って連れ戻した。
「ね?」
「はい」
ちまりが戻ったので、我々は皆で会場内に入り、特等席に向かった。貴族や金持ちが座る席なので少し高いところの設置された席で、座席の材質も他の一般席とは違って上質で、座席の前には小さなテーブルがある。入場料は割高になるが、真田が用意してくれたのだ。
「でも、今日の上映会は、アニメの五話からでしょ?そこから観て、話分かるかなあ……」
席に着いたわたしはユウリに言った。
「大丈夫ですよ。ぼく、霞ヶ城さんの本は全部読みましたから」
と、ユウリはにこにこしながら答えた。何だと?まさかこんなところに、読者がいたとは。ちょっと恐縮してしまう。アニメは四話分を一回で上映する。先週までは一話から四話までを第一部として上映していて、今週から五話から八話までの第二部、再来週には九話から十二話までを第三部として上映する予定となっていて、最終二十四話まで順次公開される。元々、総集編を上映する予定だったらしいのだが、
「『ティオリーナ姫も絶賛!』っていう噂を聞いた人たちが、全部観たい!と言うんで、じゃあ全部上映しちゃえ!ってことになったんですよねー」
と、真田が言った。あんまり前評判が高くなっても、困るんだけどねー、と思ったが、わたしの不安をよそに、第一部は好評だったらしい。
劇場のスタッフが出入り口付近に立ち、劇場全体に響くようにからんからん鐘を鳴らし、良く通る声で、
「まもなく上映開始であります!本編が始まる前が第一部のあらすじが流されます。まもなく上映開始であります!二話分が上映された後に、10分間の休憩が挟まれます!まもなく上映でありまーす!」
と、説明をした。時計を見ると、あと数分で午前10時。わたしは、いつも映画を見るときにはコーヒーを飲むのだが、この劇場には残念ながらコーヒーを売ってはいない。ちょっと口が淋しいが我慢することにしよう。と、思っていると、「あ!」と声がして、わたしは顔を上げた。
「あ!」
春風がわたしの声に反応して、わたしの視線の先を見た。
「お姫さま?」
「しー!」
口元に人差し指を立てて、春風の声を制して立っていたのはティオリーナ姫その人であった。その側にはアルアも立っている。
「本日はお忍びでございます。どうぞお静かに願います」
と、アルアが静かに言った。わたしの隣に座っていた石田がお姫さまに席を譲った。
「お姫さまは、もう全話観られたのでは?」
「ええ。それはもう何回も。――ですが、こんな大きな場所で、大きなスクリーンというんですか?そういったもので見るのは初めてです。それに、今回は吹き替え版というものなのでしょう?それも初めてですから、無理を言って連れてきてもらったんです。それにジーン城攻防戦がこんな大きな画面で観られるんですよ!見逃すわけにはいきません!」
「お、おおぅ……」
わたしの質問に、お姫さまは熱く語る。語った後に、はっとして口元を抑えた。オタク、マニアは時に、胸に秘めたその情熱を抑えられず、性格に関係なく積極的かつ大胆になる傾向があるが、お姫さまもどうやらそのタイプのようだ。
春風やちまりもうんうん頷いている。春風はもともとオタク気質だが、ちまりもアイドルの追っかけをやっていた。何か通じるものがあるのだろう。
再び鐘が鳴らされる。スタッフが、
「只今より『白き姫君と剣の少年』第二部、始まりまーす!お楽しみくださーい!!」
と告げると、劇場の照明器具の明かりが消え、劇場内が暗くなる。わたしは、照明器具が一体どんな原理で光っていたのか気になったが、スクリーンに映像が映し出されると、大歓声と拍手が響き渡り、会場全体が震え、それがわたしの身体をも震わせる。
スタッフが告げた通り、まずはあらすじが流され、そして本編が上映された。
アニメ第五話から、お姫さまが先ほど言った通り、城を舞台に激しい攻防が描かれる。王都から逃れジーン城に匿われることになったシャルリーザ姫だったが、城は敵に囲まれる。数は圧倒的な差。籠城か、誇りにかけて打って出るか、それとも自分の命を敵に差し出すことで、城内にいる者の命乞いをするか。
悩むシャルリーゼだったが、そこに、別行動をとっていた主人公アレンが、味方に付けた傭兵団とともに助けに駆けつけ、大激戦の末にジーン城を守り抜き、アレンとシャルリーゼの仲が一気に近付くという、ファンにも熱い支持を受けたストーリーが、この第二部では展開する。
さらに、シャルリーゼを助けるために重傷を負ったアレンに、シャルリーゼは駆け寄り、抱きしめ、涙ながらに口づけをする。これが二人の初キスシーンとなるわけだ。
さて、この日本のファンには一応『しろけん』の名シーン、という評価を受けたこのジーン城攻防戦からのちゅー、であるが、デューワの人はどう受け取るか。すでに小説は問題無く出版されているから、『若い男女が接吻などけしからん!』とかいう客はいないとは思うが……。
わたしはちょっと不安になって、客の反応を見たかったのだが、ここ特等席は周囲の一般客の様子が見えにくい。そこで、隣のお姫さまの様子を窺うと――。
そこには、スクリーンの世界を熱い眼差しで見つめる少女の姿があった。
そんなに熱い目で見つめられると、すげー恥ずかしいんすけど……。
と言いたい。いや、お姫さまが見つめているのはスクリーンに映し出されているアニメであって、わたしではないのだが、わたし自身を見つめられるよりこっぱずかしいような感じがするのは何故だろう。
体全体がすごくそわそわする。落ち着かない。
シーンが軽い笑いのある展開に移った。アレンを傭兵団の戦士たちが茶化すシーンだ。わたしの作品には重い展開ばかりではなく、コミカルなシーンも多い。ラノベですから。
もう一回、そっとお姫さまを見る。
表情が緩んだお姫さまの横顔。
あ、こういうのも好きなのね?それにしてもまつ毛なげー。
四方からあははは、と笑い声が聞こえる。ほほう。デューワの方々も日本の笑いがイケる口ですな?
そして話は進み、ジーン城が大ピンチに陥るハラハラ展開に。
敵兵が城壁を超え、城内に進入。城門も打ち破られようとしている。
シャルリーザを守ろうとするジーン城の兵士たちが、次々と敵兵に倒されていく。
「うわっ!またやられた!畜生あいつら!」
「きゃあ!」
「ああああああ……!」
会場から悲鳴や敵キャラに対する怒号が飛ぶ。日本では、マナー違反だとたしなめられそうだが、今日ここに足を運んだ観客たちは、劇場で日本の作品を鑑賞すること自体に慣れていない。だから、日本の劇場で日本人たち鑑賞している時と違って、場面ごとについ声が出てしまう。昔の日本人だって、こうだったと思う。
――昔は、ぼくもこうだったな。
小さい頃に、特撮ヒーローが敵と戦っているシーンに合わせて体が動いてしまった時を思い出す。テレビの前でヒーローが技を繰り出すのと同じ動きを、短い手足で必死にまねしていた。
純粋だったのだろう。
そして、この会場にいる観客のほとんどが、あの時のわたしと同じ、純粋な目でスクリーンを見ているからこそ、声が漏れるのだ。
お静かに、などと野暮なことは言いっこなし。
どうぞお楽しみください。
「待ってました!!」
観客の誰かが声を上げ、拍手が鳴る。
アレンが、ジーン城のピンチにぎりぎりの所で間に合ったのだ。
馬上で勇ましく剣を抜くと、敵の真横から突っ込み、瞬時に敵を数人薙ぎ払う。
「きゃあああ!アレンさまー!!」
アレンに続く傭兵団たちも、敵を急襲する。敵兵たちは突然現れたアレンたちに虚を突かれ混乱し、それを見たジーン城内からも、最後の力を振り絞り騎兵が突撃してくる。正面と真横から反撃を食らい、敵の陣形が乱れる中、敵将ガムジン将軍がアレンに襲い掛かる。
「あいつ!やっつけちゃえ!」
子供の声が聞こえた。
アレンとガムジン将軍の一騎打ちが始まる。ガムジンが叫ぶ。
『小僧!決着を付けてやる!』
アレンの目が、きっ!とガムジンを捉え、ガムジンに立ち向かっていく。
『待てアレン!下がれ!』
仲間たちはアレンを制しようとするがアレンは乗っている馬に走るように命じる。そして、ガムジンの槍と、アレンの剣が交差する。
アレンの腕を槍がかすめるも、ガムジンの腕にもアレンの剣の一閃が、傷を負わせる。
『将軍を守れ!』
敵兵が将軍に駆け寄ろうとするが、ガムジン将軍は言い放つ。
『手出し無用!』
その声に観客たちが声を上げた。
「見上げた奴だぜ!」
魅力ある良い敵キャラは、主人公を引き立たせ、それが作品に厚みを持たせる。ガムジンよ、お前は良い仕事をしているぞ。
さて、ちらりと横を見ると、お姫さまは手をぎゅっと握ってスクリーンに釘付けのご様子。
スクリーンはさらに熱く激戦を映し出す。アレンの剣とガムジンの槍が何度もぶつかり合い、
少しずつアレンが後退していく。アレンの左肩に槍の一撃が突き刺さる。
『十年早かったのだ、小僧!我が前に立ちはだかるのは!』
『早かろうと何だろうと、今あんたを倒さなくちゃいけないんだ!』
城壁からシャルリーゼが叫ぶ。
『アレン!』
『守りたいんだ!』
叫ぶアレン。その熱い瞳を見てガムジン思う。
『お前とは、違う形で会いたかった!』
シャルリーゼとアレン。若い命を奪わなくてはいけないことに、少し迷いが出る。しかし、ここで討ち取らなくては、自軍にとってのちの憂いになりかねない。
『惜しいが、やむなし!貴様の名は忘れん!』
ガムジンが必殺の一撃を繰り出そうとした瞬間である。ガムジンの馬が、倒れていた敵兵の血で滑り、少しバランスを崩した。それを見て、アレンは一気に前に出ると同時に、馬から飛び跳ねる。そして、大きく振り上げた剣を、一気に振り下ろす。
槍の柄で、剣の一撃を受け止めようとするも、アレンの一撃は柄を断ち切り、ガムジンの肩から胸までを切り裂いた。
どうっと地面に倒れるように着地するアレンに、馬上からガムジンが、
『小僧、よくぞ我を討ち取った……、見事だ』
と言葉を残し、そして絶命する。
出血がひどく、体力を消耗したアレンは足に力が入らない。そのアレンを仲間が救出し、城内へと逃げ込む。総大将を失った敵軍は統率を欠き、敗走。
ジーン城のピンチは救われたのだ。
そして、シャルリーザは傷だらけのアレンの元に駆け寄って――
ちゅー。
ほわああああ……。というため息が会場のあちらこちらから聞こえた。
ここにいるほとんどの者が、こんな接吻シーンを大きなスクリーンで見たのはおそらく初めてであろう。
――さて、お姫さまは?
目を潤ませて口元を手で覆い、アレンとシャルリーザに熱く純粋な視線を送り続けている。
自分のキス現場を見られたよりも、恥ずかしい。
そして、シャルリーザ姫は、危機を脱したジーン城で、敵に奪われた王都を奪還して、国に平和を取り戻すと宣言し、第二部は終わる。それと同時に大歓声が上がり、大きな拍手が巻き起こり、わたしは再び起こった身震いを抑えることができなかった。
わたしの作品は『娯楽作品』である。作品に触れていた時間を有意義なものだったと思ってもらえることが、わたしの『娯楽作品』にとって、最も大事な核となる要素だと思っている。
どうでしょう、デューワの皆さま。楽しんでいただけましたか?皆さまの娯楽として、受け入れてもらえましたならば幸いです。
「何だよー、もっと見せてくれよー!」
「ああん、アレンさまあー!」
「おれ、もう一回観に来よう」
などなど、様々な声が聞こえてくる。帰って行く観客たちの様子をそっと窺うと、皆満足そうだった。笑顔で母親と手をつなぐちびっ子もいた。
一安心である。
様々な関係者が力を注いでくれたわたしの作品が、デューワの人に受け入れられている。
ほうっと息が漏れた。いやいや、それにしても落ち着かない二時間だった。立ち上がって、ぐっと腕を上げて身体全体を伸ばす。
そんなわたしを、何か言いたげにもじもじしながら、お姫さまが見上げている。 え?なに?そのもじもじ。すげー、ドキドキするんですけど?
「んっと?あ、どうでした?大きなスクリーンは」
「え?ええ、すごく楽しませていただきました……。それで、あの……」
「はい?」
「こ、こ、これから、何かご予定はありますか?」
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