第二部:第一章 新たなる刺客現る!
「一撃――必殺!!」
灰色に染まった〈決闘空間〉の中、俺が放った拳が強固な装甲を貫いた。
鋼を引き裂く感触と共に拳が相手の奥深くまで突き刺さったかと思うと、相手の内部で激しい輝きを放ち――そして大爆発を起こす。
「ふう……これで終わりか」
『さすがです、徹さん!』
爆発の直前、大きく跳んで離れた俺が息を付くと、脳内にハイテンションな声が響く。
『ダイオウグソクムシという新たな形態を獲得した新型巨鋼獣を、こうもあっさりと倒すとは!』
「いや、あいつなんかじっとして動かなかったんだが……」
『これこそが正義の力! 不断の努力と私たち二人の絆、その二つが組み合わさって生まれる純然たる奇跡であり、やはり私たちはスーパーベストマァァァァァァッチな組み合わせと言えるでしょう!』
ブラスが脳内でえっへんと胸を張る。出会った時からまるで変わらないその様子に、俺はブラストールになったまま文字通り巨大なため息をついた。
俺がこのハイテンションな正義馬鹿超機生命体・ブラスと出会い、そして巨大ヒーロー・ブラストールへと無理矢理変身させられてから二週間ばかりが過ぎた。
巨大隕石で地球をぶっ壊そうとした自称ラスボス〈星を砕くモノ〉との戦いの後も、大量の巨鋼獣やら正義とおせっかいに満ちたブラスの暴走やら、あと国家権力の職務質問と連行やら色々とあったが、まぁこうして何とかやっている。
「しかし、日曜日ぐらいはゆっくり休ませろよ。なんで朝九時ぴったりに出てきたんだこいつは」
『それがお約束ですから仕方ありません!』
「スーパーなヒーロータイムに文句を言いたくなるような発言はやめろ。はぁ、まぁいい。終わったならさっさと帰るぞ。今日は昼からタイムセールがあるんだからな」
ため息と一緒に今日の予定を思い出す。
今日は数日前から狙ってたタイムセールの日だ。正義馬鹿の宇宙人とか悪役馬鹿の宇宙人とか居候が二人も増えたので、我が竜ヶ崎家の家系は大変なのである。
「とにかく、今日の特売の鶏肉とキャベツは絶対に逃すわけにはいかねぇ」
『おでかけ……いえ、補給任務ですね! では、私も帰ったらさっそく準備を!』
「お前はお留守番だ」
『ええっ!? ど、どうしてですか!?』
「自分が駄々をこねた食玩の数を思い出しながら言って見ろよ」
まるで、目の前で散歩用のリードを仕舞われた子犬のように愕然とするブラスを無視すると、俺は帰るために変身を解除しようとする。
『…………あれ?』
「なんだ? 新しい食玩なら買わないからな」
『ですが徹さん、最近は食玩といえども素晴らしいクオリティを誇っており、それは我々のような人物が諦めずに投資を続けてきた結果で――ではなく! いえ、なんか今誰かに見られていたような気がして』
「見られてた?」
その言葉に俺は周囲を見渡した。
俺たちブラストールが闘いで周りに被害を出さないために作り出すこの灰色の世界――〈
「……誰もいないぞ? またブラスタが『勝利した正義の味方を見つめて不敵に笑う悪役ごっこ』でもやってたんじゃねぇのか?」
『ううむ、ブラスタの気配とはまた違ったような感じなのですか……やはり気のせいだったのでしょうか。もう全てのセンサーにも光学観測にも私の勘にも引っかかりませんし』
「そんな世界一信用できないものに頼るな。おら、さっさと変身解除して帰るぞ」
『…………はい』
まだ何となく納得できないブラスを急かすと、俺たちは灰色の世界を後にした。
「……あれが、超機生命体……」
巨大なモニターに映し出されていたその姿を前に、少女は呟いた。
つい数分前、こちらを振り向いた時の光景が脳裏に蘇る。
「まさか別位相の虚構的仮想空間から、しかも一億キロ以上も離れた場所にいるわたしの視線を感知するなんて……」
静かに鳴動する巨大な宇宙船の中、少女はごくりと喉を鳴らした。その頬を汗が伝う。
いや、驚くべきはそれだけではない。次元の位相をずらし、現実の影ともいえる異空間を自在に作り出す能力。無機物でも有機物でもない、まったく新しい超生物に自らを変身させる力。
そして何より――この惑星どころか、太陽系そのものを滅ぼしかねない圧倒的な破壊力。どれをとっても本部どころか銀河中の組織全てが大騒ぎになりそうな話だ。
「生命体の頂点にしてこの宇宙で最も古き存在……本当に実在していたなんて」
『そうだ。そしてこの銀河を滅ぼしかねない存在でもある』
不意に背後から低い声が響いた。
少女が振り返ると、暗い宇宙船内に輝きが現れ、青い肌を持つ幾つもの勲章を付けた自らの上司の姿が現れる。
「長官」
『幾度も銀河の歴史にその存在が記され、そしてその度に数え切れないほどの厄災と滅びを振り撒いてきた最強にして最悪の生命体……だが、その恐怖もここで断ち切られる。そうだおす、
「はい」
滅多に呼ばれることの無い自分の正式な名前を呼ばれ、少女がピンと背筋を伸ばす。
『改めて君に指令を与える。内容は――分かっているな?』
「準備は既に整っています」
『そうか。さすがジャッジメンタリアノスの名を継ぐだけはある』
その言葉に少女が僅かに身を固くする。
だがそれは緊張ではない、自らが背負ったその名前と使命……その重さに対する決意の証だ。
そう、相手がどれほどに強大あろうとも自分達がやるべきことに変わりは無い。
何故なら自分達は――。
「お任せください。この銀河に完全な秩序と平和をもたらす―ーそれが太古より銀河の全てを守ってきたジャッジメンタリアノスの血筋が持つ使命であり、そしてわたしたち銀河連邦の役目なのですから」
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