第10話 強敵現る! そして明かされる真実――!?
長い叫びが灰色の空に響くと俺たちは輝きに包まれ――鋼と命が融合した巨大ヒーロー、ブラストールへと変身した。
そして廃墟になった商店街へと降り立つと、上空を旋回していた強化巨鋼獣が三つの首で咆哮をあげ、俺たちに向かって次々に爆弾を投下してきた。
「今回はいきなりだな!」
雨のように落ちてくる爆弾に、ブラスがディフェンスフィールドを展開した。爆弾はそれに触れた瞬間、まるで小さな星のように閃光を発して大爆発を起こす。
『光子爆弾ですね。しかも新型とは……やはり強化型です!』
「嬉しそうに言うんじゃねぇ!!」
新型らしい爆弾の雨をかいくぐりつつブラスを怒鳴りつけると、俺は強化巨鋼獣に向かって思いっきり跳躍した。だが、幾らブラストールの跳躍力でも遥か上空を飛ぶ強化巨鋼獣までは届かず、そのまま地面に落下していく。その姿を見た強化巨鋼獣は、三つの首でまるで馬鹿にするように咆哮をあげた。
「あの野郎……! くそ、何とかしねぇと……」
『徹さん……私はあなたに重大なことをお伝えしなければなりません』
もう一度強化巨鋼獣を見上げたその時、不意にブラスが真剣な声で――告げた。
『私は――飛べないのです!!』
「パワーアップ以前の問題かよ!?」
『ああっ、何と言うことでしょう! 私にはジェット●クランダーも重力低●装置もバード●ックウェーブもシャン●クも無いのです! こんなことなら最初のデザインを決めたときに翼をつけておくのでした!』
「翼が無いと空は飛べないのか?」
『当然です! 翼のデザインは伊達ではないのです!』
「光の巨人は翼無しで飛んでたのにか?」
『…………』
「…………」
沈黙する俺とブラスとブラストール。
そして強化巨鋼獣は、そんな俺たちに容赦なく爆弾の雨を降らせてきた。
『くっ、こんなことで言い争いをしている場合ではありません! 早く何とかしなければやられてしまいます!』
「主にお前のせいでな。おい、ブラス」
『なんでしょうか!? この状況を打開するには何とかして空を――』
「空間制御とかで飛んだようにできないのか?」
『………………………………………………あっ』
しばしの沈黙の後、小さな呟きが聞こえた。
「お前、いい加減にしないとマジで怒るぞ……?」
『痛い痛い痛い!? もうかなり怒ってますよね!? すいませんごめんなさいこれでも真面目にやってるんですぅぅぅぅぅぅっ!!』
涙声で言い訳するブラスをひとしきり脳内で折檻すると、俺はもう一度確認した。
「それで、どうするんだ?」
『ううう……もう一度ジャンプしてください。私が徹さんの動きをサポートします!』
「……信用できるんだろうな」
『当然です! 私が徹さんの期待を裏切ったことがありましたか!?』
「ねぇな。期待したこと自体が」
『そんな馬鹿な!?』
心底意外そうな声を上げるブラスを無視すると、俺は強化巨鋼獣を見上げて呟いた。
「とにかく、あいつを倒してさっさと帰るぞ。これ以上遅くなったら姉貴に折檻される理由が増える」
『え、もう既に折檻される理由があるんですか?』
その質問も無視すると、俺は全力で跳躍した。その瞬間、空中に輝く道のようなものが現れ、強化巨鋼獣に向かって一直線に伸びていく。
『ディフェンスフィールドを空中に展開しました!』
「ゲームみたいだな」
とはいえ、いきなり背中に翼が生えて「飛べ!」と言われるよりはずっと分かりやすい。俺は輝く道を踏みしめると、その先にいる強化巨鋼獣に向かって全速力で走った。
『有機生命体の特徴を持つ我々の瞬発力は伊達ではありませんよ!』
自慢げにブラスが叫ぶ。やがて強化巨鋼獣に追いついた俺は鋼の拳を握り締めると、思いっきり殴りかかった。
「オラァッ!」
その三つの頭目掛けて渾身の一撃を振り下ろす。だが強化巨鋼獣はその大きな翼で羽ばたくと、急激に角度を変えてするりと俺の拳を回避した。
けどな――それぐらい、こっちだって予想してるんだよ!
「こっちが本命だ、くらいやがれ!!」
瞬間、身体を捻った俺は強化巨鋼獣に向かってブラストバーンを発射した。胸から伸びた派手な色のビームが命中し、三つの首が同時に悲鳴を上げる。
「どうだ!」
『いえ、まだです!』
ブラスが警告をあげる。その言葉通り、強化巨鋼獣はすぐに体勢を立て直すと、今度はその鋭い爪と三倍に増えた牙を輝かせてこっちに飛び掛ってきた。
「接近戦なら上等だ!」
俺は足元の道を踏みしめると強化巨鋼獣を迎え撃った。連続で繰り出された爪を腕の装甲で防ぎ、噛み付こうとした首を頭突きで迎撃する。
だが、強化巨鋼獣はその痛みをものともしないかのように吼えると、残る二つの首でガブリと喰らいついてきた。左右の肩口でバリバリと装甲が砕ける嫌な音が響く。
「いてぇんだよっ!」
俺は二つの首をそれぞれ掴んで引き剥がすと、そのまま相手の腹に向かって連続で膝蹴りを叩き込んだ。その痛みと衝撃に強化巨鋼獣が暴れだすと、今度は手を離して三つの頭をまとめて殴り飛ばす。
『――っ!? 徹さん、翼が!』
ブラスが叫んだ瞬間、まるで刃のように鋭い翼が俺に襲い掛かった。咄嗟に反応できない俺の代わりに、ブラスがディフェンスフィールドを展開して攻撃を弾き返す。
だが強化巨鋼獣はその隙に後ろへ下がると、俺たちが作った道を逆に踏みしめて全身で体当たりを仕掛けてきた。三倍は違うだろう体重差に俺たちはディフェンスフィールドごと弾き飛ばされ――道の外に落っこちた。
『あっ』
「どわあああああああああっ!?」
跳躍で落ちる時とは違う、ふわっとした嫌な感覚が全身を包み――俺たちはあっという間に地上へと落下した。誰もいない店長の玩具屋を押し潰し、ついでにその周囲数百メートルを巨大なクレーターへと変える。
『さ、さすがパワーアップイベントの敵、手ごわいですね……!』
「そんなことができるならさっさとしやがれ……」
痛みに兜の奥の顔をしかめつつ、俺は瓦礫をどけて起き上がった。
強化巨鋼獣はさっきの攻撃で警戒したのか、さっきよりもずっと高い雲近くの高度まで飛び上がると、またあの爆弾で攻撃してきた。咄嗟にブラスがディフェンスフィールドを傘のように展開して身を守る。
「くそ、見た目通り接近戦も強いな……本当に強化型ってことか」
『はっ……!? そうか、分かりました!』
「あいつの弱点でも分かったのか?」
『これはパワーアップイベントではなく必殺技追加イベントだったんです! 襲い掛かる新たな敵、降りかかるピンチ! ですが私たちの諦めない心と熱い絆が奇跡を呼んで新たなる超必殺技を――!!』
「さて、どうすっかな。一撃必殺で殴ろうにも、警戒して寄ってこないだろうしな」
『……せめて突っ込みぐらいいただけるとありがたいのですが……』
脳内に寂しそうな声が響く。虚しくなるならやるんじゃねぇ。
見える範囲が爆弾で次々と更地にされていく中、俺は必死に考える。巨大鮫みたいに投網を投げる方法もあるんだが、あいつの速度だと投げた瞬間に逃げられちまう。とにかくあいつの高度と速度を一瞬でも超えて一撃必殺を叩き込めれば……。
『やはりここは新必殺技です! そして見事に一撃を決めて、かっこいい爆発を背負ってポーズを取りましょう!』
「爆発したけりゃその辺で好きなだけ浴びてこい。そもそも勝てなけりゃポーズもくそも…………爆発?」
その言葉にふと周囲を見渡した俺は、脳内でブラスに問いかけた。
「なぁ、こんな事ってできるか?」
『ええと、可能だと思いますが……結構危険ですね』
「姉貴の折檻よりはマシだろ。んじゃ、合図したら頼むぞ」
『わ、わかりました!』
ブラスが答えるのと同時に、俺はディフェンスフィールドを道に変形させると再び空を駆け上がった。爆弾が次々と近くで爆発するが、その対処を全部ブラスに任せて俺は一直線に道を駆け抜ける。くそ、爆竹が降ってくる中を走ってるみたいだ!
「よし、捉えた!」
道の先に三つ首の獣が見えた。だが、俺たちに気付いた強化巨鋼獣は爆弾を落とすのを止めると、警戒するように再び上空へと逃げていく。
「ブラス、今だ!!」
『はいっ!!』
ブラスの返事に俺は足元に意識を集中した――瞬間、足の裏で何かが大爆発した!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
その強烈な爆発に持ち上げられた俺は物凄い速度で飛び上がった。そして上昇していた強化巨鋼獣を一気に追い越すと、その先にあった雲を貫いてその上へと出る。ブラスに頼んで足元で大きな爆発を起こしてもらったんだが……正直、かなりビビったぞ。
それでも何とか体勢を整えると、俺は強化巨鋼獣が上がってくるだろう場所を見つめて右手を握り締めた。腕の装甲が展開し、必殺の輝きを纏う。
『2、1――徹さん、今です!!』
「行くぜ――一撃、ひっさぁぁぁぁぁぁぁぁつっ!!」
ブラスが合図した瞬間、俺は拳を振り下ろした。その拳が雲を吹っ飛ばした瞬間、ちょうど上昇してきた強化巨鋼獣が頭から拳に勢い良く突っ込んだ。
鋼を潰す嫌な感触と共に強化巨鋼獣の身体が真っ二つに引き裂かれ――左右に分かれた身体がその勢いのまま上空へと飛んで行く。やがてその姿が豆粒みたいに小さくなったかと思うと……遥か上空で金色の大爆発が起こった。
「よっしゃあっ!」
重力に引かれて落下しながら俺はガッツポーズを取った。そして滑り台のようにディフェンスフィールドを地上へと延ばすと、その上を滑り降りる。
『やりましたね、徹さん! 大勝利です! さぁ、勝利のポーズを!!』
「今回はさすがにひやっとしたな」
無視されたブラスの泣き声を聞きながら、俺は愛しい地面を踏みしめてほっと息をついた。足元で爆発起こして大ジャンプするなんてまるでゲームみたいな手段だったが、何とか成功してよかった。
「けど、マジであいつ強化されてたな……」
ボロボロになった全身の装甲を眺めながらぽつりと呟く。実際、ここまで調子良く倒してきてはいるが、このまま相手がパワーアップし続けたらどうなるか分からない。負けて逃げるだけならまだいいが、それもできないような奴が現れたらその時は――。
『大丈夫です、私たちは決して負けません!』
「お前な……勝手に人の頭を覗くなって言っただろうが」
『覗いていません。ですが、徹さんがどうも心配そうなご様子でしたので』
「こんな姿で分かるのかよ」
『分かりますよ。だって、いつも見ていますから!』
ブラスが心底明るい声で告げた。お世辞でもなんでもない、どこまでも本心だと思わせる爆弾のようなその言葉に、俺は一瞬言葉を詰まらせる。
『その私が断言します。私と徹さんが力を合わせる限り、この先どんな悪が出てきたとしても決して負けることなどありえません!』
「…………宇宙生物は能天気でいいよな」
『私は宇宙生物ではありません、超機生命体です。そもそも、私たちが恐れる必要など何もありませんよ』
「お前が正義の味方だからか?」
『徹さんがいてくれるからです!』
――もう一度、爆弾が落ちた。
その威力に黙り込む俺を無視して、ブラスはそのまま脳内で喋り続ける。
『どんな時でも諦めず、知恵と勇気をその手に勝利への希望を持ち続ける……まさしく徹さんは正義のヒーローです! そんな徹さんがついていてくれるのです、私たちが負ける理由など真空宇宙における素粒子ほどもありません! さぁ、そういうわけで今日も元気に勝利のポーズと名乗りを上げましょう! あれ? 徹さん? 徹さーん!?』
ブラスが脳内で呼びかけるが、全力で無視する。
……変身しててよかった。こんな真っ赤になった顔をブラスに見られたら、なんて言われるか分かったもんじゃねぇ……。
「ったく……この無自覚馬鹿生命体が」
『あ、あれ? ここは私が褒められる場面では無いでしょうか?』
「褒められたかったら、もっと常識を学べ」
『そんな!? 私は常識も非常識も大丈夫な超機生命体だと自負しているのですか……まぁいいでしょう。悪の宇宙人を倒すまではまだまだ時間が掛かるでしょうし、私の利口さと優秀さをじっくりと見てもらって、いつかは徹さんに頭を撫でてもらうのです!』
「理想が高いのか低いのかわかんねぇよ」
『――お気に召したようで何よりだ、母よ』
その時――不意に、誰かが脳内に割り込んだ。
『我々も努力というものをした甲斐があったぞ、母よ』
『な、なんですかこれは!? 量子通信に割り込みなんて……一体どこから!?』
「あそこだ!」
俺は廃墟の一角を指差した。崩れかけたビルの上、その先端に黒いローブを纏った人影が佇んでいる。
『だ、誰ですかあなたは!? 一体、どうやってこの空間へ……』
「我々とアナタは同じモノだ。だから同じ隔離空間に侵入できる」
今度は口を使って黒ローブが答える。その余裕綽々な態度も気になるが、俺にはそれよりも気になることがあった。
「母って……お前、子持ちだったのか?」
『違います! 私はあんな人も娘も息子も孫だって知りません! あなたは一体誰ですか! あ、悪の宇宙人ですか!?』
「悪の……ああ、そうだ。私が悪だ、母よ」
僅かに震える声で叫ぶブラスに、自称悪の宇宙人は満足げに頷いた。
「当初の計画ではもっと多くの時間をかけるつもりだったが……少々事情が変わってしまった。母よ、我々は今こそ最終作戦へと移行する」
そう言うとそいつは黒いローブをばっと脱ぎ捨てた――って、その姿は……!?
「ブラス……!?」
その姿に俺は思わず絶句した。それは紛れもなく人間状態のブラスだった。
だが、まったく違う。白い髪は闇のように黒く染められ、ポニーテールもツインテールになり、その服装も黒いレザーに鋲を打った際どいボンテージになっている。
そして何より――いつもハイテンションに笑っているはずのその顔は、感情が全部無くなっちまったかのように無表情だった。
「……やっぱり、お前の家族とか親戚とか従兄弟とかそういうのじゃないのか?」
『あんな知り合いも家族も親戚も従兄弟もハトコも私にはいません! おのれ悪の宇宙人、私の真似をして一体どうするつもりですか!? もしも徹さんとの仲を引き裂こうと言うのならそれは無駄です。私と徹さんはダイヤモンドよりも固く、そして美しい絆で結ばれているのですから!!』
「実はダイヤって割れやすいんだよな。分子が並んでるとかで」
『何故、今ここでその豆知識を!?』
脳内で物凄いドヤ顔をかましたブラスに何となく言いながら、俺は黒いブラスに向かって身構えた。
「おいこら自称悪の宇宙人。こいつの言ってることはともかく、お前がこの茶番の黒幕だって言うなら丁度いい。ここでぶっ飛ばして全部終わらせてやる。言っとくがブラスの真似をしても無駄だからな、むしろ殴りやすい」
『何故に!?』
「それはできない、融合者よ。我らにはもっと相応しい決闘場所がある」
そう言って黒いブラスが手を掲げると、空中に映像が現れた。
そこに映し出されているのは――宇宙に浮かぶ青い星。
「これって……」
「現実の地球だ。ちなみにリアルタイムだ」
律儀にそう言うと、黒いブラスは宇宙空間の一点を拡大した。地球の上、確か大気圏だとかそれぐらい高い場所に、何か島のようなものが浮かんでいる。
『これは……隕石です! それも直径十キロは下らない超大型サイズの……もし、あんなものが地球に落下したら……!』
「この星は滅びる。確実に」
淡々と告げられたその言葉に、俺たちは思わず絶句した。その姿に黒いブラスは無表情ながらどこか満足げに頷くと、その両手を大きく広げて宣言した。
「我々の正式名称は〈
「なっ――!?」
「より正確には地球を破壊し、全ての情報と構成物質を頂く。それが我々の最終決戦だったはずだ。そうだろう、母よ」
『な、何故私に聞くんですか!?』
急に訪ねられたブラスが驚く。だが、目の前の黒いブラスは表情一つ変えずに答えた。
この茶番みたいな物語の真実を――いともあっさりと。
「当然だ、母よ。この筋書きを描いたのはアナタなのだから」
『………………………………え?』
さらりと投げられたその言葉に、俺と――そしてブラスが言葉を失った。
『私が……描いた?』
「どういうことだ……?」
「言葉の通りだ、地球人よ。この地球で起きている全ての流れを描いたのは我々ではなく、母だ。そうだな、より分かりやすい言葉に直すならば、母は――」
目の前の黒いブラスは――ブラスタは無表情のまま、まるで商品の説明でもするかのような淡々とした口調でこう告げた。
「全ての黒幕だ」
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