そのへんの春。

胡麻

episode1

高校1年の11月

ぱっとしない季節ではあるけど

私は恋をしたらしい。

正直、私は恋をしたことを認めてはいない。

友人がそういうから、きっとそうなのだろうというわけ。

そうやって受動的に生きてきた私は、自分の感情を理解する力に乏しい。

これもまた、友人が言うには

恋をすると女子は綺麗になる。あんたも去年よりずっと綺麗になったよ。と。

そりゃあ、高校生にもなれば誰でも多少は変わるだろうと思ったのだが

そのおかげで彼からもこんなことを言われたのを覚えている。

似合わない化粧をするもんじゃない。

私はもちろん彼の顔をひっぱたいた。

今考えてみれば、たしかに似合わなかったと思わないでもないけれど。

友人は、まめで私と彼をくっつけようと必死ではたらきかけていた。

何しろ、私の初恋だったらしいから。

その甲斐あってか、何となくお付き合いをすることとなった。

彼は意外にも、部活終わりに正門で待ってくれていた。

その日のことはあまり覚えていない。ただ、ぼんやりと歩いていたら、いつの間にか家の前に着いていた。

次の日もその次の日も、一緒に帰った。

他愛のない会話をするにあたって気付いたことがある。

彼はとても不器用で、何となく私と似ているということだ。

そして、そんな不器用な彼が初めてプレゼントをくれた。

クリスマスだった。

付き合って1ヶ月だというのに、指輪をくれた。

馬鹿ね、と私が笑うと

彼は大真面目な顔でこう言った。

俺はこんなにも一緒に過ごしていて退屈な女は初めてだった。でも、こんなにも離れると不安になる女も初めてだ。

いつの間にか、彼の不器用さが愛おしさに変わっていた。


今ではあんなに体も性格も丸くなったけど、あんたのおじいちゃんはそんなかわいい人だったのよ。

くしゃっとしたいたずらっ子のような笑顔で祖母は笑った。

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