【PV1000ありがとうございます】けもみみは伊達じゃない

春瀬由衣

プロローグ

 ……ふわふわ。


 ピクッ、もそもそ。


 歌歌いのカナリアを二つ名に持つミクは、意識していないのに勝手に動いてしまう自分の耳を手のひらでぺちゃんこに押さえ込んだ。


「ーーんもう」


 ミクの耳は柴犬のように立ち、音のある方へくるくると忙しく回る。


「せわしない子ね」


 ミクは忌々しげに、自分の耳に悪態をついた。


「どうしてあたしって、ケモノなのかしら」


 母が可愛いと褒めてくれたミクのケモ耳は、本人にとっては酷くコンプレックスを駆り立てるものであるらしい。


 それもそうである。ケモノの耳を持つ者は、この国では疎外される。元々この地域にけもみみの人間はいなかったため、移民であることを象徴する身体的特徴として数えられるのだ。


 しかし、現代においては混血も進んでいる。混血児にはけもみみの者とそうでない者がおり、前者は依然として差別の対象になる一方、後者には社会的に成功する者もいた。


 成功者の親族になりたいがゆえに、けもみみでない子を産もうと移民の子は増える一方で、けもみみであれば両親に見限られ捨てられることもあった。その証拠に、ストリートチルドレンはほとんどがけもみみで占められている。


「どうしてけもみみは、いい職につけないのかしら」


 ガンダーラ国には様々な民族が暮らしている。しかしそれ故に排外思想は根強く、ケモ耳をつけた「原始の砂漠」の向こうからの移民は、ろくな仕事に有りつけない。だから、けもみみの子どもはスラム街に生きざるを得ず、時に暴徒化し、犯罪に手を染める者も多かった。


 差別が先か、移民犯罪が先か。それは両者にとってあまり意味のないことだった。そして生きるために両者は争い、さらに憎悪を募らせる。


 そんな街で、ミクは今日も、歌歌いとして今日一日を生きる金を稼ぐ。

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