安寧の蜜

春瀬由衣

正体不明の”国”

プロローグ

ミナ=ウェンドーの手記

 二人の背が坂に見えた。それはやがて遠くなり、私を忘れたように向こう側に消える。昔からいつも一緒だったはずなのに、まるで私を忘れたようで、私は手を伸ばす。


 死にたいときに死ねない辛さは誰にもわからないだろう。生も死も自分で決められるから生に邁進できるんだろう? 失ったことのない当たり前を失うことは、幸せな人にはわからない。

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